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手をかけないのに満足 ブルガリア家庭の朝食風景

何軒かのブルガリアの家庭でお世話になった。いろいろな料理を一緒に作ったが、どこの家庭でも、"手をかけない朝食"がとってもとってもおいしかったのが忘れられない。

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世界中の家庭を訪れていて、昼食や夕食はその国らしいものを手作りしていても「朝は忙しいから買いおきのビスケットとコーヒー!」ということはけっこう多い。地域を問わず貧富を問わず、忙しい朝食は簡素化・画一化しやすく、期待していると拍子抜けもするけれど、日本人だって朝からご飯とみそ汁と焼魚なんてなかなかしないわけだし、今の世の中当然のことでもある。

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スーダンではビスケット、キューバではパン。毎日朝は同じものが続いた。

だからこそ、ブルガリアの朝食はうれしかった。ただ出すだけなのに「手作り」なのだ。いくつか紹介したい。

スヴェトラさん宅〜自家製ジャムと職人のハムチーズ

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奥に並んだ5本の瓶は、家の周りでとれた果物たちでつくった自家製ジャム。ラズベリージャムは、さらさらのシロップに実がごろっと入っていて、まるで木からとってきた実を食べているよう。

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「わたしが好きなのはシプカ(黒い実)なんだけどねえ。今年は全然とれなかったんだよ」。84歳になるおばあちゃんは、濃厚なシプカジャムをパンに塗ってもりもり食べる。シプカの瓶だけ減りが早いのが、おばあちゃんの達者さの証だ。

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ハムとチーズは肉屋さんで買ってきたもの。職人さんの手作りで、分厚くスライスしたハムは、スーパーのぺらっとしたものとは全くの別物。ハムって工場で作られる加工品と思いこんでいたけれど、大昔からの保存食だったことを思いだす。切っただけなのにすごい満足感。人の手で作られた食べ物は力がある。

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クレミさん宅〜自家製ヨーグルトと自家製リュテニツァ

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ブルガリアといえばヨーグルト。最近は買ってくる人が多いというけれど、緑豊かな田舎にあるこの家庭では、近所の牛飼いから買う乳で自家製している。あたためた牛乳を種菌とともに素焼きに入れて、待つこと数時間〜1日。素焼きの容器は余分な水分を吸収して、適度に凝縮してくれる。新鮮な酸味がある自家製ヨーグルトは、朝から体を元気にしてくれる。
「健康の秘訣は孫たちがまわりにいることとわが家のヨーグルト」74歳になるおばあちゃんはにっこり笑む。

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パンには自家製リュテニツァ(パプリカで作るペースト)と白いチーズをのせる。ブルガリアの風土から生まれた土地そのもののような安定のコンビネーション。火も水も使わず、あっという間に立派なオープンサンドができた。

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ツヴェティさん宅〜おかあさんの手作りジャム

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首都ソフィアで働く30歳ツヴェティさんには、保存食を自分で作る時間はない。それでも彼女には実家から送られてくる瓶詰がある。台所の戸棚や冷蔵庫には様々な果物のジャムが並ぶ。パンやヨーグルトにかけて朝食にする。

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「私のお気に入りはいちじく。実がごろっと入っていて、ジャムを塗るというよりキャンディを食べているみたいなの」。忙しい朝の時間でも、そういう小さな楽しみを持てるのはなんだかいい。

「出すだけ」なのに充実する朝食の秘密

どの食卓も、朝の準備に時間はかかっていない。でも実は、瓶詰にしたり発酵させたりすることで、準備する時間をずらしている。そうして作られた朝食は、あるものを出してきただけなのに「人の手で作られている」という安心感と力強さがあり、朝からなんだか力がみなぎる。

保存食には「食べ物を保存しておく」だけでなく「忙しいときの食卓を充実させる」という効用もあるんだなあということに、ブルガリアの朝食で気づかされた。日本にも漬物という素晴らしい文化があるし、近年人気の「作り置き」は冷蔵庫が普及した現代の保存食とも言える。ぜんぶ手作りは無理だけれども、忙しい日常だからこそ、何か一つ「いつでも取り出せる手作り」があるってなんとも心強い。

…などということを、祖母の奈良漬で白ごはんを食べながらふと思い出して考えたのだった。東京に来てから一層、実家の漬物が大切なものになった。



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