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『時速60㎞の帰り道』
FM802が流れる車内で、過ぎ去る街灯を見上げていた。
ほんのりと漂う線香の臭いが身内の死を語る。
「にしても、みっちゃんが亡くなるとはね」
母が言った。学校を休めたのは良かったけど、制服を着て、長時間椅子に座っていなきゃいけなかったのは辛かった。
「みっちゃんってどういう関係やっけ?」
父が言った。気になることを聞いてくれた。
「私の父の妹」
何番目の?って聴きたくなったけど、FMの曲を口ずさむのに忙しかった。みっちゃんの死因はあまり詳しく聞かなかったけど、トイレで血を吐いて倒れていたらしい。
それを後から教えられたせいで、私は何も知らずにそのトイレを使ってしまった。鉄の匂いがした気がしたのは情報操作だろうか。
「家まであとどんくらい?」
早く制服を脱ぎたくて、尋ねてみた。
「15分くらい?何、トイレ?」
事故現場で行ったから大丈夫。と言うには不謹慎過ぎるので、飲み込んだ。
「ちゃう。お腹すいた。」
死人を見てもお腹が空くのは生きてるような気がした。
「どっかよる?」
父の提案は喪服を着ているという理由で却下された。
喪服の客が王将でラーメンを啜っているのを想像して、辞めといた方が良いと私も思った。もう少し、死を悼む気持ちを持った方が良さそう。
それでも私のお腹は正直で、腹の虫が鳴いた。
結局ドライブスルーでハンバーガーを購入し、サイドのポテトをつまみながら帰ることになった。さっきまで線香の香りがした車内は、いつの間にか油物の匂いで上書きされて、会話も明日からの話に変わった。日常に戻った瞬間だと感じる前に私はすっきり白ブドウに氷が入っていることを母に嘆いた。