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買収断念。でも成約より嬉しい言葉|M&Aアドバイザーのつぶやき
こんにちは。かきもとみさです。私は世の中に少ない女性M&Aアドバイザーとして活動しています。
「買収断念」と決断
先日、とある案件で、買手候補だった企業の役員から正式に「買収見送り」の意向をいただきました。
まだ基本合意にも至っておらず、残念ではあるもののそこまで費やした工数が多くて「もう取り返しつかないよ!」という状況でも全くありませんでした。
それに、海外が絡んでいたこともあり、まだまだ新型コロナ情勢も不安定なこともあったのでお見送り判断は「仕方なし」とも思いました。
ただ、買手企業の社長としては、本当に悩んで悩んで、悩みぬいた上での決断だったようで、様子を伺ってみると、こちらが思っている以上に「売主に申し訳ない」という気持ちが強かったように見えました。
M&Aアドバイザーとして何件も案件を経験していると、お見送りの意向をもらう方が多いモノですし、それにM&Aというのはそもそも買手にメリットがあれば実行する話であって、たとえトップ面談をして売主に期待を抱かせたからと言って、買手が買収する義務なんてありません。
だから、「見送り」意向に対して「申し訳ないなんて思う必要はない」というのが私のスタンスです。
でも、初めてM&Aを本格検討した今回の買手社長当人にとっては、その重さは違いました。
「期待させてしまった」という想いもあるし、心のどこかで「本当に見送りで良いのかな」という迷いもまだ完全に払拭しきれていないようにも見えました。
その姿がなんだか少し新鮮に見えてしまって「自分もずいぶんこのM&Aの世界に慣れたんだな」と思うとともに「やっぱりこの仕事は本当に経営者の重大な意思決定に関わっているし、会社の運命を大きく左右する重要な仕事なんだな」と身が引き締まる想いを感じました。
意外な締めくくり
この買手社長の話を聞いている面談で、最後に思ってもみなかった言葉をいただきました。
「買収は断念したけど、今回、かきもとさんに出会えたことが良かったことです。」
こう言われて素直に嬉しく感じた気持ちはありましたが、案件は序盤で終了してしまったので、ゴリゴリに協議しまくって話を詰めるステージにも至っていなかったため、この言葉には「え!何もしていないのに、なんでだろう!?」と思ってしまいました。
聞くと、M&Aに初めて挑戦するにあたって、ちゃんとしたM&Aアドバイザーに出会いたいと思っていたとのこと。
マッチングサイトで出会うM&Aアドバイザーは「なんか微妙」と感じていたとのこと。
そして、私はアドバイザーの中でも「こちらの立場に立って、一緒に考えてくれるアドバイザーだ」と感じてくれたようです。
その社長は、私が同じ目線で相談ができた要因に、私自身も(1人だけど)会社を設立して、1人でリスクを背負っている立場だから、経営者側の目線からいろいろと共感もしてもらえるし気持ちを汲んでもらえた、と社長は話していました。
ただ、私としては会社を設立していることそれ自体が他のアドバイザーとの違いを生んでいる要素になっているのは、ほんの0.1ミリくらいの差なのではないかなぁと思っています。
おそらく、そもそもの「M&Aアドバイザーの在り方」への考え方がもしかしたら違うのかもしれません。
世の中の大半のM&Aアドバイザーは、組織に属していて、ほとんど法人営業に近く、成約を正解とせざるを得ない環境下で顧客と接しているはずです。
なので、案件がポシャることは「NG」となりがちだし、話が進んでいる買手候補の気持ちが変わって「やっぱりやめます」となったら、きっと「いやいや、ちょっと待ってください!」となるのかもしれません。
私の考えとしては、買手が最終的に「買う」と意思決定する要因にアドバイザーの「押し」が入ってはいけないと思っています。
もちろん、序盤での仮説立てやシナジー創出の面で買手に魅力的に映るように話を展開するのは基本スキルとして必要ですが。
最終的に「買う」と決める意思決定自体は、買手本人から湧き出るものでないといけないと思っています。なぜなら、買収後に力を尽くさなければいけないのはほかでもない買手だからです。
買収後は、うまくいかないことがあっても、他のだれのせいにもしてはいけないのです。すべて自分の責任(買手)だと思う覚悟が必要です。大きな責任が伴うので、「アドバイザーに無理やり押されてやっぱり買うことにした」というのは基本的には起きてはいけないと思っています。(そんなことあまり無いと思うけど・・・多分。)
今回の買手社長さんは、何度も「買う」「買わない」において迷う場面が何度かありました。
そのたびに話をよく聞いて相談に乗っていましたが、私が大事にしていたのはおおよそざっくり、下記の3つでした。
・会社の10年後、20年後の将来を考えたときに必要な買収なのかどうかを真剣に考えること(M&Aを目的にせず手段として熟考すること)
・自分がこれから10年、20年と社長を続ける前提にたったとき、どういう経営者でありたいのかを熟考すること(どういう事業体・組織体のトップでありたいのかを考えること)
・売主の事業承継課題を解決する義務は、全くもって買手企業にはないこと(慈善活動ではないので、そこは切り離して考えること)
もちろん、決して「買った方がいいですよ」とは声かけることはありません。
ただ、「リスクが恐い」と大した理由もなく後ろ向きになったときには、「大きな目的のためにやらなければいけないことなのだとしたらやるべきだ」とは伝えるいうスタンスでした。
このあたりは、もしかしたらコーチングの要素が大きいのかもしれません。
案件をガッツリやったわけではないけれど、自分のスタンスが、すこしでも経営者の心の支えになったのだとしたらこんなに嬉しいことはありません。
自分では「そう思われたい」と意識は全くしていなかったので(←)今回のように嬉しい声をいただいたことは本当に貴重でした。
そして、改めて自分の価値観や哲学に気づかされる良いきっかけになりました。
こういった繋がりから、将来的に良いお仕事に繋がるのではないかなぁと信じています。
これからも自分の信念を大事にしながら仕事に邁進したいと思います。
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