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社会課題を解決していない社会起業家

来週から1週間フランス・パリに行ってくる。高校生の時にバックパッカーでヨーロッパ一周をして以来の2度目だと思う。

今年2018年3月8日の「国際女性デー」にWomen in Businesses For Goodというプロジェクトの一環で、世界各国のメディアが世界中の女性社会起業家の中から22名を選び、そこからさらに約1ヶ月をかけて一般投票を行うコンペティションがあった。私はそこで勝ち抜き、世界一位となった。

パリでの滞在は、その副賞である。パリへの航空券と宿泊施設、そしてWomen’s Forum Global meeting 2018という招待された女性しか参加のできないイベントへの参加権がそこに含まれる。「女性」をキーワードとしたセッションが丸4日間開催されるこのイベントには、日本人はごくわずかで、その一人にJAXAのむかいちあきさんの名前があった。


いつかバレるかもしれない

とある取材で、あのハリー・ポッター作品で注目された女優エマ・ワトソンが答えたコメントがすごく印象に残っている。

私自身は何もできないし、何も実現していない。評価していただいているけれど、いつか本当の私に気づき、何もできないことがバレてしまうかもしれない。それがとても怖い

こんなニュアンスのことを言っていた。

規模も業界も違うけれど、ここ3〜4年はずっとこのような気持ちでいる自分がいる。いつか、バレるかもしれない。今回の「世界一」も、国際的なPRアワードの受賞や、人間力大賞の受賞など、振り返ってみれば多くの賞をいただき、多くのメディア取材を受けてきた。特に何もしていないのに、今もなお取材の問い合わせは週に2,3本あり、ありがたいことにスケジュールが埋まり、申し訳ないながらお断りさせていただくお誘いも増えてきた。

もっと人生をかけ、命をかけて、社会課題解決に取り組む人はたくさんいる。私の周りにももっともっと素晴らしい取り組みをする人たちは数え切れないほどいる。そして彼らはとてもかっこよくて、愛情深い。なのになぜ私なのだろう。いつか、何かがバレるかもしれない。

私は社会を変えていない

最近、インドネシア・バリ島によく滞在するようになった。それは、世界中のチェンジメーカーが集まり、ソーシャルイノベーションの聖地と言われているから。この地域になぜ人が集まるのか、そして彼らはどんな信念で活動しているのか知りたくて、できる限り滞在するようにしている。

バリ島についてはとてもお世話になっているEarth Companyの代表お二人が書かれている朝日新聞での連載が参考になるので是非読んでほしい。

そして行けばいくほど、彼らの目の前の課題を解決することにまっすぐに集中している姿や、社会が変わりゆくその息吹が感じ取れ、またそれらをサポートする団体も彼らと家族のようにチームとなって成果にこだわる姿も見れた。

見るたび、感じるたび、
自分がすごく甘ったるいことを思い知ることにもなる。

たぶん、褒めてもらえる環境ではなく、自分がダメなことを思い知ることができるから何度も足を運んでいるのかもしれない。と、今この文章を書きながら気づいた。

ここまで約6年のソーシャルスタートアップの(6年経つのにまだスタートアップでいるのもどうかと思うけれど、それはここではさておいて。)設立から運営まで行ってきたが、6年かけてもなお社会を1ミリも変えていないと思う。活動しているように見せているだけで、見せるのが上手くて、そして何か活動はしているかもしれないけれど、本来の目的の社会課題解決はまだできていないと思う。

たくさんの人に応援してもらっておいて、100名以上のこれまで団体に関わってくれている仲間たちの大切な時間を使っておいて。そして20代の後半という自分の第二の青春時代を全てをつぎ込んでおいて。

見せるのが上手いから世界一になったって感じてるんでしょ?

そう言葉にして言ってくれた起業家の先輩がいて、言い得て妙だった。

人の人生の選択と視点を変えたこと

ただ最近、私は別のものを変えたのかもしれないと感じることがあった。ここに甘えてはいけないけれど、やらないよりはやっていて良かったと思うことの一つがある。

この前講演のご依頼いただいて伺ったイベントで、この6年活動してきて初めてサインを求められた。小さい頃「池袋ウェストゲートパーク」が好きで、俳優の坂口憲二のサインを真似して作ったサインがあったけれど、それを引き出して使うのもなんだかむずがゆくて、漢字で「田中美咲」と書いた。サインというより署名だ。

いままで防災ってすごく難しくて、わかりづらくて、苦手だったけれど、初めてこんな面白がり方があるんだと目からウロコだった
時代が変わっているのに同じものを続けてしまっていたと気づいた

そう言って、私が掲載された様々な記事や、団体のwebメディアの記事を印刷して、美しくファイリングされた冊子にサインを求めてくださった。

実は私の記事や団体のことを知って、憧れて、会社を辞めてここから学校に通い直すことを決めたという。


すこし救われた気がした。


社会は変えることができていないけれど、一人の人の人生の選択を変えたのか。社会や世界を構成する一人の人の。

私はリーダー以外のリーダーでもある

カミングアウトという本のまえがきに書いてある文章が、私が持つもやもやとした霧を少し晴らしてくれた。アップルのCEOティム・クックが自身がセクシュアルマイノリティーであることを打ち明けた行為に対して、

やることなすことすべてについて、リーダーでなければならないという責任があるのだ。現代のリーダーたちは、そのことを受けいれなければならない。

という言葉が添えられていた。私は自分の組織の代表として一人前でもないのに、この人生においてリーダーとして生きていけているのだろうか。

ただ前述したように、私たちの起こした活動や行為、特に社会課題を解決しているかどうかではない部分で影響され、人生の選択を変えた人がいるということを、忘れないでいたい。

出した結果や成果によって影響されたのではなく、私のライフストーリーや、何かしらのマイノリティであることを伝えたことが誰かの勇気に繋がったのであれば、隠さず伝え続けたい。組織のリーダーではなく、何かしらのリーダーとして。

(ちなみに講演の時にぽろっと口から出た私のことで、何かしらのマイノリティとして共感...と言っていいのかわからないけれど、そうしてくださったこととして、私のことを少し開示すると...
文字を読み続ける集中力がなく、同じことを繰り返す持続力がなく、喘息持ちで、低気圧に弱く、アトピー性皮膚炎があるということ。そして大学生までは今以上に傲慢で、高飛車で、負けず嫌いで、打算的で、上から目線で、人をマウンティングして蹴落としてでも成功を掴むタイプの最低なモテない女子でした。)


私は、社会課題を解決していないのに、社会起業家として評価されてしまった。そしてメディアの編集者のみなさんが敏腕で、これまたとてもわかりやすく記事にまとめ、魅力的に書いてくださる。例えばこれはCNNの記事。

(なんてわかりやすく、そして私のまとまらない言葉をこんな風にまとめてくださるのだろう。)

そして取材されるたびまた新しくお仕事のご依頼をいただき、その仕事のアウトプットができたらまた取材していただき、協力者が増え、また活動が進む。とてもありがたい。でも、やはりずっと、どこか、「いつかバレるかもしれない」そう感じることが続いている。



またまとまっていない言葉をつらつら書いて、自分の書いた文章ですら長くて集中して読めないから、いつものように読み返して修正することなく、たぶんどこかに誤字があるだろうと思いながら「公開設定」のボタンを押して、仕事に戻る。

バレた時に自信を持って、それでもどこかのだれかにとって意味のあるリーダーであれるように。


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田中美咲(社会起業家)
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