魔法にかかるウィーン、曇り空のユトレヒト 交換留学日記 12
2024年11月4日 ウィーンへ
朝、宿泊先のホストマザーが駅まで送ってくれた。
しかし、到着してすぐ水筒を冷蔵庫に忘れてきたことを思い出す。
駅前のタクシーを捕まえて急いで戻り、水筒をピックアップして駅に戻ると、なんとタクシー代90ユーロ。
往復で40分くらいだが、そんなもの……? 高すぎん?
と、思ったが基本物価が高い観光地だと言うことは承知していたし、たぶん地元の人と観光客で値段を変えているのだろうと思い、文句を言わずに支払った。
その後、イェンバッハからウィーンまでの直行列車が、キャンセルになったと判明。
代わりのルートを駅員さんに聞き、ウィーンへ。
ばいばい、チロル。
また来るよ、次は夏か冬に(オンシーズンは宿泊費が引くほど高騰するから泊まれるか不明だけど)。
2024年11月5日 音楽と歴史に浸かる
朝、早めに出発。
ウィーンの中心地は、たくさんの美術館と公園と博物館とが集結している。
今日は「Kunsthistorisches Museum」へ。たくさんの収蔵された美術品の中でもエジプトの壁画に惹かれた。
頭部が並ぶ彫刻の部屋では、大好きな映画「Return to OZ」を思い出した。
オズの国を支配した魔女のモンビが、美女の頭を集めて取り替えるシーンがあるのだ。
生首が並ぶ場面は、子ども向けのファンタジー映画とは思えないほど不気味。
でも、大なり小なり誰にでも存在しうる「きれいになりたい」という欲望を、モンビは素直に手に入れている様子がなんとなく恐怖とは別の、共感めいた心持もあって、よく覚えている。
たぶん、5時間くらいいただろうか。
美術館を後にし、市街地を散歩。
旅の最中は、どうしても炭水化物が多くなるなあ。明日の夜か昼は、野菜を食べたいな。
夜は、ウィーン滞在で一番楽しみにしていた、ヴィヴァルディのコンサート!
学生の特権をフル活用し、事前にディスカウントチケットを購入。
なんと、前から2列目!
演奏中のバイオリニストたちの目の動きまで、はっきり見えた。
指揮者はおらず、コンマスのようなバイオリニストが全体をまとめる。
超絶技巧が続く場面では、動きがゲシュタルト崩壊して、バイオリンが板に、弦が棒に見えて、「なんで棒を板にこする動きだけで、いろんな音が出るんだろう」と間抜けなことを考えた。
低音で同じ音を16分音符の連続で鳴らす節があったときは、演奏者全員で何かを殺りに行くのかと思うほど鬼気迫るものがあった。
音楽の都で聞く、こなれたアーティストたちによる自由な演奏は、本当に贅沢な時間だった。
2024年11月6日 大人の贅沢
昨晩、行列を前に入店を断念した「Cafe Central」へ。
絶対に美味しいモーニングを食べると固く決意し、いざ!
すでに半分くらい席が埋まっていたけど、スムーズに入れた。
一番高いモーニングセットを注文。
入店して2時間くらいかけて、ゆっくり食べた。
観光客が多いけど、ウィーンに滞在するならぜひ一度訪れてほしい。夜は22時まで開いているが、混雑必至。
その後「Sisi museum」へ。
ハプスブルク家に嫁いだオーストリア皇后・エリーザベト・フォン・エスターライヒの一生や宮殿の様子が展示されている美術館。
皇后の愛称が、Sisiというらしい。かわいい。
健康意識が高く、歯は専門医を個別に雇い、メンテナンスを惜しまなかった話や、トレーニングのために自室に懸垂用の鉄棒(当時は木製)を置いた事実が再現されていた。
奔放で、伝統や慣習に縛られるのを嫌うお姫様だったようだ。
近くにあった国立図書館にも寄ってみた。
思ったより本を近くで見れず、少し残念。
また美術館「Albertina」へ。シャガールやピカソ、モネの絵がたっぷり。
図書館も美術館も、正直入場料は安くない。だいたい学生価格でも、15ユーロ前後はする。
でも、Sisi Museumと美術館「Albertina」は、価格以上の見応えがあると感じた。
夕方、少し庭園を散歩し、市街地のカフェでお茶。
2024年11月7日 帰りたくない
朝、インスタグラムで見つけたカフェへ行ってみた。
明るくて広く、店員さんも感じがよかった。
今のところ、オーストリアの人たちはみんな、人あたりがやわらかい。
近くにあったゴシック建築の教会と、たまたま通り過ぎた美術館に寄る。
あとオーストリアに来たのだからシュニッツェルを食べなくちゃと、友人に教えてもらったレストランへ。
レストランの近くのシェーンブルン宮殿にも足をのばす。
宮殿内は、3つのセクターに分かれてチケットの値段設定がされていた。
Sisi Museumで、ハプスブルグ家の絢爛さには満たされたから、中央部分のメインの宮殿だけ中を見て、庭園を散歩した。
今日の夜行列車で、ユトレヒトに戻る。
しかし、19:30発の電車は遅延に遅延を重ね、結局電車が来たのは22:15。
冷えてクタクタになった身体で、やっとこさ寝台車へ。
すると、行きとは違って新しい車両。
しかも、中にはシャワーとトイレ、さらにアメニティ付き!
その上、偶然ほかのお客さんがおらず、なんと貸切!!
これには遅延の疲労も吹っ飛んだ。うれしすぎる。
ちなみに、この寝台列車は日本のカプセルホテルがお手本になっているみたい。
平均身長が高いヨーロッパの人々にはちょっと手狭だろうけれど、わたしにとってはじゅうぶん。
2024年11月8日 魔法が解けた
朝食を持ってきてくれた乗車員さんのノックで目が覚める。
彼女は英語を話さず(話せないのか話さないのかは分からない)わたしはドイツ語がさっぱりだから、お互いなんとなく察し合って意思疎通をする。
わたしが朝食を食べ終わって、配膳を下げに来た時「コーヒーもう一杯いる?」と聞かれ(ドイツ語で)お願いします!と言ったらウインクしてくれた。
こういう、ちょっとしたやりとりで、旅の快適さが上がるから、自分が逆の立場なら、たとえ言葉が通じなくてもていねいに接しようと思う。
遅延には乗組員さんもうんざりしていたらしく、何時にユトレヒトに到着するのか聞いても「僕らにも分からない」としか返されない。
乗っていれば到着するだろうと、課題のテキストを読んだり、書き物をしたりして過ごす。
本か、毛糸を持ってこればよかったな。
今度電車の旅をするときは、どちらも持参したい。
結局、到着予定時刻を3時間ほど遅れ、13時ごろにユトレヒトへ。
オランダに近づくにつれ、天気が曇りになり、ユトレヒトは一週間前に出発したときに比べて、気温も下がり、すっきりしない天気。
一気に、現実に引き戻された心地。
オーストリア滞在は、全体的に天気がよかったから、ますます気分が落ち込む。
小さな家に帰って、大きな窓に分厚い雲が張り付いているのを見て、旅の魔法が解けた。
一週間、自分を元気づける旅をしたつもりなのに、今までの旅では感じなかった喪失感がある。
また新たに大学での日々が始まるのかと思うと、胸焼けするような心地。
ラトビア大学のセメスターの切り替わりでは感じなかったプレッシャーが、憂うつな気分を増長させているのかもしれない。
2024年11月9日 復活期間
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