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フランスのクリスマスの定番。Pain d'épices(パン・デピス)|ごちそう手帖(3)

 二週間ほど前に、「パン・デピス」というスイーツを手に入れた。

 箱にすっぽりおさめられ、持つとずっしりとして、パウンドケーキのような見た目だが中身がぎゅっと詰まっているのを感じられる。

 購入したのは町内の「ヨナタンストア」さん。輸入雑貨や食品が店内にあふれる、何時間でもいられるお店。住所はひみつ。

 「クリスマスといえば、パン・デピス」と教えていただき、購入。

 定番スイーツにシュトーレンもあげられるが、食べるたび幸福感と罪悪感が交錯するため、なんとなく手が伸びなくて、今年は「パン・デピス」という新しい世界を試してみることに。

 調べると、フランス発祥のスイーツで、スペルはPain d'épices。epiceはスパイス、香辛料の意味を指す。

パン・デピスとは香辛料がたっぷり入ったパンという意味。

パンといいますが、クッキーに近いものとケーキのようなタイプのものがあります。

フランスの各地で作られていますが、ディジョンとアルザスのものは特に有名です。このお菓子の起源は、10世紀に中国で作られていたものが11世紀に十字軍によってヨーロッパにもたらされたと言われています。( 辻調グループ公式サイトより)

 なんと。起源はアジアにあったのか。スパイスが使われているから納得ではある。

10世紀頃の中国の宋で兵士の保存食とされていた「ミ・コン(ミー・キン)」がパン・デピスの起源と考えられている。

ミ・コンはモンゴル、中東を経て、11世紀頃に十字軍を通してヨーロッパに紹介され、ハンガリー、ドイツ、オランダ、ベルギーなどヨーロッパの東部で食べられるようになった。(中略)

ミ・コンは小麦粉と蜂蜜をこね合わせたパンに似た料理であり、香辛料や香草は必ずしも加えられていたわけではなかったが、ヨーロッパへの伝播の過程でそれらの香料が加えられていった。(wikipediaより)

 購入したパン・デピスの原材料は、はちみつ、いちじく、オレンジ、あんず、レーズンなど。ナツメグやシナモンもたっぷり。ビールやラム酒も使われているが、これらはフルーツを漬けていたお酒だろうか。はちみつが、材料の多くを占めており、しっとりしている。

 1センチに満たない薄さでカットし、30秒くらいトースターでチンする。「ヨナタンストア」さんで、一緒に食べると美味しいとオススメいただいたラズベリージャムをのせる。

 チンした一切れと、チンしないで常温の一切れを、一緒にいただいてみた。あたためると、はちみつの甘さとスパイスの香りが1.5倍くらいに感じられる。パン・デピスにフルーツがたっぷりふくまれているから、ラズベリージャムは、もちろん合う。ラズベリーの酸味がスパイスの香りと絡むと、ちょっと赤ワインの後味のような風味がした。シュトーレンほどパンチのある甘さではない。はちみつのおかげだろうか。紅茶を一緒に飲みたくなり、アッサムティーを入れる。パン・デピスもアジア由来ゆえか、箸休め的にちょうどいい。茶葉を持ち合わせていなかったけれど、アールグレイも合うだろう。

 わたしは、その日食べるものはその日に作って食べることが多い。常備菜もあることはあるが、ちょっとずつ、時間をかけて、ちまちま食べるのが、そんなに得意ではない。

 けれど、パン・デピスは冷蔵庫に入れておけば1ヶ月くらいの保存もきくという。実際、フランスでは年末のホリデーに向けて、パン・デピスを薄切りにして少しずつ食べるらしい。

 食べものは、原産国の暮らしや慣習にならったほうが、きっとおいしい。ちょっとずつ食べるのは得意ではないけれど、せっかく買ったのだし。しかも一気に食べると血糖値がとんでもないことになるだろうし。

 と思って、未知なるフランスの街を思い浮かべながら、一切れ一切れ、毎日食後にちょっとずついただいた。

 時には発酵バターを乗せたり、生クリームを添えたり。お酒は飲まないが、ワインなど、きっと合うに違いない。スパイスの風味も、雪降る冷えた体に、ちょうどいい。

 そしてクリスマスイブの今日、ちょうど一切れ分だけ残った。

 ちまちま食べるのも、悪くない。今日いただく一切れは、昨日の自分からの、ねぎらいの一切れだ。

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