見出し画像

誰の目線に立つか #ラトビア日記 9

※毎週金曜日に更新していましたが、なんとなくしっくりこないので、毎週日曜日更新にいたします。

2023年10月21日 色気もクソもない

 早起き、見事に失敗。曇りだったから朝日を浴びられず、ぜんぜん身体が起きなかった。

 図書館に行こうかな、と思いながら、課題を読み始めてしまい、結局そのままずっと家にいた。

 窓から見える並木道の紅葉を見ながら「あー、森に行きたい」と指をくわえている。インスタで、ちょっと離れた公園でピクニックしているラトビアの人のアカウントを見つけた。うううううらやましい。

 早くそういう生活をしたい。けれど今週のプレゼンを乗り越えると、クロード・レヴィ=ストロースが待っている。『野生の思考』は読んだことあるけど、課題書籍は違う本。

 これからフィールドワークとプレゼン2個準備して、エッセイはあと8本くらい出さなきゃいけない。

 エッセイ8本の締切は1月だけれど、早く終わらせたい……。

 ラトビア大学の他にもう一つ、オランダのライデン大学にも受かっていたのだけれど、ライデン大学の修士は1年間。

 2年で修士論文を書くラトビア大学のプログラムで、これだけ大変なのだから、ライデン大学に行っていたら白目をむいていたと思う。

 引きこもって自分を励ましながら、論文を一つ読み終えた!

 明日はお出かけしよう(課題はやるけど)。

2023年10月22日 観劇

 日曜日。夜はゼミの先生から届いた案内を受けて、観劇に行く。

 使用言語はラトビア語とロシア語だけ。

 会話はぜんぜん分からないだろうけれど、母と娘の関係性テーマで、ラトビアの演劇に興味があったから行ってみた。

 会場は、木造の、二階建ての倉庫を改修したような所。博物館や展示、パフォーミングアーツの会場にもなっている施設らしい。

 内容は、やっぱり言語の問題でよく理解できなかったけれど、観劇後に一緒に来ていたラトビア人のクラスメイトに「どういう話だったの?」と聞いたら、彼女も「途中から混乱した」と言っていた。

 一人で何役も演じていたり、時間軸が行ったり来たりして、混乱した、とのこと。

 劇場から、夜のリガを歩いて帰った。

2023年10月23日 写真を撮りに

 ラトビアの秋は、雨が多い。

 そしてだいたい曇っている。

 紅葉が、終わろうとしている。

 秋の色の鮮やかさは、北海道に住んでいたときに衝撃を受けて、それ以来、秋がもっと好きになった。

 夕方の授業に行く前に、カメラを持って早めに家を出た。

 大学のキャンパスの一つが、家の近くにあるのだけれど、そこへ続く短い並木道が、ちょうど真っ黄色なのだ。

 それをどうしても写真に撮りたくて──というか、無理にでも写真を撮るという余暇を作り出したくて、家を出た。

 やることが多くて家に閉じこもりがちだから、カメラに外に連れ出してもらった感じ。

 今の生活を選んでいるのは自分だから、文句はない。

 けれど、やっぱり土や自然に近い時間が少ないと、綿ぼこりみたいなストレスが積もっていく感覚がある。

 爆発する前に、森に行きたいよー。

2023年10月24日 日本語を学ぶラトビアの人々

 午前中、いま一番ストレスになっている書類周りのことを片付けに、郵便局へ。

 平日の11時近くだというのに混雑している。まあ、でも首都だし、そんなものか。

 午後は国立図書館へ行って、明日締め切りのエッセイを書く。

 図書館には、親子連れや学生の団体さんが何組かいて、ときどき行くショッピングモールより賑わっていた。

 図書館の一階はフリースペースだが、2階以上を利用する場合は上着を預けて、ロッカーに荷物を置いて、必要なものだけ専用のプラスチックバックに移し替えて、専用のIDカードを使って、中に入れる。

手前のプラバッグが専用の袋

 けっこう厳重だなと思う。

 エッセイを書き終わったら、図書館で毎月1回おこなわれているという、Japanese spaking clubという催しに行ってみた。

 全員で20人近く参加者がいたが、日本の方も多くてびっくり。日中、ほとんど引きこもっているからでもあるが、ぜんぜん外で見かけないから「こんなに日本人いたのね」と思った。

 それぞれいろんな理由で日本語を勉強し、レベルもバラバラ。

 一生懸命話そうとしていたり、言葉を学んだりしている姿を見ると、やっぱりとてもうれしい。

 わたしも来月からラトビア語のクラスが始まるから、例えばお店に行ったときとか、ラトビア人のクラスメイトとかに、挨拶くらいは、ラトビア語でできるようになりたい。

 参加していた韓国の学生と、帰り道が一緒だったので、おしゃべり。彼はラトビア暮らし2年目で、医学部で勉強しているから毎日いそがしく、おそらくわたしより引きこもっているみたいだった。「このクラブに参加したのが、久しぶりのお出かけ」と言っていた。

 仕事で出張したり、弟が日本で留学していたため遊びに行ったりしているうちに、日本を好きになったと言っていた。独学だから、まだまだ初心者だけど、と笑っていたけど学ぼうという姿勢がもうすでにすばらしい。

 学生時代はロシア語を専攻していたこともあり、今後はヨーロッパで働きたいのだそうだ。

 お別れしたあと、ラトビアでおすすめの韓国料理屋を聞くのを忘れたことを思い出した。韓国料理、食べたい。

2023年10月25日 さんぽ!

 課題をやるために家に居すぎて、不意な虚無感がやってきた。

 漫画やアニメで、自意識に飲み込まれる感覚を、自分の影がぬぼーっと伸びて、覆い被さろうとする描写で表現することがある。

 わたしの場合は覆われるというか、壁に写った自分の影に、突然後ろからぐいっと引っ張られる感じがした。

 これは、よくない。とてもよくない。

 バスではなく歩いて授業へ向かう。30分くらいの距離だから、ちょうどいい。

 庭や並木道の紅葉を見ながら歩いて、教室でクラスメイトたちと喋って、だいぶ復活した。

 帰り道、バスの中で「一人で課題をやっていると一日中、会話どころか発声しないこととかあって、ストレスが溜まるんだけど、どうしてる?」という話をしてみたら、「それはやばいから一緒に勉強しよう」と言ってくれる子がいて、うれしかった。

2023年10月26日 秋と冬のあいだ

 日の出が8:00過ぎになってから、朝、ぜんぜん起きれなくなった。

 いつもの習慣より1時間くらい、後ろにずれていく。だから、7時のつもりで起きたら8時だし、そろそろ寝ようかなと思ったら深夜1時を回っていたりする。

 購入した中古のプリンター、なんとPDFが印刷できず、しかもウチに来た型は日本では売っていないようで日本語の説明がなく、イギリスのCanonに問い合わせた。

 結果、いろいろ試行錯誤して、JPEG形式なら印刷できることが判明。でもPDFが印刷できないのは不便だな。PDFのバージョンか何かがプリンターに対応していないのだろうか。誰か詳しい人、いませんか?

 昼前くらいから、ぱらぱらみぞれのような雪が降ってきた。とうとう!

 氷点下にはギリギリいかなかったけれど、ずっと寒かった。手袋も解禁。

 紅葉と雪が同じ景色の中にいるの、ふしぎだけど、下川町に引っ越した初めての冬の始まりも、10月の中旬くらいだったなと思い出した。

 真っ赤な紅葉の中を雪が舞っていた。リガでも、黄色の落ち葉の山の上に雪が降っていた。

2023年10月27日 発見

 昨日の夜、大学のサイトで明日(10/28の土曜日)ハイキングがあるという情報を発見。

 Sigulda(シグルダ)という街で4時間ほどハイキングをするらしい。

 これしかない!と思い、申し込む。やっと森に行けるー。そして身体も動かせる。

 今日はナチュラルサイエンスの学部の図書館へ。

 新しくできた建物で、おしゃれだし広いしきれいだし……いい感じだけど、広すぎるのか、ちょっと寒い。

 見慣れないと思われているのか、すれ違う学生や窓の外で歩いている学生に、すごく見られた。

 所属している文化人類学系の学部に行っても、あそこまで露骨に視線を感じることはなかったから、不思議な感じがした。

2023年10月28日 念願の森へ

 朝、サンドイッチを作って、9:45リガ駅発の電車に乗って、シグルダへ。

 チケットは事前にオンラインで購入すると、少し安くなる。改札はないので、乗車し、列車内でチケットのチェックに来る車掌さんにQRコードを見せる。

車内

 窓の外は並木道。うっすら雪が積もっている。

 トレッキングシューズ、日本から持ってくればよかった。

「ホテルシグルダ」からハイキング開始

 参加フォームに「友達何人と来るか」という質問欄があって、一人参加は少ないのかな、と思ったが、意外と一人で参加している学生もいた。

 申込数は20人近くいたらしいが、実際の参加者はかなり少数。わたしは大人数より少数が好きだからちょうどよかったが、主催側の大学スタッフは戸惑っていた。

 軽いストレッチをして出発。

ラトビアには高い山がないため、全体的になだらかな道。

 途中、突如として現れる階段や坂道を登ると、以前よりも、足がとても重くて鉛のよう。息もすぐ上がる。体力がかなり落ちている。これはまずい。筋トレを今すぐ復活せねば……。

 雪が溶けて地面はぐちゃぐちゃだったから歩きづらかったけれど、紅葉がギリギリ見れたし雨も降らなかったし、本当に気持ちが良かった。

 参加した他の学生とおしゃべりするのも楽しかったけれど、森の中にいると呼吸が深くなる感じがして、ときどき一人少し離れて目を閉じて、息をした。

 日々、あまり気にしていなかったり、気にしないようにしていたりする違和感や些細な不安や不満が、寒い森に消えていった感じがした。

 ハイキング終了後、手作りのスープとお茶が準備されていた。

 このスープが具沢山で、すごく美味しかった。

 「ソリャンカ」というらしい。レモンやサワークリームを入れて食べるという。今度、自分でも作ってみよう。

2023年10月29日 サマータイム終了

 朝、わずかに窓の外から青空が見える。

 それだけで、気分がグッと上がる。天気が及ぼす気分への影響が、つくづく大きい。

 今日からサマータイムが終わり、日本との時差が7時間になるらしい。

 だから9時かと思って起きたら、まだ朝8時だった。太陽が昇って沈むのは、太古の昔から変わらないのに、人間の基準でこんなにフレキシブルに1日の単位って変わるのだな、などと考える。

 早起きできたという自覚は、気分をさらに前向きにする。なんだかいいことがありそう、という気持ちになる。

 午前中から、ずっと行きたかった「Agenskalns Market」というマーケットへ。

 ラトビアのイケているお店が集まっている印象。

 バスを降りたとたんにいいにおい。購入したお惣菜や飲み物を、その場で楽しめる。

 ラトビアに限らずヨーロッパには犬連れで入れるお店や施設が多い。マーケットにも、いろんな犬がいて、実家のゴールデンが恋しくなる。

 屋外では蚤の市が開かれていた。旧ソ連圏のピンバッジやコイン、食器や服、布製品などがあって、どれも一つひとつじっくり見てしまう。

 販売している人たちも、ほとんどがロシア語を喋っているように聞こえた。

 寒くてあまり長居できなかったけど、また掘り出し物を探しに行こう。

“誰の暮らし”の追体験なのか

「海外で暮らしてみたい」と思って、ラトビアに来てはや2ヶ月ほど。

 なんとなく「海外で暮らす」イコール、「現地の暮らしを体験する」ということなのかと思っていた。だから、わたしの場合はラトビアの人々の暮らしを追体験もしくは疑似体験するということなのかな、と推測していた。

 でも最近は、期間的な短さも影響しているかもしれないが「ちょっとちがうかも」と感じ始めている。

ここから先は

1,063字

¥ 100

期間限定!PayPayで支払うと抽選でお得

読んでいただき、本当にありがとうございます。サポートいただいた分は創作活動に大切に使わせていただきます。