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京都暮らしの備忘録Vol.5「非効率な伝統の虜になる」
7月の後半は、祇園祭に捧げたと言っても過言ではない。期間中は祇園祭の雰囲気を味わうために山鉾のある四条烏丸のあたりへ毎日通った。そして、祇園祭が終わったいま、抜け殻になってしまっている。
なぜ、あんなにも祇園祭に惹かれたのか。2週間ほど熱を上げていたときのことを振り返ってみると、「何でも効率化できてしまう現代に、1,000年以上もの昔の伝統を必死に受け継いでいる非効率さ」に惹かれたんじゃないかな、と思った。この気持ちをもう少し深掘りしてみようと思う。
釘を使わずに山鉾を組み立てる
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まず、祇園祭に通うようになって知ったのが「山鉾を組み立てるのに釘を一切使っていない」ということ。祇園祭の期間以外は、建物内でばらばらにして保管されているそう。
祇園祭の期間のたびに組み立てて、装飾をして、巡行の準備をする。その組み立ての際に、釘を使わずに縄でしばりながら木と木を組み合わせていく、そんな組み立て方。
釘や重機をいくらでも使えるいまの時代に、ちゃんと伝統に基づいてひとつずつ手作業で組み立てている姿に、まずは心を動かされた。本当に、これが祇園祭にハマった最初にきっかけだと、今振り返ると感じる。
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京都の街のど真ん中で、そこだけ時が止まったかのように職人さんたちが山鉾を組み立てている。そんな姿に心を打たれたんだと思う。毎日見に行くと着実に組み立てられていく、そんな過程を見ることができて楽しかった。
一つひとつの山鉾に個性がある
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祇園祭、先祭では23基、後祭りでは11基の山鉾が京都の街を巡行する。地域によって装飾や、見送りと呼ばれる鉾の後ろの絵柄、巡行時の歩み方などが本当にそれぞれ違うから面白い。
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とくに、絵柄をよく見てみると、日本的なものよりもキリストやペルシャなど海外チックな絵柄が多くて、なぜなんだろう?なんでこの絵を選んだんだろう?と妄想が膨らんでいって、いつまでも飽きずに見ていられるのだ。
昔は山鉾の装飾に差異はなかったみたいだけど、地域ごとに「自分の地域が1番優れている」と誇示するためにどんどん派手になっていったのだとか。本物の絨毯素材を使っているからとっても高価なものらしい。
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1年にたった1度姿を見せるだけなのに(と言っては失礼かもしれないが)、ここまで細部にまでこだわって仕上げている、その姿勢が面白いなあ、と思う。
巡行の見せ場・辻回し
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山鉾が京都市内を動き出す巡行。前祭りは朝の9時半頃から15時頃までみっちりとゆっくりと街を巡行する。山鉾は巡行時には12トンもの重さになるそう。しかも道を曲がる際には、1回で15度しか曲がれないので、道を曲がるだけで10分くらいかかっていた。
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道を回るときに草を引いて、曳き手の人たちが声を上げて一挙に山鉾を動かす姿は圧巻で、それは「辻回し」と呼ばれる巡行の見どころになっている。ときには車1台通れるかどうかの狭い道でもじっくりとタイミングを見計らいながら、ゆっくりと進んでいく、この非効率さにやっぱり感動してしまったのだ。
神幸祭・還幸祭
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山鉾の巡行が祇園祭のメインと思われがちだが、実は違うらしい。神幸祭・還幸祭といって、中御座、東御座、西御座の3基の神輿が八坂神社の舞殿から四条の街中にある御旅所まで運ばれていく、その過程が、祇園祭のメインイベントらしい。
山鉾が京都の街を巡行することによって、そこにあった悪い気を取り払っていく。巡行をすることで悪い気が取り払われてきれいになった街に、神輿が降りてきて、1週間のあいだ安置される、という流れ。
この神幸祭・還幸祭の迫力と熱気に圧倒されまくっていた。かけ声と御神輿を担ぐぎながら街を練り歩く人たちと。
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とにかく、写真では伝わらない、なんだか怖さすら感じる熱気があった。神のための儀式、だとかそのためのかけ声だとか。そんなものがなくても生きていけるこの時代で、ちゃんと執り行われている不思議というか。やっぱり私が惹かれたのは、そこなんだと思う。
効率重視のこの時代にある、途方もない非効率さ
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伝統や歴史、文化、「ちゃんと受け継いでいきましょう」と言葉ではなんとでも言えるけれど、実際に忠実に受け継いだり保存したりするのは、想像を超えるくらい大変なんだろう。
それが今回の祇園祭でひしひしと伝わってきて、その途方もない非効率さに私は虜になってしまったんだと思う。
思えば、いまの私のライフスタイルなんて、フルリモートでずっとPCに向かっている生活だし、業務委託先はベンチャーのIT企業で効率やKPI達成のためにどれだけ最短で成果を出すか、みたいなところ。今回の祇園祭で目の当たりにした「伝統」「手仕事」「非効率」とは対極のところにいる。
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だからこそ、その「伝統」「手仕事」「非効率」をあえてこの時代に大切に受け継いでいる姿に、取り憑かれるように惹かれたのだと、祇園祭が終わった今、振り返ってそう感じる。それがいいとか悪いとかじゃなくて、ただただそんな文化に立ち止まってじっくりと向き合うことができてうれしいなあ、という気持ち。
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こんな心が動く過程を、自分自身で味わうことができてよかった。京都生活を始めるにあたってこんなにハマるなんて思っていなかったから、来年はちゃんと勉強して、もっともっと深く向き合いたいな。
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