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夏は小さな人生だ。

四季は、まるで人生や物ごとの起承転結を表すようだと思っているのだが、夏はすごい。
夏だけが、単独でも起承転結を持っている。

夏のはじまりは雨だ。
春の新緑が満ちた頃に、梅雨がやってくる。
雨は春の穏やかな平穏を打ち消して、夏の準備にとりかかる。

温かな雨が生命のほほを打つと、生き物たちはざわめきはじめる。
みずみずしい初夏の夜はとりわけ、静寂の中に生命のうごめく気配がする。

梅雨が明けた盛夏は、生き物が一斉に叫び出す。ここにいる、ここにいる、という声を上げて毎日を全身全霊で駆け抜けていく。

花火があがる。
汗がしたたる。
海が笑い、山は歌う。

やがて嵐が来る。何度も激しい風が掻き乱し、壊し、奪っていく。
しがみついて生き残ったものたちは、次第におとなしく口をつむいで呼吸を整える。

そうして夏が去っていく。
少しづつ少しづつ名残りをとどめ、足もとに落としながら、実る秋にそっと手をふれて、いつの間にか消えてしまうのだ。

夏はドラマティックだ。
人々がどうしても夏に焦がれてしまうのは、激しく短い人生のようだからなのではないだろうか。

今年も夏が終わる。
側にいる時はうるさくて、うんざりすることもあった。
天高くのぼる太陽はいつまでも明るくて、毎日が永遠に続くような気がした。

別れる時は一瞬だ。
人生って、きっとそんな感じだ。

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