起業に失敗はつきもの?FuckUp Nightsが伝える失敗の価値とは
起業家に必要なものは何か?考え抜かれた事業モデル、有能な営業・マーケティングチーム?リストアップしていくと果てしないけれど、私たちが過去4年間にわたるFuckUp Nights Tokyoの開催を通じて発見したのは、起業家が過去の痛い失敗を学びに変えることのできるコミュニティの存在でした。
FuckUp Nightsの始まり
時は2012年。メキシコシティ在住の起業家5人が、メスカル(テキーラに似た強いお酒)を相当量飲んだあと、自身の事業の失敗について話し始めました。他の起業家イベントで聞くのはいつも成功話のみ。失敗については互いに共有したことがなかったため、その場は多いに盛り上がった。これに味をしめた5人は翌週に再び起業家の事業の失敗を話すイベントを開催。その結果、予想を上回る数の人がイベントに集まった。これがFuckUp Nightsの始まり。その後もこのイベントに共感する人はその後も全世界で増え続け、現在では、80ヵ国304都市に広がるグローバルムーブメントとなっています。
FuckUp Nights Tokyoのスタート
このグローバルの流れのなか、東京も例外ではありませんでした。2013年に東京・目黒で産声をあげた起業家コミュニティ「Impact HUB Tokyo」は、このFuckUp Nightsのコンセプトに強く共感し、2015年、日本初の公式開催団体となります。同年4月には第一回FuckUp Nights Tokyoを開催しました。失敗を歓迎する風土があるシリコンバレーなどとは異なり、日本では「失敗した者」への風当たりが強く、失敗すると、他の人との顔が合わせづらい、会社の顔に傷がつく、その後のビジネス関係にも影響するなどを気にして、失敗をひた隠しにしている起業家も多くいました。この状況を変えたいと思った私たちは、まず失敗シェアに比較的寛容なインターナショナルなコミュニティを対象に、英語オンリーでイベントを開催していきました。現在は、日本語での登壇を希望する人や英語を話さない参加者にも内容が伝えられるように、運営チームがサポートに入り、日・英のバイリンガルイベントとなっています。
失敗との向き合い方
FuckUp Nights Tokyoとして強調したいのは、FuckUp Nightsとは「むやみやたらと失敗することを歓迎するイベントではない」ことです。早く・たくさん失敗を重ねることをよしとする起業家・スタートアップコミュニティも多い中、FuckUp Nightsの共同創業者であり自身も社会起業家であるLeticia Gasca氏はTED TALK「Don't fail fast -- fail mindfully」の中でこう述べています。
私たちが早く・たくさん失敗することを美化することは、起業家たちが自分たちの失敗や意思決定がもたらす結果を考慮せず、簡単に諦めてしまうことにもつながりかねません。(途中略)私たちは、ビジネスが人で成り立っていることを忘れてはなりません。会社が潰れる時、仕事を失う人がいること。お金を失う人がいること。特に社会起業家のビジネスが死ぬ時、それはコミュニティや社会の生態系全体にネガティブな影響を与えかねないのです。自分たちの行動が招く結果や、責任、学びにより意識的になることがとても重要なのです。
失敗を経験した人の中には、個人的な人間関係に亀裂が入り人間不信に陥ってしまった人、自分が情熱を持って始めた事業を手放さなければならなくなった人もいます。様々なトラウマ体験をやっとのことで乗り越えてきた起業家からすれば、「失敗とはいいことである」とは一概には言い切れないのです。
Failure doesn't make you a failure.(失敗を経験したからといって、あなた自身が失敗ということにはならない)
これは、FuckUp Nights Tokyoの運営チームである私たちが、このイベントを通して届けたい信念です。
誰だって失敗は避けたい。ところが、タイミングの良し悪しや一時的な甘えや不注意によって悪い事態を引き起こしてしまう。深刻さの度合いは違えど、残念ながら、これは誰にとっても起こることと言えます。しかし、私たちが断言したいのはその失敗経験がその人の人生を一生決定づけたりはしないこと。立ち直るのに時間はかかるかもしれないけれど、あなたは必ずそこから這い上がり、次はどのように問題に対処するのか、より賢く判断できるようになっていくのです。
FuckUp Nights Tokyoで取り上げるのは、「起業家の失敗そのもの」ではなくまさに「自分の失敗や脆弱性を率直に受け止め、その経験からの学びと共に前進する起業家たちの生き様」です。だからこそ、運営チームとしてその彼らのストーリーが多様なバックグラウンドや業種、世代からなる多くの参加者にどのような形でシェアされるべきか、インタビューを入念に行っています。また、登壇者にとってストーリーを語るための安全な環境をどうデザインするか、会場のレイアウトや照明の明るさ、質疑応答時のファシリテーションの仕方など、いつも神経を尖らせています。
失敗を経験した過去の自分と出会うこと、共に歩き出すこと
FuckUp Nights Tokyoは、登壇者たちのとても個人的な失敗経験から学びを抽出するプロセスを伴走します。それは、暗く、辛い過去の失敗経験を「未来への学び」という軸から再び光を当てることに近い作業といえるでしょう。中には、掘り起こしたくない過去に再び対峙しなければならない人もいますが、登壇を終えたその人たちの顔は不思議と晴れ晴れとしています。登壇者はFuckUp Nights Tokyoへの登壇を通して、個人的な経験から培った学びは、現に多くの他の参加者にも共感するものだったり、役立つものだということを発見するのです。
登壇者全員のプレゼンが終わると、ネットワーキングタイム。ピザやビールを片手にさらに突っ込んだ質問や、自らの失敗経験などが至るところで発生するのです。だからこそ、FuckUp Nights Tokyoのイベント会場はオーセンティックな(肩肘張らない、その人らしい)出会いや会話が生まれやすいと言えます。
FuckUp Nights Tokyoのこれから
2019年4月でFuckUp Nights Tokyoは4周年を迎えます。運営チームは、Impact HUB Tokyoのコミュニティマネージャーの岩井、高橋の他、MCを務める桝永で構成されています。過去4年間で17回のイベントを開催、イベント参加者の総数は859人、登壇者46人分のストーリーがシェアされました。今後も、もっとこのイベントが広がっていくために、より多くの人にこのイベントの存在を知ってもらい、登壇者として自分のストーリーをシェアしてもらいたい。ビジネスオーナーでなくても、誰でも持っているビジネスでの失敗経験。興味のある人は、ぜひリンクから申し込んで欲しいと思います。
Photo credit: Tetsuya Yokoyama, Kazuki Tatsumi