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§読書録:「溺レる」川上弘美

川上弘美さんの、物事を遠くに見ている感じが好きだ。
表題「溺レる」より、わたしの好きな「百年」。

不倫→心中の果てに生き残った男・サカキさん、死んでしまった女。
百年が過ぎたが、何も変わらない女の記憶で物語は進む。

夢見てた。怖い夢だった。サカキさんが言った。
どんな夢。
おぼえてない。怖い夢だ。
そう。そうなの。
助けてくれ。
どうしたらいいの。
わからない。助けてくれ。
ねえ、死ぬよりも、死んだつもりでどこかに逃げたらどうかしら。
同じだよ。
同じかしら。
どこに行っても同じだよ。

「溺レる」”百年”より/文春文庫

サカキさんは死を、家族やもろもろを捨ててしまうことを、おそれていたのでしょう。対する女は、
「死なないで生きていくことにも、さほど執着はなかった。」「サカキさんが戻ってしまっても、ほんとうはかまわなかった。どちらでもかまわなかったのだ。」なんたるハードボイルドな精神。女の深い孤独と絶望が見てとれます。

サカキさんは、待っていた私のところへは来なかった。
百年が過ぎたが、何も変わらない。死んでしまったので、もう何も、変わらない。

余韻を残したラスト。
何も変わらないことが、真実なのかもしれません。

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