§読書録:「溺レる」川上弘美
川上弘美さんの、物事を遠くに見ている感じが好きだ。
表題「溺レる」より、わたしの好きな「百年」。
不倫→心中の果てに生き残った男・サカキさん、死んでしまった女。
百年が過ぎたが、何も変わらない女の記憶で物語は進む。
サカキさんは死を、家族やもろもろを捨ててしまうことを、おそれていたのでしょう。対する女は、
「死なないで生きていくことにも、さほど執着はなかった。」「サカキさんが戻ってしまっても、ほんとうはかまわなかった。どちらでもかまわなかったのだ。」なんたるハードボイルドな精神。女の深い孤独と絶望が見てとれます。
余韻を残したラスト。
何も変わらないことが、真実なのかもしれません。