
角野隼斗さんと羽生結弦さんを勝手に並べて語ってみる
渋谷のNHKホールで行われた角野隼斗さんのソロコンサート HUMAN UNIVERSE に行ってきました。角野くん(と勝手ながら呼んでます)を最初に認知したのは、中学生の頃のピティナ・コンペティション。しばらく経って、今度は同コンペティションの特級グランプリとしてお名前を見かけて「あの時の!」となりました。その後はYouTubeでの”Cateen(かてぃん)”としての活躍を発見してチャンネル登録したり、やがてPenthouse(pf かてぃん)の存在を知ってバンドの音楽自体が好みでライブに行くようになったり。
と、思い起こせば結構長いことゆるやかに活動を追っている気がしますが、ソロコンサートは初めて。弱音の魔術師か、即興の魔術師か。個人的にはアップライトピアノで演奏された楽曲群がとりわけ良くて「アップライトピアノって、こんなにかわいい楽器だったんだ」と再発見した感がありました。・・・からの、グランドピアノでの華やかな『火の鳥』で脳内で羽生結弦が舞いました。
そう、羽生結弦(大声)!ソロコンサート初鑑賞の勢いで、以前から密かに「このお二人、共通点が結構あるよね」と思っていた事項をランダムで並べてみたくなって書きました。以下の「おことわり」の通り、軸足を羽生くんに置いた素人による好き勝手なメモ書き程度に捉えていただければと思います。
※おことわり(私の立ち位置)※
羽生くんに関して:2013年からどっぷりファン。森羅万象色んなものから羽生くんを連想しがちな所謂(?)『羽生脳』を搭載している。この note も羽生脳の仕業です。
角野くんに関して:お名前を認識してからは随分経ちますが、音源も動画もインタビューもたまたま出会ったものをゆるく楽しんでいる感じ。ピアノを弾くのも聴くのも好きでクラシックのコンサートにも時折足を運ぶけれどクラオタには程遠いです。
1. バッグの中身の職人感
いきなり変化球から行きますが、お二人ともELLE JAPANのバッグの中身紹介 ”What's in my bag” に登場しているんですよね。入れ物(バッグ)は対照的ですが、中身の職人感には通じるものがあります。
【羽生くん】ブランドアンバサダーを務めるGUCCIの上質なハイゲージニットを着用して、コンニチワ~と登場してガゴッ(ガゴッ?!)とテーブルの上に載せたのは飾り気ゼロな「無印良品のキャリーバッグ」。中からは大切なスケート靴に続いて、練習に欠かせないイヤホンやら、iPadやら、ドライバー(!)やらが飛び出す職人ぶりが味わい深い動画です。スケートのエッジやドライバーを触る指が美しきこと、ピアニストの如し。
【角野くん】スーツケースはこなれ感があり、ELLEの動画にふさわしいオシャレさ!中身はこちらも職人の仕事道具感。「ピアニストは手が命」ということでカイロや手袋も持ち歩くんですね。なんと長財布をスラれたとのことですが、「パリのスリの方はレベルが高いですよ」に品の良さがにじみ出ちゃってて笑う。三回目はないようにお気をつけて!
2. あたらしい単独公演の発明
【羽生くん】羽生くんがプロ転向後に行っている単独公演 ICE STORY シリーズは、まず「氷上の出演者はたったひとり」という点で他に類を見ません。そして、羽生くん自身が書いたストーリーを表現するために相応しい演目や映像や演出が選ばれ、公演全体が構築されていく。映画のような舞台のような、時に競技会のようにスリリングな、でもやっぱり全部ひっくるめて "ICE STORY" と呼ぶしかない独自のエンタメを発明したと言えるんじゃないでしょうか。
【角野くん】まだ一度しか見ていない上にツアーの途中なので詳細は控えますが、テーマがあって公演全体で見せたい世界観があって、それに基づいたユニークな仕立てとなっています。かつ、その日その空気の中でだけ見られる一夜限りの即興性もふんだんにある。
何より魅力的に感じたのは、特にアップライトピアノからの弱音の聴かせ方です。スピーカー配置の工夫もあって、直接空気を伝ってくる生音の繊細な振動と、ひとりきりでイヤホンをしてYouTubeを視聴している時のような没入感の両方が味わえる。おかげで大ホールに座っていながら宇宙のどこかにある秘密の工房を覗いているような、あるいは誰かの心的世界に入り込んだような特別な風合いの公演で、「角野ワールドを届けるコンサートを発明中なのだな…!」とワクワクしました。
3. 自分で創るYouTube
【角野くん】ここは登録者数143万人のかてぃん先輩から書いてみます。動画の多くは自宅スタジオで演奏、録音、編集しているんですよね。なんという夢の空間(たまにニャンコも登場する)!時々やってくれるYouTubeライブの即興感も大好きです。
楽曲アレンジも編集もアイデアに満ちていて高クオリティで、大好きな動画がいっぱいあります。チャンネル内では実はクラシックではなく、浮遊感溢れるアレンジと演奏の宇多田ヒカル『One Last Kiss』を一番リピートしているかも。
【羽生くん】プロに転向してYouTubeを開設した時、「羽生くんは、是非かてぃんをベンチマークすべき!」と思いました。それは私の能天気な連想にすぎないのですが、スケートリンクに複数台のカメラを自ら設置して録画、自前で編集して出す手仕事具合には通じるものが。
下記とかも全部セルフですからね(次の公演の準備で超多忙だった時期でしょうに)。楽曲をリスペクトして歌詞を全面に出したリリックビデオ的に作られた、凝りに凝ったMV。初見で「[ SKATE / MOVIE ] 羽生結弦」を二度見、三度見してしまったほどです。用いられた何種類ものフォントも自ら購入されたと聞いて、ライブ配信の激流のチャット欄にふと書き込んだ「フォント買うスケーター」のツッコミがご本人に笑いともに拾われたのは、2024年の良き思い出のひとつです。
4. ジャンルの越境者
【羽生くん】幼少期からスケートリンクでの練習に放課後の時間の多くを捧げていながら、ボカロ、邦ロックポップス、マニアックなものも含むゲームなどに「どこにそんな時間が?」というほど通じている。プロに転じてからはそれが息抜きではなく創作の表舞台に出て来るようになり、ICE STORYにおいても、ファイナルファンタジーX、Undertale、エストポリス伝記、STEINS;GATE、ペルソナ3など、数々のゲームからの楽曲を効果的に使用しています。ゲームではありませんが、椎名林檎さんの『鶏と蛇と豚』も衝撃的な傑作でした。
これらのフィギュアスケートの世界では新鮮な楽曲たちを「曲を借りました」というレベルではなく、ストーリー世界を表すために必須なものとして用いている。演目によっては、これまでとは大きく異なる身体の使い方とともに。それらをクラシック楽曲を用いたThe 正統といったプログラムと違和感なく配列してくるセンスと力量に、脱帽しすぎて帽子をかぶる暇もありません。
【角野くん】フルオーケストラとの共演でラフマニノフやショパンのコンチェルトを演奏したかと思えば、上原ひろみさんのコピーをしていたというだけあってジャズも自在に弾きこなす。歌うように、遊ぶようにジャズを弾く姿からは、角野さんを「孫」と呼ぶ矢野顕子さん(私も長いことファンです)も思い浮かびます。
さらには、バンドメンバーとしてポップもラテンもソウルも弾いてグルーヴを生み出すし、時には作曲もする(例えば、めちゃめちゃカッコいい『26時10分』)。ガーシュインやカプースチンなんかには、彼のひとところに収まらない持ち味が発揮されていると思う。そしてご自身の作曲も実に魅力的。いずれ楽譜を入手して弾いてみたいなと思います。
5. ショパンとショパン
【角野くん】私の大学時代の友人が美容室で「バッハみたいにして」とオーダーしてパーマをかけてきたことがありました(以後もわりとバッハ)。角野くんがショパンコンクールに出るに際してショパンっぽい髪型にした時、急に彼女のことを思い出して懐かしくなりました。彼女はニューヨーク在住なので、バッハとショパンが道ですれ違っているかもしれないですね!それはそうと、角野くんがショパンを弾くと、現代を生きる青年から「いま」生まれてきている音楽といった感じなのが良いなと思います。
美容院でこんな感じにしてほしいですって言いながら大真面目にショパンの肖像画見せた
— 角野隼斗 - かてぃん (@880hz) September 15, 2021
【羽生くん】羽生結弦×ショパンと言えばバラード1番が代表作ですが、Echoes of Lifeでは新たに2曲のエチュードを(編集ありですが)演じました。中でも Op.25ー12(大洋)は圧巻でした。一分近くスピンのみで演じられるプログラムなのに、多彩で、波がうねり色が変わっていくようで。ちなみに選曲と編集と演奏をされた清塚信也さんは、羽生くんの親友・盟友であり、角野くんとも親しいのですよね。
没後200年近く経っても、極東の地では、若きピアニストやフィギュアスケーターがショパンを「いま」の音楽として演奏し、演じていますよ〜!ポーランドに向かって叫んでおきます。
6. 探究と鍛錬の人
【角野くん】「練習は裏切らない」
【羽生くん】「努力は嘘をつく、でも無駄にはならない」
息切れしてきたので、手短に。スマートにソフトに見えるお二人ですが、上記のような言葉からもわかるようにゴリッゴリに研究し、努力を重ねていることがうかがわれます。幼少期から発揮されていた才能に安住しなかったからこそ、観衆を引き付けて止まない今の姿があるのでしょう。
(決して安住しない鍛錬の一例)
\ “Echoes of Life” 千葉公演初日✨/
— Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR (@echoesoflife_jp) February 7, 2025
いよいよ本日より「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」千葉公演がスタート⚡️
みなさまのご来場お待ちしております🙌
📍LaLa arena TOKYO-BAY
📅2025年2月7日(金)/2月9日(日)#羽生結弦 #Echoes #YuzuruHanyu pic.twitter.com/7WCL0NgmD7
オタクの願い
以上、趣味で強引に並べてしまいましたがご容赦下さい。それ以外にも、天性の耳の良さとか、研究者肌(というか角野くんは研究者の顔もあると言うべきか)、色々共通点ありますね。とか書いていたら去年羽生くんが表紙を飾ったニューズウィーク日本版に来月は角野くんが登場するという報せも!
一方で、もちろん違う点も多い。いや、違う点の方が多い。
キャリアのステージも同じアラサーだと言って一括りには出来ない。激しく身体を使うという特性上、フィギュアスケーターの競技者/演者としてのピークはどうしても人生の前半になる(羽生くんは色々な探究と努力によって、そのピークを引き延ばしているように思いますが)。それに対してピアニストの場合、29歳はいよいよこれからといった年齢でしょう。
また、角野くんは海外公演をどんどん行っています。今年はカーネギーホールデビューなのですね!一方の羽生くんのICE STORYは、うんと大掛かりな装置や機材が必須なので、公演を直接見たいとなると日本まで足を運んでもらう必要がある(グローバル配信や海外ライブビューイングを実現したのは素晴らしいと思っています)。日本という土地に根差した良さがありつつも、気軽に渡航しにくい状況にある海外のファンにとってはもどかしくもあることでしょう。
そんな、少し似ていたり似ていなかったり(どっちなの)するお二人ですが、いつか共演してくれたら私の喜びは大爆発します。チケットが取れなくて大変なことになるので、その時は、最低でもさいたまスーパーアリーナクラスのハコの用意をお願いします。
曲は前出の『火の鳥』あるいはピアノバージョンの『ボレロ』とかいかがでしょう(ご提案)。
夢見るだけならタダだと思いますので、チケット運を祈願しつつ良い子にして待ってます。以上、好き放題の書き散らしを失礼しました。好きなお二人を並べて書けて満足です!