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探し物はなんですか~第8話:不眠~

その日はまるで熱帯雨林の中にでもいるかと思うほどだった。

今夜ほど寝苦しいという言葉が似合う夜はない。

そう思いながら私はまとわりつくような暑さを少しでも紛らわそうとベッドの上で何度も寝返りを打っていた。

しかし私は寝苦しい理由が気温だけによるものではないこともわかっていた。なぜならここ最近日本列島を襲ったこの勢力の強い高気圧は先週からいすわっていたし、熱帯夜もここ最近ずっと続いていたからだった。今夜だけ違うことは一つしかなかった。

そう、昨日まではあったものがこの夜にはない、私の家のカギである。明日からどうしたらいいだろう、言いしれぬ不安が迫りくる睡魔を飲み込んでいたようだった。疲れ果てた頭の中で、私はカギがいつなくなったのかをもう一度考えていた。

会社から帰って家の扉を開けたときに見たカギ、財布から取り出したときに見たカギ、そしてランニングポーチに入れたときに見たカギ。

しかしあの日、あの時、あの場所で見たカギは今はどこにもない。

丸メガネの男ですら見つけられなかった。どこかにあるはずなのに。。。
あの日見たカギの居場所を僕たちはまだ知らない。そう思い、私はなんだか悲しくなっていた。
それにしてもカギのある夜というのは当たり前のことで、今まで意識すらしたことがなかったけど、ないとこうも不安になるものなのか。
カギを持っているということ。

そんななんでもないようなことが、幸せだったと思う。なんでもない夜のこと、二度とは戻れない夜・・・

そんな風に口ずさんでいると、飲み込まれた睡魔がそろそろ本気を出し始めたのか、私の意識が徐々に遠のいていくのを感じだ。薄れゆく視界の中でカギに対する思いだけが残っていた。

世界に一つだけの私の大切なカギ。常軌を逸するかのような思いが脳内に溢れた。私は布団の中でふとつぶやいた。

あれはオレが無くしたオレのかたわれさ。 オレが欲しかった、オレのかけらなんだ・・・

つづく


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