探し物はなんですか~第4話:愕然~
私がそれに気づいたのは8キロ走ったあとの達成感に浸っていた時であった。
私は歩きながらランニングポーチから携帯電話を取り出し、その中にあるであろうそれを探していた。しかしいくら指でひっかきまわしてそれらしき感触にぶつからない。私の指先がポーチの中で何度も宙を舞う。
焦った私は乱暴にランニングポーチをひっくり返してみた。しかし、ない。逆さに振ってみても、たたきつけても、そこにあるであろうそれがものの見事に消えていた。
そしてシェアハウスの家の前についた時にはそれがないことを受け止めるしかなかったのだった。
「マジで!?」
急いででそのあたりを探してみる。しかしない。
「え、これ落ちるわけなくない?でもそういえばちょっとチャックが開いていたような・・・」
こうなると疑心暗鬼にかられる。あの時車をよけた際にランニングポーチが傾ていたような、走っていてずり落ちそうになったのを何度かもとに戻したような、考えたらきりがない。でもないものはないのである。
家の前で呆然と立ち尽くしながら、私はシェアハウスのライングループに連絡していた。こんなことがあるなんて、だれか助けてくれと。走って疲れたのもあってもう動く気にはなれなかった。
数分後、扉があいて姿を現したのは競輪好きの人柄のいい住人だった。私はなんとか自分を落ち着かせながら冷静に事情を説明した。競輪好きの男はこう言った。
「きんぐ、大丈夫だよ。ぜったい出てくるって」
さすがこの辺り一帯を取り仕切っているステーキ屋の御曹司だけのことはある。根拠はないのに何故か安心感が感じられた。
「そうだよな・・・ちょっとオレ探してくる!」
私は思わず家を飛び出していた。そうすると私の背中からなんとも頼もしい声がした。
「もし、なにかあったらいつでもベルを鳴らしてくれ。今日は12時くらいまでなら対応するぜ!」
そして私は旅にでた。自分の足跡を辿る旅に。
つづく
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