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見上げればいつも四角い青空#9 居心地のよさというご馳走

天井が透明な球体の宿泊施設で星空を鑑賞する予定だった昨夜、あいにくの雨で星は観ることができず、残念さを抱えて眠りについた。
今朝も大雨ではないけれど、しとしとと降ったり止んだりを繰り返す。実は、こんな空模様もそんなに嫌いじゃない。

チェックアウト時刻までのんびり過ごし、施設を後にしたボクたちは、途中寄り道をしながら黒磯へ向かった。黒磯駅付近には、美味しいパン屋さんがたくさんあると聞いていたから、遠征版パン旅のつもりだった。

黒磯駅は、想定どおり、ボクの地元と同じような小さな駅だったけど、想定外だったのは、連休の祝祭日が影響して営業日が不規則なところにハマったことだ。
目指したパン屋さんが、ことごとく「本日休業」。
見つけるたびに無念な気持ちがボディブローのように少しずつボクたちの中に沈殿していく。

そんな失意の中、以前、雑誌“dancyu”で見かけた“SHOZO”という喫茶店を見つけ、気分転換に少しお茶でも、と思う。

店内は、古いから価値がある、古いから価値がないという二元論的な考えの外にある「手入れの行き届いた清潔な古さを感じるステキな空間」で、とても好感をもった。ところどころ暗く、ところどころ明るい。近くにいるはずのお客さんを、近くに感じすぎない距離感で、一つとして同じ席はないように見える。

そんないろんな居場所の中から窓際の席へ座ると、窓から見えるのは、ほんとうに普通の住宅街の道。特別ではないけれど、当たり前でもない感覚。
少年が濡れた道で滑って転んだ。
近くの友だちが、一斉に笑いだす。
見えないところにも友だちがいるのか、転んだ少年が、来た方向を指さし、大きな声で「笑うな!」と言い返した。

気を抜くと、居心地がよすぎて、この席に根が生えそうだ。

このお店には、美味しいコーヒーと美味しいケーキ、そしてちょっと長居しそうになる居心地のよさというご馳走があった。

外はまだ、ボクの嫌いじゃないしとしと雨だ。


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