【短編】幕が降りたら
観客の拍手。キャスト総礼。
取り合った掌に汗と温もりを感じながら、
雪菜は押し寄せる淋しさに耐えていた。
終わってしまう。みんなと一緒に居る時間が。
脚本家として役者としての時間に、幕が降りたら。文化祭公演の、幕が降りたら。
わたしはまた、ひとり。
総監督の琴華や主演の美紀とは違って、私は、
「脚本家だから」みんなと一緒に居られただけ。
公演前から仲良しだったみんなとは、違う。
夢の幕は、降りた。
琴華、美紀、ありがと。私みたいな部外者、相手にしてくれて。嬉しかったよ。
次の日、俯いて歩いていると、後ろから耳慣れた声がした。
「雪菜ちゃん!」「ゆきな〜!」
知ってる。この声は。驚いて振り返る。
「琴華!美紀!どうして…何か私に用事?
脚本、お客さんに不評だった、とか?」
「なんもないで。雪菜ちゃんおったから。
なあ美紀」
「そうやで!」
「…うん!ありがと!」
雪菜は大きく頷き、思いっきり笑いかけた。
そっか。もう私は、部外者じゃないんだ。
琴華も美紀も、多分他の子も、脚本家じゃなくなった私でも、こうやって話せるんだ。
公演の幕が降りた。
今度は雪菜自身の、大学生活の新章が幕を開ける。