「委員は恋に飢えている!」第51会
第51会「二学期終業式」
ゲーム部をかけた鮫川さんと金美さんの勝負も無事終わり、しばらくしてから期末テストもあった。
「日早片さん、負けないよ」
「こっちこそ」
なんて俺たちもテストで勝負したけど、結果は俺の敗北。
一位は日早片さんで984点、俺は二位で963点だった。前回は五位だったので日早片さんには負けてしまったけど、順位も点数も上がったのでうれしい。
ちなみに、土門は四位で941点だった。土門に勝てたのもちょっとうれしいな…。
期末テストが終われば世間はクリスマス、学生には冬休みもあるので校内は浮ついている。
それに伴ってみんな羽目を外してしまう……のを防ぐ風紀委員。
とても忙しそうだ。
まあ俺も少し周りの雰囲気に流されて浮つき気味ではある。
「よっ、二位の月くん」
「土門…。なんだよその言い方」
「別にー?お前に負けたからって悔しくないってのー」
「悔しいのか…」
「まあな」
そんな土門は美化委員副委員長の他に、サッカー部にも所属している。
それで四位、高得点なのだから俺なんかより全然すごいんだけどな。
「それで、どうしたんだ?」
「もうすぐクリスマスだろ?夏休みの時みたいに、なんかしたくね?まあ、まだ誰にも予定とか聞いてないんだけどさ」
「なるほどな。たしかに、いいなそれ。俺は大丈夫だよ」
クリスマスの予定なんて、特にないしな。この話が無かったらバイトを入れようかと思っていたところだ。
「だと思った」
「なんだよ。ていうかお前、何でパーカー?」
「ああ、今日寒いだろ?今のこの周りの雰囲気なら着てても大丈夫かなってさ」
浮ついているのはこいつもだった…。
「似合うか?」
「んー、あんまり」
「似合わないのかよ。まあ、俺も着てみて思ったけどさ…」
普段パーカーを着ている姿を見ないからか、違和感がある。
「てか、パーカーなんて着てたら風紀委員に怒られるぞ?」
「大丈夫だって。風紀委員の人もおおめに見てくれるさ」
「誰がおおめに見るんですか?」
「おわ!?」
急に聞こえた声に驚いて、土門は少し後ずさった。
「はぁ、どうしてあなたが風紀を乱すんですか…」
「つ、紡木ちゃん…」
「パーカーは校則違反です」
「ダメ…?」
「ダメです!」
紡木さん、鮫川さんの時も思ったけどこんなにも堂々と言えるようになったなんて…。
「それに、なんだか似合ってないです…」
「げっ」
「ほら、脱げよ。似合ってないんだから」
「分かったよ…」
土門は少し不満そうな顔をしながらパーカーを脱いだ。
「ごめんね、紡木ちゃん。ちょっとした出来心だったんだ」
「いえ、土門くんはすぐ正してくれたので、全然です。やっぱりクリスマスと冬休みのダブルパンチのせいですかね…。他の生徒の気もいつもより強くて困ってるんです」
「それは大変だ…」
紡木さんは困った様子でそう話した。
「あ!クリスマスといえば、さっき月と話したんだけどさ…」
土門は紡木さんにさっきの話をした。
「クリスマスですか…」
「どう?大丈夫そうかな…?」
「予定は特に…」
紡木さんは少し考えた様子で続けた。
「つ、つ、月くんは、どうするんですか?」
「俺?俺は予定ないし、参加しようかなって思ってるよ。夏休み、みんなで集まったの楽しかったしね。あれ以降時間なくてみんなで集まるっていうのがなかったから、今回みんなで集まりたいなっても思ってるよ」
「そうですか…。じゃあ私も、大丈夫です」
「やったぜ!これで俺たち三人は決定だな!」
紡木さんも大丈夫らしい。みんなも大丈夫だと嬉しいんだけど…。
そう思った時、またまた後ろから声が聞こえた。
「話は聞かせてもらったよ、三人とも!」
「か、火恋さん…。と金美さん」
声の方を向くと、頬を揉まれている金美さんと金美さんの頬を揉みしだいている火恋さんがいた。
「クリスマスだね。私たちも予定ないよー!」
「ちょっと火恋。私はゲームをやりた…」
「かなちゃんも大丈夫だって!」
「えぇ…」
金美さん、無理やり乗せられた感があったけど大丈夫なのか…?
「よし、これで五人だな。あとは日早片さんだけか…」
「あ、じゃあ日早片さんは俺が聞いてみるよ。生徒会あるし」
「よし、頼んだ」
こうして五人ともクリスマスが大丈夫だということが分かったので、みんな教室へ向かった。
「金美さん、本当に大丈夫?」
「んん?何がぁ?」
俺は一応金美さんに、ほんとに大丈夫なのか聞いてみた。
「クリスマス。さっきゲームしたいって…」
「ああ、それねぇ。…ふふっ、月くん真面目だねぇ」
「だって、やっぱりみんなで楽しく過ごしたいじゃん…。もし嫌だったりしたら強制はできないしさ…」
「…ふふっ、大丈夫だよぉ。ゲームはいつでもできるしねぇ。それに…」
「それに?」
「…こうやってみんなで集まるのも、結構好きだしねぇ」
どうやら杞憂だったようだ。
「…そっか!ならよかった!俺もみんなで集まるの好きだからさ。それじゃ当日、楽しもう」
「うん、そうだねぇ。楽しもうねぇ」
そして俺は金美さんとわかれ、みんなより遅れて教室に戻った。
その日の放課後。生徒会室には俺と日早片さんしかいない。
英田会長は職員室に用事があるということで遅れてくるそうだ。
俺は仕事をしながら日早片さんに声をかけた。
「ねえ、日早片さん」
「…なに」
「クリスマスって、予定ある?」
「!?」
日早片さんはびくっと体を揺らしてゆっくりこちらを向いた。
「どうしたの?」
「…別に、予定はない」
「ならよかった」
これならきっと日早片さんも来てくれるだろう。
「…なんなの」
「クリスマスさ、『一年委員会!』のみんなでクリスマス会をやろうって話になっててさ。今のところみんな大丈夫っていう感じで、日早片さんも来れるかなって。でも、予定ないなら大丈夫そうかな」
「…」
日早片さんはにらむようにこちらを見ている。
どうしたんだろう…。
「…勝手に決めないで」
「でも今予定ないって…」
「予定ないから行けるっていうことにはならない」
「何かあるの?」
「…」
「ないんでしょ?」
「…うるさい」
どうしたんだろう…。
その時、生徒会室のドアが開き、会長が入ってきた。
「お疲れ様。遅くなったわね。申し訳ないわ」
「お疲れ様です」
「…お疲れ様です」
「あら、どうしたの?二人で向かい合って」
「何でもないです」
俺が答える前に日早片さんが答えた。
「そう?もう少しで終業式だし、どんどん進めないと冬休みも学校に来ることになるわよ。さあ、やりましょう」
会長も席に座って書類に目を通し始めた。
日早片さんも仕事に戻っている。
さっきの話はどうなるんだ…。
そう思った時、俺のスマホに通知が届いた。
メッセージの相手は―日早片さん。
『いける』
俺は特に返信することもせず、自分の仕事に戻った。
なんだ、やっぱり行けるじゃんか…。
時は過ぎて終業式の日。
特に問題なく式を終え、それぞれが自分の教室に戻っていく。
俺たち生徒会は会場の片づけ(といっても演台と先生の椅子くらいしかないが)を行ってから教室に戻る。
「気づいたら、今年も終わりね…」
「早いですよね」
「新生徒会になってからはもう一か月経つけれど、慣れたかしら?」
「まあ、慣れたといえば慣れたような、慣れてないといえば慣れてないような…」
「なによ、それ」
「もちろん、できるようになったことも増えましたし、仕事の量にいちいち驚くことも減りました。そういう点では慣れたって言えるのかもしれないです。でも、仕事の速さとか質とか…。そういう点では二人に全然及ばないですし、まだ慣れてないです」
この二人と一緒にいるとより感じる。
俺の不出来さ、実力の無さ。
「…まあ、それは仕方ないわ。私二年、日奈は一年近く生徒会で仕事をしているのだから。この差を埋めるのは一筋縄ではいかない」
会長はそう言ってくれるが、だからできないという言い訳にしてはいけない。
「それでも月は、頑張っているじゃない。入学してから今まで委員会を回って委員長からサインをもらって、テストも選挙も頑張って、ここまで来たじゃない。まあ、生徒会に入ってからは頑張りすぎて熱を出したりしていたけれど」
会長はジト目で俺の方を見つめている。
「そ、それは…」
「ふふっ、冗談よ。そうなるくらい頑張れるのだから、大丈夫よ。きっとすぐに追いつけるわ」
「だといいんですけど…」
会場の片づけが終わり、俺たち三人はステージ下に集まった。
「さて、今年の仕事はこれでおしまいね。二人とも、お疲れ様」
会長はそう言って俺と日早片さんの二人を交互に見る。
「日奈、月。来年もよろしく」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ、解散。冬休み、楽しみなさい」
会長はそう言って体育館から出ていった。
俺を励ましてくれて、俺を書記に選んでくれて…。
この人のおかげで生徒会に入るというラインに立つことができた。
英田会長の力になれるよう、そして生徒会長になれるよう三学期、そして来年も頑張ろう。
その前にクリスマス会だな。
生徒会の仕事とかそういうのは一旦忘れて、楽しもう。
こうして濃くて長い俺の最皇高校一年生二学期は終了した。
後書き
五十一話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
この話で二学期は終わり、と言いたいところですが、日常回が何話か続きます。その後に冬休みっていう感じです。
あと、リアルの方が少し忙しくて、なかなか書き進められないのがちょっと悲しいというか、残念というか、悔しいというか…。
…………。
ええと…ちょっと書くことが無くて困っています。
最近、推しのライブに行きました。声優さんです。はい。
…………。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。