「委員は恋に飢えている!」第28会



第28会「新学期」


約一か月の夏休みが終わり、今日から二学期が始まる。
夏休み中はいろいろあったが、どれも楽しい思い出だ。
バイトもたくさん入れたおかげでお金もかなり稼ぐことができた。

ファミレスのバイトは夏休みの間だけにしようと思っていたのだが、気前のいい店長で籍は残しておいてもいい、シフトに入れる日があったらいつでも声かけてと言ってもらった。
もちろん学校の方を第一で考えるつもりではあるが、時間ができたり入れそうな日があったりしたら連絡しようと思う。

「おーはよっ!月くん!」
「おはよぉ」
「火恋さん、金美さん。おはよう」
「いやー、今日から二学期だねー。夏休み、終わってほしくなかったなー」
「ほんとだよぉ。せっかく毎日ゲーム三昧の生活だったのにぃ」
「それは今も変わらないでしょ!」
火恋さんと金美さんは相変わらずのやり取りをしている。

今日も金美さんは火恋さんにほっぺを触られたまま抵抗しない。
少し雑談をして、二人がトイレに行くというので俺たちはそこで別れた。
(お、あれは…)
俺は前を歩いている見知った人に声をかけた。

「おはよ。紡木さん」
「ひぃ!…あ、お、おはようございます!月くん」
「びっくりしすぎだよ」
「急だったので…」
紡木さんとは夏祭りの時に変な感じになってしまったので、そのままだったらどうしようと心配していたが問題なさそうだ。

「もう二学期だね」
「そ、そうだね…ですね」
紡木さんは夏祭りの時に話したように敬語を直そうとしてくれていた。
それはとても嬉しいことなのだが、なんだか紡木さんとの距離がおかしい気がする。
俺と人二人分くらいの距離を空けながら並んで歩いているのだ。

「…紡木さん?」
「な、何?…ですか?」
「なんか距離が遠い気がして…」
「そんなことありま…ないよ。いつもこんな感じだった…よ」
絶対に嘘だ。今まではもう少し近かったはずだ。

やはり夏祭りでの出来事が嫌だったのだろうか。
「ごめん。ほんとに、夏祭りの時のことは忘れてもらっていいから…」
俺がそう言うと紡木さんは立ち止まった。

「…たんに…わ…いです」
「え?」
「そんな簡単に忘れられるわけないです!!!」
紡木さんはそう声を荒げると、顔を赤くしながら走って行ってしまった。

「ええ…。そんなに敬語で話さないでって言ってほしくなかったのかな…」
俺は敬語の件について言ったつもりだったので、ジンクスに悩まされているとはつゆ知らず、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



教室に入ると、すでにほとんどの生徒が集まってそれぞれ話をしていた。
夏休み中、何をしていたとかどこに行ったとかという話題で溢れかえっている。

「おーっす、月」
「おはよ、土門」
土門は俺の後ろから肩に手を回して挨拶をしてきた。

「ずいぶん遅いな。朝練か?」
「そ、朝練。てか、お前も大して変わんないじゃねーか」
「だな。朝練お疲れ様」
そして俺たちは自分の席に向かった。

「おはよ、日早片さん」
「…おはよう」
俺はまた参考書を開いていた日早片さんに挨拶をした。
俺たちの関係性も一学期、夏休みを通して少しだけ近づいたのを実感した。
日早片さんから挨拶が返ってくるようにまでなっているのだから…。

「メッセージの使い方には慣れたかい?」
「…うるさい」
あれから何度かみんなで連絡を取ったりしていたが、日早片さんの返信は遅く誤字だらけのままだった。

「そろそろ慣れてもいいんじゃないの?」
「あとちょっとで慣れる」
「自分でタイミングとかわかるものなのか…?」
そんなやり取りをしていると先生が教室にやってきて朝のHRが始まった。



なんだかんだ一日を終え、俺は生徒会室に向かっていた。
「失礼します」
挨拶をしてドアを開ける。

「久しぶりだな。夏休みは楽しめたか?」
「はい。おかげさまで高校生活初の夏休みは楽しく充実して過ごすことができました」

「それは良かった。そういえば、英凛と同じ店でバイトを始めたんだってな」
「そうなんです。英田先輩にはとてもお世話になりまして…」
俺は入神会長の隣に立っていた英田先輩の方を見ながら話した。

「そうですね。まあ、比較的できている方ではあったのではないでしょうか。教えるのとかは面倒でしたけど」
英田先輩は目をつむりながらそう答えた。

「そうか。二人とも楽しく過ごせたようで良かった」
そんな会話をしていると、生徒会室のドアが開いて日早片さんが入ってきた。
「申し訳ありません。遅れました」
「いいさ。これで全員揃ったな」
そういうと入神会長は席に座って説明を始めた。

「改めて、新学期になったがみんなにしてもらう仕事は今までと大差ない。これからも頑張ってほしい。そして月。お前は一学期の間でしっかり各委員長からサインを受理しているな。二学期は特にどの委員会に行け、ということはない」

「それじゃあ、どうすればいいんでしょうか」
「ああ。これから生徒会選挙までの間は、すべての委員会の手伝いをしてもらう」
「すべて、ですか」
「そうだ。もちろん毎日全部の委員会に行けというわけではないから安心してくれ。基本的には美化委員と風紀委員と経理委員を交互に回ってもらう。そして文化祭の期間は催事委員の手伝いを、という感じだ」
「わかりました」

「もちろん、俺たちが何か手伝ってほしいことがあるときはお前に話すから、その時は力を貸してほしい」
「もちろんです」
入神会長からそう説明を受け、今学期にやることが明確になった。
俺は改めて気合を入れる。

「そして俺は生徒会選挙で副会長になって、その後は生徒会長に…」
俺がそう言うと日早片さんが俺の前に出てきて指をさした。
「だから、副会長、そして生徒会長になるのは私」
日早片さんと生徒会室にいるときは毎回この流れをやっている気がする。

「俺だって、負けない」
こうして日早片さんと再びライバル宣言をして、新学期一日目は終了した。
明日からまた、忙しい毎日が待っている。
いずれ生徒会長になるため、とりあえず今は今やるべきことを。

そして生徒会長になるための近道でもある生徒会副会長になれるように明日からまた頑張っていこう。そう思いながら俺は下校した。


後書き

二十八話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
夏休みも終わり、とうとう二学期に突入です。
二学期には文化祭、そして生徒会選挙があるので忙しくなりそうですね。
まあみんなそれぞれ頑張ると思いますのでぜひ見守っていただければと思います。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。


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