「委員は恋に飢えている!」第46会
第46会「委員会会議」
選挙が終わって数日。
俺は少し気が抜けていた。気を張っていた時間が長かったので、その反動だろうか。
俺は英田先輩に指名してもらい生徒会書記になるこができた。
そして今回の選挙で、俺は周りの人に恵まれているということを改めて感じた。
実際、世理先輩から励まされ、英田先輩と日早片さんに励まされ、土門や火恋さん、金美さんや紡木さんにも声をかけられた。
みんなの優しい言葉のおかげで俺は立ち直ることができたのだ。
ほんとうにありがたい。
「失礼します」
今日は生徒会室に呼び出されていた。引継ぎを行うらしい。
「お疲れ様」
俺が生徒会室に着いたとき、もうすでに英田先輩と日早片さんがいた。
「遅い」
「ごめんって」
日早片さんに注意されてしまった。確かに遅くなったけど、まだ時間になってないし…。
そう思っていた時、生徒会室のドアが再び開いた。
「遅くなったな…」
「入神会長、お疲れ様です」
「「お疲れ様です」」
「おい、やめてくれ。もう会長じゃないんだ。今の会長はお前だろう?英凛」
「す、すみません。いつもの癖で…」
「はは、自分で言っておいてなんだが、俺ももう会長じゃないんだな」
入神会長、いや、入神先輩はそう呟いた後、俺の方を向いた。
「書記はお前になったんだな、月」
「はい。英田会長に指名してもらって書記になることができました」
「そうか。お前は全委員長からサインをもらって、立候補して、英凛に選ばれた。今までの頑張りや経験はきっとこれから役に立つ。頑張れよ」
「はい!」
入神先輩はそう言った後、今度は日早片さんの方を向いた。
「副会長は日奈だな」
「はい」
「日奈は成績もいいし仕事はいつも完璧だった。去年、間近で見て、一緒に仕事をした経験を活かして、学校のため、そして生徒会長のサポートを頑張ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
「そして…」
入神先輩は英田会長の方を見る。
「英凛」
「はい」
「…今までいろいろサポートしてくれたな。ほんとうに助かった」
「いえ、私は…」
「英凛にはこれだけ…」
そう言って入神先輩は深呼吸をした。
「…頼んだぞ」
「…!はい!」
入神先輩から激励を貰った後、俺たち三人は今後の仕事について話をした。
「まずは新生徒会と各委員会の委員長、副委員長との顔合わせね」
「そうですね」
「今回の委員会会議の時に行いましょう」
「これが初めての仕事か…」
「何言ってるの?」
「え?」
俺は英田会長にツッコまれた。
「仕事は今からよ?」
「…というと…?」
その時、日早片さんが大量の書類を机に置いた。
「これから、この書類のチェックと各委員会への連絡をするのよ」
「……マジですか」
日早片さんはもうすでにスタートしている。
「さあ、気合入れていくわよ。あなたには仕事に慣れてもらうためにどんどん割り振るから覚悟していなさい」
英田会長の一言を聞いて俺は唾を飲み込んだ。
「…やってやりますよぉぉ!」
こうして新生徒会の活動がスタートしたのだった。
そして委員会会議当日。
会議室に各委員会の委員長と副委員長が集まっていた。
俺たち三人も会議室に入る。
「皆さん、揃っていますか?」
副会長である日早片さんが問いかけた。
全員そろっているようだ。
「それでは、委員会会議を始めます」
進行は副会長の日早片さん。俺は書記として会議の内容をまとめる。
「初めに、生徒会、各委員会が新体制となってから初の委員会会議なので、軽く挨拶を。では、会長から、お願いします」
「ええ。新生徒会長の英田英凛です。よろしく」
「新生徒会副会長の日早片日奈です」
「…」
沈黙が続く。
「…次はあなた」
日早片さんにそう言われて気づいた。
「あ!いや、ええと…。すみません。新生徒会書記の月浦月です。よろしくお願いします」
そうだ。俺はもう書記なんだ。
まだどこか切り替えられていないことに反省し、気合を入れなおす。
「それでは、風紀委員の方からお願いします」
「はい。風紀委員会委員長の佐野律十です」
風紀委員長の挨拶が終わり、副委員長の挨拶になる。
「ふ、風紀委員会副委員長の、き、木本紡木、です!よ、よろしくお願いしまふ!」
紡木さん…。噛んだな…。
紡木さんの方を見ると顔が真っ赤になっていた。
俺もすぐ挨拶できなかったから人のこと言えないけど…。
「ありがとうございます。では次に、経理委員会、お願いします」
日早片さんの進行で経理委員の番になった。
「はい。経理委員会委員長の金速金恵です。頑張りますので、よろしくお願いします」
「はぁい。ええとぉ、副委員長の金速金美でぇす。委員長の妹でぇす。おねがいしまぁす」
金美さんは相変わらずマイペースだな…。
金恵先輩も金美さんを見て何か言いたそうな顔をしている。
「では次に、催事委員、お願いします」
「はい!催事委員会委員長の湖江楽です!みなさんの学校生活を盛り上げていきます!」
催事委員長はすでにやる気に満ち溢れていた。そういえば最皇祭の時も張り切っていたな…。
「はいはーい!催事委員会副委員長の紗衣火火恋でーす!委員長のサポートをしながら、学校を盛り上げていきまーす!」
火恋さんもテンションが高い。いや、いつも通りか…。
「最後に、美化委員。お願いします」
日早片さんが進めると、美化委員の委員長と副委員長が立ち上がった。
「美化委員委員長、結川藍。よろしく」
「副委員長の土内土門です。ええと、学校きれいにします」
結川先輩は英田会長の方をにらんでいる。
英田会長もにらみ返している。
なんだか、険悪な雰囲気だ。
バチバチという音が聞こえてくる気が…。
「はい。みなさんありがとうございました。それでは、本題に入ります。各委員会、これから何を取り組んでいくか、そのうえで私たち生徒会への要望やほかの委員会に知ってほしいことなど、それぞれ報告お願いします。風紀委員からどうぞ」
「風紀委員では…」
こうして、各委員会からさまざまな意見が飛び交いながら会議は進んでいった。
俺は大事なことを取りこぼさないよう、必死に議事録を作成する。
そして全委員会が報告を終了し、日早片さんが進行を続けた。
「それでは、最後に会長から。何かありますか?」
「…そうね。私たち含めどの委員会も新体制になったばかりで慣れないことも多いと思う。でもそんなことは言ってられない。だから生徒たちが過ごしやすく、楽しく生活できるような学校を作り上げていくために、協力して、力を合わせて頑張っていきましょう。私たちがこの学校を引っ張っていくのだから。みなさん、お願いします」
英田会長の挨拶に拍手が起こる。
結川先輩はそうではなかったが…。
「それではこれで委員会会議を終了します。みなさん、お疲れ様でした」
各委員長たちが会議室からいなくなる。
「ふぅ…」
何とか会議の話をまとめることができた。
日早片さんの手伝いをしたことはあったけど、こんな風に全部一人でやるのは初めてだったのでかなり戸惑ってしまった。
「お疲れ様。議事録、もらってもいいかしら」
俺はまとめた議事録を英田会長に渡した。
「…うん。及第点ってところね」
「及第点ですか…」
「そうね。ほんとうに必要なところは記録されているけど、他にも書いておいてほしいことがあったわ。ちょっとしたこととか、何気なくポロッと出た言葉がとても大切なことだったりすることもあるもの」
「すみません…」
英田会長の言う通り、俺は必要なことを記録するだけでいっぱいいっぱいだった。
こんなに大変だったとは…。今まで日早片さんはずっとこれをしてきたのか。
「あの、日早片さんはどうだったんですか?」
俺は気になって聞いてみた。
「日奈?日奈はかなり記録できてたわね。もちろん最初の方は今の月くんみたいな感じだったけど」
英田会長がそう言うと、日早片さんは俺の作成した議事録を手に取り、見つめていた。
「…会長…」
「?どうしたのかしら、日奈」
「これと最初の私を一緒にしないでください」
「な!?」
日早片さんはそう言うと過去の議事録を探し出した。
「似たようなものじゃなかったかしら?」
「ち…がいます…よ、っと…。…はい」
「なんだよ…」
「見てみて」
俺は日早片さんが初めて作成した議事録を受け取った。
「…」
そこには今回俺が作成したものとは天と地の差がある議事録があった。
「…まじか…」
こんなにも俺と日早片さんに差があったなんて…。
日早片さんの方を見ると、勝ち誇ったような顔をしていた。
「さすがにこっちの方がしっかりできてるわね…。ごめんなさい、日奈」
「いえ」
そう言うと日早片さんは議事録をしまった。
「まあ、これから慣れていけばいいわ。今回が初めてだったのだし、大事なところを記録できていればオッケーよ。次、よろしく」
英田会長はそう言ってくれたが、俺はかなりショックだった。
これでは日早片さんには勝てない。
日早片さんに追いついて、そして勝つためにはもっと努力しないと…。
こうして新生徒会、新委員会が発足して初めての委員会会議が終了したのだった。
後書き
四十六話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
一週間ぶりの投稿になりました。
新生徒会になってから初のお仕事。月も頑張りましたが、やはり日早片さんには及ばなかった…。
でもこれから慣れていけばいいので、大丈夫です。
そして委員会では、新たな委員長と副委員長が決まりました。
皆しっかり副委員長になってくれてよかったです。
きっとこれから委員会と生徒会が絡む場面が増えると思うので、いろいろ書けていければなと思います。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。