「委員は恋に飢えている!」第45会



第45会「選挙結果」


「集計が終了しました。ただいまより掲示板にて報告します。十五分後に放送でもお伝えします」
社先輩からのアナウンスを聞いて、俺は急いで掲示板の前に行った。

大丈夫。
そう言い聞かせながら走り、掲示板の前に到着した。
そこにはすでに何人かの生徒がいた。
英田先輩と日早片さんもいる。

二人の表情はなんだか曇った様子だった。
もしかして俺が…!
俺は慌てて結果を見る。
「結果は…」

「え…?」
俺は票数を見て愕然とした。
「いや、そんな、嘘だろ…」
何度見返しても結果は変わらない。当然だ。事後なのだから。

『新生徒会長:二年 英田英凛 436票

 新生徒会副会長:一年 日早片日奈 402票
 一年 月浦月    38票

以上の結果より、新生徒会長を英田英凛、新生徒会副会長を日早片日奈に決定する。』

「なんでこんなに…離れてるんだ…」
俺は信じることができなかった。
結構手応えだってあったんだ。こんなに離れることなんて…。

「…月。もし…、って、ちょっと!」
俺はその場から走り去った。
なんでこんな…。そんなに差があったのか?俺と日早片さんには、そんなに…。
彼女がすでに書記を務めていたからか?学年トップだからか?それとも他に惹かれるものが?

もちろん、これが結果なのだから受け入れなければいけない。
それでも俺は納得することができなかった。
悔しさと恥ずかしさがこみあげてくる。
「くそっ…」



俺はそれからしばらく掲示板から離れたところで心を落ち着かせていた。
「…はぁ…」
俺はいろいろ考えていた。どうして負けたのか、何がいけなかったのか…。
でも、考えてもあまり出てこなかった。

日早片さんに負けてしまった。惨敗だ。
全校生徒の九割以上(全校で450人)が日早片さんに入れたんだ。
俺には足りないものがあったっていうことだろうな…。

「…よし…」
俺は何とか気持ちを切り替えて、教室に戻ろうとした。
そういえばさっき、英田先輩が何か俺に話しかけていたような…。
それも聞きに行こう。

そう思った時、近くを通りかかった男子生徒の集団の声が聞こえてきた。
「なあ、お前どっちに入れたよ?」「俺は日早片さんだなー」「俺も」
「っていうか、正直どっちでもいいよな」「それなー」
「選挙なんかに興味ないしな、誰が生徒会長とかでもいいわ」
「副会長なんてなおさらな」
「日早片さんの方がテストの順位一番だし、もうそれで決めたわ」
「俺、演説誰のも聞いてない」「俺も」

「…は?」
なんだよそれ、どういうことだ?
どっちでもいい?演説聞いていなかった?ちゃんと聞いて判断してくれてるんじゃないのかよ…。

「…ははっ、なんだよ…」
そういうことかよ。
俺が選挙前、いろいろしてきたことに反応が少なかったのは、そもそも興味がなかったからってことかよ。
じゃあ俺がやってきたことって…。

その時、誰かが俺の名前を呼びながら走ってきた。
「月くーん!」
誰だ?でも今は、反応する気力もない。

「月くん!」
「…世理先輩…。どうしてここに…?」
「!?い、いやー、なんとなく…?」
「…」
「月くん、大丈夫…?」
「いえ…、はい…」

「…結果、残念だったね…」
「…はい…」
「でも、月くんも頑張ってたよ」
「…意味なかったんです」
「え?」

だめだ。世理先輩にあたるな。
「俺が頑張ったのなんて!全部無駄だったんですよ!…誰も今回の選挙に興味なんてなかったんですよ…」
「そんなこと…」
「よく考えればそうだった…。結局誰の目にも見えていなかった…。選挙前だってそうだ。俺のことを知ってもらおうとしたときも、誰も反応してくれなかった」

世理先輩にこんなこと言って何になる…。
「そりゃそうだよな。興味ないんだから、聞く意味もないよ」
「…」
「…きっと、俺が今まで頑張ってきたことも、これから頑張ることも全部、無駄なんだな…」
「そんなことない!」
「…!?」
その時、世理先輩の腕が俺の体を包み込んだ。

「月くんが今まで頑張ってきたことは無駄なんかじゃないよ…」
世理先輩は俺を抱きながら続けた。
「月くんのこと、見てくれている人だってたくさんいる。私もそう」
「…」
「月くんが気づいていないだけだよ。少なくとも私は、月くんの頑張りをずっと見てきたよ…?大丈夫。あなたのことは私が見てる。これからもずっと、見てるよ…」

世理先輩の腕の中はとても温かく、俺を安心させてくれた。
「…どう?落ち着いた?」
「はい、すみません…」
「なら良かった!」
「ありがとうございます」
世理先輩のおかげで俺はだいぶ落ち着くことができた。

「…って、ご、ごめんね!いきなり!」
そう言って世理先輩は俺から飛ぶように離れた。
「いえ、とても温かかったです。世理先輩のおかげで落ち着くことができました」
「そ、それは良かった」
「…すみませんでした。世理先輩にあたるようなこと…」
「大丈夫だよ。それで月くんの気が晴れるなら、いくらでも…」
ああ、本当にこの先輩は…。どれだけ優しいんだろう…。

「ねえ、月くん。来年、また挑戦すればいいじゃない」
「でも、俺はもう生徒会役員じゃなくなりますし、立候補するには来年もまた同じようにしないといけない…。来年はきっと勉強もほかのことも忙しくなって、もっと難しくなる…。俺なんかには…」
「月くんならもう一度できるよ。今回も頑張れたんだもん。大丈夫。私が保証する!」

世理先輩のおかげで気持ちの整理ができた。
「…そうですね。俺、来年も頑張ってみます!」
「うん!その意気だよ!」

「月」
その時後ろからまた俺を呼ぶ声が聞こえた。
「英田、先輩…」
「急に走り出して、人がものを言おうとしてたのに…」
「すみません…」

「その様子だと、気づいたようね」
「はい」
「みんな選挙に興味ない。生徒会長には運営や校則の最終決定権があるけど、私用は許されないから自分たちに不都合が起きるわけでもない。だから誰が生徒会長になったところでどうでもいい。生徒会長でそれなんだから、副会長なんてもってのほか。この選挙も形だけ…」
「…」

「だから、何をしても意味なかったのよ」
「…」
「さっきまではね」
「え?」
そう言って英田先輩は一呼吸してから続けた。

「月浦月。あなたを新生徒会書記に指名します」
「!?」
え、今、なんて…?

「書記は私に指名する権利があるもの。あなたを選んだのだけれど」
「それはそうですけど…」
「あら。嫌なら断ってもいいのよ。拒否権があるのだから」
「や、やります!でも何で…」

「あなたが副会長になるためにしてきたこと、頑張り、確かに周りには何の意味もなかった。でも私が見ていた。学校のために頑張ってくれる人が役員の方が良いでしょう?確かにあなたは生徒会長になるのが最終目標かもしれない。でもそのためには役員になって近くで仕事を見た方が良いと、私は思うわ。それに…」
「?」
「…いえ、やっぱり何でもないわ。それで、どうするの?あなたは私が率いる新生徒会の書記を務めてくれるの?くれないの?」

ああ、俺がしてきたことは無駄じゃなかったのか…。
でも、みんなの興味がなかったとはいえ、全然票を集めることができなかった俺なんかがなっても…。

「ごほん…」
「!?」
咳が聞こえた方を見ると、日早片さんが腕を組んで立っていた。

「だから言ったの。私には勝てないって」
「…」
負けているのだから、返す言葉もない。

「でも…」
「…?」
「この結果、私も納得していない。そもそも私に有利だった。来年、私と同じ条件でもう一度戦うために、生徒会の仕事をしていけばいい…と思う」
日早片さんはそう言って俺をまっすぐ見つめていた。

ああ、俺は周りの人に恵まれている。
俺に気にかけてくれる人。俺の頑張りを見てくれている人。俺を信じてくれる人。俺と対等に戦おうとしてくれる人。

「俺、やります。新生徒会の書記として、頑張ります」
この人たちに応えたい。そして…。
「これで新生徒会発足ね。それじゃあ、みんなよろしく」
「よろしくお願いします」
「お願いします」

俺はこの強いライバルに勝って、絶対生徒会長になるんだ。


後書き

四十五話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
全然更新できなくて申し訳ないです。リアルの方が少し忙しくて、なかなか書けません。
でも遅くても一週間以内には必ず一話更新できるようにはしたいと思っています。
さて、選挙も終わり、新生徒会が発足しましたね。
月は負けてしまいました…。が、書記になることができてよかったです。
私が学生の時は生徒会選挙ってみんなあまり興味がなかった感じでした。国の選挙も、今では少しずつ増えている気がします?が、それでもやっぱり興味がない人が多いですよね。
正直私も学生時代あまり興味はありませんでした。今になって、ちゃんと考えておけばな…とか思ったりしています。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。


第一話〜はこちらから


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