「委員は恋に飢えている!」第55会
第55会「それぞれの進路(日常④)」
「これ…!」
「そうだよ!秋生ちゃんが好きなチョコクッキー!絶対喜ぶと思って買ってきたの!」
「春音ちゃん…!」
秋生はとても嬉しそうにクッキーをほおばった。
そんな秋生を見ながら俺は目の前にある個包装の和菓子をとった。
寒天ゼリーのようなもので、俺はこのお菓子が結構好きだ。
特にこの緑色のマスカット味が…。
「…?」
マスカット味じゃない。
色は緑だし、マスカット以外のフルーツといえばメロンや青りんご、珍しいものでキウイなんてものもたまに見るが、そのどれでもない。
というかあまり…。
そんな俺を見て、クスクス笑っている二人がいた。
冬馬と夏都だ。
「勉。寒天ゼリーはおいしいか?」
「いや、これはあまり…」
「だよな?なんたってこれは、キュウリ味なんだから!」
キュウリ味…。キュウリは別に嫌いではないが、こう、ゼリーとなるとやはり合わないな…。
「私が選んだんだ」
「夏都か…」
「どうだ?面白かっただろう?」
「いや、別に…」
「なに!?」
夏都は少しショックを受けたようだ。
「なっちゃんが買ってたのってそれだったの!?」
「ああ。センスあるだろう?」
「ないよ!?」
「なに!?」
もう一度夏都はショックを受けていた。
「他にもあるんだ。謎味のジュースにチョコがらし(唐辛子とチョコのよくわからないやつ)、イカグミなんかも…」
「なっちゃん?それ、実費だよね?」
「え…」
「実費だよ、ね?」
夏都が春音に詰められている。
「と、冬馬からも何か言ってくれ。経理委員長だろ?」
「いや、俺はもう経理委員長じゃないからな…」
「お前!裏切ったのか!?お前も一緒に選んでいただろう!?」
「し、知らねー」
「貴様…」
冬馬を信じるからそうなる。ドンマイだ、夏都…。
そんなこんなで時間が過ぎていくと、冬馬がふとつぶやいた
「いやー、いろいろあったよな…」
冬馬は何か思い出したようで、それが笑えることだったのか耐えようにも耐えきれず飲んでいたジュースを吹き出す。
「ちょっと冬馬くん!汚いよ!」
「わ、悪い春音。でもさ、思い出したらさ…、ははっ!」
「一体何を思い出したんだ?」
夏都が問いただした。俺も気になる。
「ほら、ちょうど去年の今頃かな…?俺たちが委員長になって初めての長期休み前の委員会会議で春音が消えてさ。時間になっても来ないから探し回っただろ?」
「あったね…」
秋生は複雑な表情をしていた。そういえばそんなこともあったな。
「それで結局見つからなくて、ここに戻ってきたら椅子に座りながら寝てて。どこに行ってたのか聞いたら『ロッカーの中で驚かそうとしたら寝ちゃった…』って言いながらまた寝始めたんだよな…」
「もう!それはほんとにごめんってば!」
あのときは大変だった。
携帯に連絡してもつながらないし、どこにもいないから何かあったんじゃないかって心配もしたな。
副委員長たちにも協力してもらった。申し訳ないことをしたな。
「あのときは、冬休み前でテンションが上がっちゃって、みんなを驚かせようとして…。ロッカーに隠れて揃ったら登場!みたいな感じにしたかったのに気づいたら寝ちゃってて、起きたらみんないないし…。私が悪いんだけどさ!」
「まあ、楽しかったよね?」
「いや、秋生、結構怒ってたよね!?」
「それは、だって、心配だったから…」
「秋生ー!」
春音は秋生に勢いよく抱き着いた。
「他にも、冬馬修羅場事件とか勉と秋生の沈黙勉強会とか…。たくさんあったな」
夏都も楽しそうに話している。
「そういうのも、今日で一区切りだね…」
「…」
春音の一言に沈黙がおとずれる。
「みんな改めて進路の方は大丈夫なのか?」
俺はこの空気を払拭するために、みんなに進路を聞いた。
すでに知っているが。
「私はもう推薦で決まってるよ。生物の研究に力を入れている大学から来ないかって言われて、興味もあったからそこに決めたの」
「俺も第一志望、推薦で決まったな」
秋生と冬馬は推薦ですでに合格が決まっているので受験は終了している。
秋生は言っていたように生物の研究に力を入れている大学、冬馬は経済について詳しく学ぶことができる大学らしい。
「私はこれからだな。もちろんT大だ。落ちるつもりはないが」
「私も今必死に勉強してるよー!みんな、分からないところ教えてー!」
夏都と春音はこれから一般入試で進学する予定だ。
夏都が目指すT大は日本で一番偏差値が高い。俺もそこに行こうと考えている。
春音は世界の文化や歴史に興味があるらしく、その分野に強い大学を目指している。
そこで学んだことを基に、いろいろな祭りやイベントを自分で計画して開催するのが夢らしい。
二人とも判定はAだと言っていたし大丈夫だろう。
「勉は?まだ悩んでたって言ってただろ?」
「俺は…」
「やっぱり特権を使って、T大に行くのか?」
入学当初は生徒会長の特権を使ってT大に行こうと思っていた。
だが、実際生徒会長として学校を運営していくことでできることも増えた。
今の俺なら特権を使わなくともT大には入れるだろう。
俺は…………。
「いや、特権を使って大学に行くことはしない」
「え」
また全員が目を見開いてこちらを見ている。
「じゃあ、どうするの!?せっかく生徒会長になって頑張ってきたのに…」
「春音の言うとおりだな。勉、自分の努力で手に入れた権利なんだ。使うことで楽になるのにつかわなくてもいいからと権利を行使しないのは正直バカなことだと思う」
夏都は俺を真剣な眼差しでにらみ、説得した。
「すまない。言葉足らずだった。大学は行く。特権も使う。だが、大学進学には使わない」
「それじゃあ、どうするの?」
秋生は眉をハの字にして聞いてくる。心配してくれているのだろう。
同じように心配してくれているみんなを見てから、俺は考えていたことを口にした。
「俺は総理大臣になろうと思う」
「「「…」」」
「「「えええええええ!!!?????」」」
想像よりもみんな驚いていた。
「お前、なんだよそれ、え、聞いてねえよ」
「今初めて話したからな」
「驚いた。勉がそんなことを考えていたなんて」
普段クールな夏都の表情も崩れている。
「実は昔から少し憧れていたんだ。今までは俺には無理だと思っていたんだが、この学校での生活と生徒会長の経験を活かしていけば道はあるんじゃないかと思ってな。もちろんそれだけでは足りないし、これからも学ばないといけないことだらけではあるのは重々承知だが…」
そうだ。この学校で俺はたくさんのことを学んだ。生徒会長として学校を引っ張ってきたのもその一つ。きっと将来に活かせるはずだ。
「じゃ、じゃあ!大学には行くとして、特権はどうやって使うの?」
春音は慌てた様子で聞いてきた。
「ああ。特権は議員とのコネづくりに使う」
「す、すごい…」
「なるほどな…。確かに、議員とのコネがあれば後々役立つことも多い。そっちに使うのも納得だ…。でもよ!もっと相談してくれよ!」
「そうだよ!急にこんなこと聞かされて腰抜けちゃうかと思ったんだから!」
「すまない。冬馬、春音。それに二人も。ただ、こんなバカげてる大それた夢、笑われるのではないかと思ってな」
俺がそう話すと、秋生はすぐに訂正した。
「笑うわけないよ!勉くんならできるよ!私たちが一番近くで勉くんを見てたんだから!」
「そうだな、勉の実力は私たちが一番知っている。勉ならきっとできるだろう」
「逆に、これを相談したら笑われるかもって思われてた方が問題だな。なあ?春音」
「そうだよ!ひどいなー、勉くん」
「…」
みんな、俺のまだ漠然としか決まっていない雲をつかむような話を信じてくれた。
「…そうだな。申し訳ない。みんなそんな悪いやつらじゃないよな」
「そうだよ!猛省して!」
「これは罰ゲームが必要か?」
「お!冬馬くんいいねー!どうしようか」
「それじゃあ、もう一回私が買ってきたキュウリ寒天ゼリーを食べてもらおうか」
夏都はそう言いながら俺の前に寒天ゼリーを差し出す。
みんなのおかげで迷いが吹っ切れた。
俺は自分のやりたいこと、進みたい道に進もう。
みんなもそれぞれの道に進んでいくんだ。揃って会う時間も減っていく。
それでも、俺たちがここで一緒に過ごした時間、一緒に経験したことは永遠に消えることのない思い出として刻まれるだろう。
「はぁ。仕方ないな。キュウリ味、いただくとするか…」
後書き
五十五話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
三年生委員長たちのわちゃわちゃを書いてみました。
みんなの進路も明らかになりましたね。さすが生徒会長。考えることが違いました。
今回で日常編は終わりです。次からは冬休みのお話になります。
現実の方でかなり忙しくて、全然書けないのがすこし困ってますね。
頑張って書いていこうと思います。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。