「委員は恋に飢えている!」第27会
第27会「それぞれの夏休み2(夏休み⑪)」
○紡木お姉ちゃん
私には十個年の離れた弟がいる。
名前は木本優木。今私が十五歳だから弟は五歳。
普段は幼稚園に通っているけど、夏休みの間は私が面倒を見る。
お父さんもお母さんも日中は仕事に出ているからね。
といっても優木は一人で遊んでることが多いから、特別何かするってことはあんまりない。
だから私も課題をやったり、たくさんの本を読んだり、アニメ見たり…。
とにかく自分のやりたいことをする時間はたくさんある。
(さて、課題もある程度進んでるし今日は前に買った本でも読もうかな…。もちろんリビングの、優木が目に見えるところでね)
そう思い、私が本を開いて読み始めようとしたときだった。
「おねえちゃん」
「ん?どうしたの?」
「あそぼ」
「ええ…」
優木が遊びに誘ってくるのは珍しい。
いつもは一人で絵を描いたり、おもちゃで遊んだりしているのだけど。
「…」
「…ま、仕方ないか…」
私は一ページも進んでいない本を閉じて、久しぶりに優木の遊びに付き合うことになった。
「んで、何して遊ぶの?」
「公園行きたい」
「ええ!?珍しくない?こんなに暑いのに?」
「行きたい!」
「もう…。分かったから」
こうして私たちは近くの公園に向かった。
「じゃあ、お姉ちゃんが鬼ね」
「わかった。それじゃあ、お姉ちゃんが三十数えるから逃げて隠れて。五分間見つからなかったら優木の勝ち。それまでに見つけたらお姉ちゃんの勝ちね。お姉ちゃんが勝ったら家に帰るから」
「いいよ!」
「よーい、スタート!1、2、3…」
私が数え始めると、優木はキャッキャしながら走っていった。
(すぐに終わらせて早く帰ろう。暑い…)
三十まで数え終え、私は少し大人げないと思ったが気合を入れて探すことにした。
優木が隠れられそうな場所をくまなく探していく。
「こっちかー?それともこっちー?」
私は声を出しながら優木を探した。
もう優木が隠れられそうなところはない。
あと少しで五分が経過してしまう。
(どこに行ったのよ…)
その時、近くでカサカサという音がした。
「そこだ!」
私は音が聞こえた木の陰に回ったが、そこには誰もいなかった。
「あれ…?」
そうこうしているうちにスマホのタイマーが鳴った。
「はいはい。降参降参。優木ー。出てきていいよー」
私がそう言うと、優木はさっき音がした木の場所から顔を出した。
「おねえちゃんの負け!」
「え!?優木、どこにいたの…?」
「そこ」
そう言いながら優木は上を指さしていた。
「まさかあんた…。この木、登ったの!?」
「うん。練習してた」
「ええ…」
優木がそんなことできるようになっているなんて知らなかった。
いつも家にいるような子だし、私の弟だから運動は苦手だと思っていた。
でも練習したからって…。
「へへ、すごいでしょ」
「危ないでしょ!」
「ふぇ?」
「こんなところから落ちてけがしたらどうするの!」
私は優木がけがしたら大変だと思い叱ってしまった。
男の子ならこれくらい普通、もっとアクティブでもいいということもあるかもしれない。
それでも私は優木が心配だった。
「練習は一人でしてたの?」
「うん…」
「一人で登ってて落ちたらどうするの?誰も助けてくれないんだよ?」
「だって、これ…。うええええん!」
そう言って優木は泣いてしまった。
「ごれ、がんばってのぼれるようになったがら!おべえぢゃんにみせようどおもっで!」
優木は泣きながら私にそう話した。
「もしかして、それで今日公園で遊びたいって言ったの?」
「…ぐすっ」
優木は目を擦りながらコクンと頷いた。
そんな優木を見て私は少し叱りすぎたのかもしれないと思った。
たしかに一人で木登りをしていたのは危ないが、男の子ならこれくらいするのかという気もしてきた。
それに、私に見せようとして練習していたのだ。
「…ごめん。私も怒りすぎた。私に見せようって頑張ってくれたんだね…」
優木はまだ泣いている。
「すごい、すごいよ優木。五歳なのにこんな木に登っちゃうんだもん。しかも私の弟なのにね…」
私がそう言うと優木は目に涙を溜めながら顔を上げた。
「よく頑張ったね。お姉ちゃん、嬉しい!自慢の弟だよ!優木がこんなにすごかったなんて…」
そして私が褒めると優木はへへっ、と言いながら笑顔になった。
「でも、もう一人でいるときに危ないことしちゃだめだよ。お姉ちゃん、心配しちゃうから…」
「うん、ごめんなさい…」
「私も怒ってごめんね」
「…おんぶ」
「はいはい…」
優木にせがまれ、私は優木をおんぶした。
「まだ遊ぶ?」
「…かえる」
私が尋ねると、優木はそう返事をした。
そもそもあまり外で遊ぶタイプの子ではないので、本当に私に見せたかっただけなのかもしれない。
「それじゃあ、何か好きなもの買って帰ろうか…」
「…!んーとね!じゃあね!あのおかしと、アイスと…」
「ちょっと、あんまりたくさんはダメだからね?」
こうして私たちは近くのお店に寄ってから家に帰ったのだった。
○日奈の家庭
「日奈、今は夏休みだけど学校はどう?」
「普通です、お母さん」
「それは良かったわ。期末テストも一位だったみたいだし、お母さん鼻が高いわ。次も頑張ってちょうだいね」
「はい」
「そして必ず生徒会長になるのよ。最皇高校の生徒会長なんて、ほんとに名誉なことなんだから」
「分かっています」
「それじゃあお母さん、ちょっと買い物してくるから。どこかに行ってもいいけど鍵だけよろしくね」
「はい。行ってらっしゃい」
私とお母さんの会話はいつもこんな感じだ。
お父さんは海外に単身赴任しているので、家には私とお母さん二人で暮らしている。
昔から何をするにも一番が良かったお母さん。
私が何かで一番を取ると、お母さんはたくさん褒めてくれて喜んでくれた。
私はそうやってお母さんが喜んでくれるのが嬉しかった。
だから私はお母さんに喜んでもらえるように一番を取らないといけないのだ。
きっと生徒会長になることができたらお母さんも喜んでくれるだろう。
「はぁ…。勉強しよう」
私はお母さんが出かけた後、特にすることもなかったので机に向かった。
カバンを開いて教科書などを取り出したとき、一枚の紙が落ちてきた。
「進路…」
それは現段階で将来どうなりたいか、どんな道に進みたいかという進路調査だった。
この時期にもう進路について考えるのは早いと思ってしまうが、高校生活はあっという間だということをよく耳にするので、この時期の進路調査も間違っていないのかもしれない。
といっても、まだ一年生の夏なので、先生たちも漠然と、これから変わってもいいから今考えていることを書いてほしいと言っていた。
「将来…」
私はなりたいものなんてない。というより進路について考えたことがない。
今までお母さんの言うとおりに進んできたからだ。
この高校にもお母さんが入りなさいと言ったから入学した。
「将来なんて、なんでもいい」
そう呟いたとき、スマホが光った。
届いたメッセージは火恋さんからで、グループに送られてきたものだった。
来週の日曜日に隣町で開催される夏祭りについてのことだ。
私はメッセージアプリを使うことがほとんどなかったので操作に慣れず、どんどん送られてくるメッセージに返信が追いつかなかった。
(みんな文字打つの速すぎ…)
火恋さんに時間をもらい、何とか送信したメッセージは誤字だらけで見るに堪えないものだった。
その後も返信をしたけど、私が、メッセージアプリが苦手だと気づいた火恋さんが通話にしようと言ってくれて、今日の夜みんなで通話することになった。
(友達と通話…。初めて…)
初めての通話に少しドキドキしながら、開いていた教科書とテキストを進めて夜を待った。
最後に月くんにからかわれたけど、何とか通話が終了した。
そしてそこでの話をお母さんにした。
「…お母さん。来週の日曜日なんですけど…」
「ええ。どうしたの?」
「その…。と、友達と夏祭りに行くってことになって…」
私はダメもとでお母さんに話してみた。
夏祭りのようなイベントにに行くのはダメだと言われると思っているからだ。
「あら、珍しいわね。いいじゃない。行ってきなさい」
「え…?」
まさかのオーケーを貰えたことにとても驚いている。
「むしろ安心したわ。日奈、誰かと遊ぶなんてこと今までほとんどなかったから…。楽しんできなさい」
たしかに考えてみると、今までそもそも友達がいなかったのだ。
誰かと遊ぶなんてことは起こり得ない。
私は勝手なイメージでお母さんはそういうイベントや遊びはダメという人だと思っていたのだ。
「せっかくなら浴衣、着ていきなさいよ。たしか押し入れに入っているから」
「ありがとうございます、お母さん。来週は楽しんできます」
ということであっさり了承を得ることができたので、来週夏祭りにみんなで行くことになった。
当日はどの浴衣を着ていこうか今から考えないと…。
友達と初めての夏祭り。というより友達と初めての遊び。
今から来週末がとても楽しみだ。
後書き
二十七話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回で夏休みの話は終わりです。次からは二学期に突入します。
これで一応夏休みの間で今まで名前が出てきたキャラ達を問う除させることができたはずです。
みんなそれぞれ楽しんでいましたね。よかったです。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。