「委員は恋に飢えている!」第34会
第34会「記録係の仕事」
最皇高校の文化祭、「最皇祭」まであと数日。
俺と火恋さんは各クラスを回ってどんな出し物を行うのかということや準備中の様子を記録していた。
「それじゃあ次は四組!」
「四組はたしか…」
四組は『占い』を出し物にしている。
早速準備の様子を記録しようと教室の中をのぞくと、看板を作ったり、装飾を作ったりしていた。
「おおー…。これはなかなかミステリアスだね…」
まだ出来上がっているわけではないが、使っている色や装飾がすでにミステリアスな雰囲気を醸し出している。
やはり占いは暗めの部屋で水晶玉を使ったりカードを使ったりして占うのだろうか。
そんなことを考えていると、衣装合わせをしている人たちがいた。
「私には無理ですよ…」
「大丈夫!紡木ちゃんならいけるって!それに…ほら!一番似合ってる!」
「私が人前で占いなんて…」
そこでは衣装係らしき人が紡木さんに占い師の衣装を着せていた。
「紡木さん。どうしたの?」
「つ、月くん!?どうしてここに!?」
「実はね…」
俺は紡木さんと衣装係の人に事情を説明した。
「そうだったんですか…」
「紡木さんのそれは…」
紡木さんは黒いローブを羽織って、黒のとんがり帽子をかぶっていた。
占い師とも見て取れるが、どっちかというと魔女に近いかもしれない。その衣装は紡木さんにとても似合っていた。
「わ、私はやりませんよ!占い師なんて…」
「もう、紡木ちゃんってば…。ね、記録係さん。すごく似合ってると思いません?」
「そうですね…。正直かなり似合ってると思います。この衣装を着た紡木さんの占いなら本当に当たりそうな気が…」
「つ、月くん!?」
「ほら!やっぱり紡木ちゃん、似合ってるんだよー!記録係の人もそう言ってるしさ!」
「でも…」
紡木さんは衣装姿を見られたのが恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらこちらを少し見つめていた。
「…ははーん…」
衣装係の人は、何か察したようにして俺に話しかけた。
「記録係さんはうちのクラスに来てくれるんですか?」
「ええと、当日ここら辺の記録は火恋さんに任せて俺は別のクラスの行こうと思っているので、これない可能性の方が高いですね…。すみません…」
「それじゃ、紡木ちゃんが占い師をやっていたら来てくれますか?」
「え?」
「さっき、紡木ちゃんが占い師だったら当たりそうって言ってたじゃないですかー。来てくれないんですかー?」
「…たしかに、紡木さんの占い、気になる…」
「月くん!?」
「ほら!紡木ちゃんがこの衣装で占い師やってくれたらこの人来てくれるって!やっぱり紡木ちゃんがやるべきだよ!」
衣装係の人はそう言って紡木さんにウインクをしていた。
「そういうのじゃないですってば!!はぁ…。でも月くんも来てくれるんですね。それならまあ…」
紡木さんは顔を赤くしながら答えていた。
俺は質問の意図がよくわからなかったが、とりあえず行くという返事をした。紡木さんの占いが気になるのは本当なので、楽しみでもある。
「ありがとう!紡木ちゃん!よーし!そうと決まればこの衣装、もっといい感じに仕立てないと…」
「ま、まだ改良するんですか…!?」
紡木さんが占い師をやると決まった瞬間、衣装係の人は衣装の改良に取り掛かっていた。
彼女の何かに火が付いたらしい。
「そ、それじゃあ、紡木さん。当日楽しみにしてるね」
「が、頑張る…!」
俺はその場を離れ、火恋さんの元に戻った。火恋さんもちょうどよく写真を撮り終わったようで、二人で一緒に四組の教室を後にした。
「いやー、四組の『占い』。楽しみだねー!」
「そうだね。紡木さんが占い師をやるらしいし…」
「そうなの?それは絶対行かないとね!」
そして俺たちは次のクラス、一年五組の喫茶店の準備へと向かったのだった。
「いらっしゃいませぇ」
一年五組に向かうと、入り口で金美さんが迎えてくれた。
「金美ちゃん!」
「かーれーんー」
火恋さんは早速金美さんの頬を引っ張っていた。
「金美さん、わざわざ出迎えてくれたんだね」
「記録係の人が来るっていうのは聞いてたしぃ、火恋から二人が来るっていうのも聞いたからねぇ」
「それじゃあ早速、お邪魔しまーす!」
俺たちは金美さんの後に続いて教室の中に入っていった。
「「おおー!」」
教室に入るとそこには「和」の空間が広がっていた。
机の席だけでなく、畳席も用意されていてメニュー表や製作途中の看板も「和」のテイストだ。
「五組は『和』を意識した喫茶店だよぉ」
「めっっっっっっちゃいい!!」
火恋さんはかなり気に入ったようで、大絶賛していた。
「月くんはどう思う?」
「…なんていうか、ものすごい安心感があってすごい好きだな」
「月くんは『和』が好きなの?」
「好きなのはもちろんだけど、俺の家が少し古いところだから落ち着くんだよね…」
「なるほどねぇ。それじゃあ、この喫茶店も気に入ってもらえるかもねぇ」
「それじゃあ、とりあえず一枚…」
俺と火恋さんはカメラに教室の様子を収めた。
「そういえばぁ、火恋のクラスも喫茶店だよねぇ?」
「そうだよー!」
「そっちはどんな感じなのぉ?」
「うーん、私たちのクラスは普通の喫茶店っていう感じかな…。普通に机といすを並べて、コーヒーとかちょっとした料理を出すっていう感じのね。デザートもあるよー」
「なるほどぉ。衣装とかも普通っていう感じぃ?」
「衣装も普通かなー。メイド喫茶じゃないからメイド服でもないし、専用の衣装を作ってくれていたけど、エプロン?みたいな感じだよー」
「そっかぁ。火恋のメイド服、見たかったなぁ」
「なんでよ!ここの衣装はもしかして…」
「ふふん。そうだよぉ。想像通りのぉ…」
そう言うと金美さんは一瞬後ろにいなくなり、すぐに着替えて出てきた。
「割烹着だ!」
「正解。私たちは割烹着で接客だよぉ」
「いいないいな!すっごい可愛い!」
「衣装係の人が頑張って作ってくれたんだよぉ。かなりぎりぎりだったみたい」
衣装係の人たちを見てみると、真っ白な灰のようになっていた。
「も、燃え尽きている…」
「おかげで可愛い衣装になったしねぇ。月くん、どう?」
「…ええと、すごい似合ってます…」
「何で敬語なのよぉ」
金美さんは普段はあまり服に頓着がないというイメージだったが、割烹着姿がとても似合っていてそのギャップに俺はびっくりしていた。
これは金美さん目当てでくるお客さんも多いのではないだろうか。
「あー、月くん。照れてるね?」
「なっ!」
「ええ、そうなのぉ?」
「そ、そんなこと!」
「うんうん、わかるよ。金美ちゃん、すごい似合ってて可愛いもんね」
火恋さんは手で口を押えてからかうようにしてそう言った。
「あらぁ、ほんとにぃ?」
金美さんも火恋さんと同じようにしてこちらを見ている。
「そうじゃなくて!」
「ええ…、それじゃあ金美ちゃんは可愛くないってこと…?」
「えぇ、そんなぁ。金美、悲しい…」
二人はお互いの手を取って向かい合いながらこちらを見つめていた。
「そうでもなくて!」
俺がそう言って否定すると、二人は大笑いしながら冗談だと言った。
「もう、時間だし行こう!あんまりいると迷惑になるし!」
「それもそうだねー。それじゃ、金美ちゃん、またね」
「うん、またぁ。あ、そうだぁ」
火恋さんが先に教室を出ていった後、金美さんは俺の手を引いて近くに引き寄せ耳元に近づいてきた。
「当日は絶対来てねぇ。いろいろ、サービスするからさぁ」
「!」
「それじゃあ、ばいばぁい」
金美さんはそう言うと手を振って見送ってくれた。
(サービスってなんだ…!?)
俺は金美さんの言葉を反芻しながら火恋さんのもとに追いついたのだった。
「とりあえず、今日の分は終わりだね」
「そうだね。後は当日で大丈夫かな」
「うん、大丈夫だと思う!」
「分かった。それじゃあ後は当日、自分のクラスと空いた時間に行ったクラスの様子を記録するっていうことで…」
記録係としての予定も決まり、解散しようとしたとき火恋さんから呼び止められた。
「月くん」
「?」
「記録の時なんだけどさ…。時間合わせて、一緒に回らない?」
「一緒に?」
「も、もちろん都合がつかなかったら大丈夫なんだけどさ!二日目は私金美ちゃんと一緒に回るんだけどその前に時間があるから、その時に一緒にどうかなって…」
「二日目の午前か…」
俺は自分のシフトを確認した。たしか俺は午後からシフトで午前中は空いていたはず…。
確認してみると、午前中はシフトがなく、俺も空いていた。
「その時間は空いているけど…」
「!それじゃあ、一緒にどうかな?」
「…わかった。たしかに二人の方が感想とかも言い合えていいかもね」
「それじゃあ決まり!二日目の午前ね!」
こうして俺の文化祭二日目は記録係という仕事がメインではあるが、女の子と一緒に文化祭を回るという一大イベントに変わったのだった。
後書き
三十四話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
しばらく更新できませんでした。ちょっとリアルの方が忙しかったんですが、また少しずつ更新できたらと思います。
とりあえず四組と五組の出し物がどうなるのか気になりますね。
二組、火恋さんのクラスのものも気になります。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。