「委員は恋に飢えている!」第54会
第54会「慰労会開催(日常③)」
選挙が終わり、生徒会、委員会の三年生は次世代に引き継ぎを終えた。
三年生たちが背負っていたものは重く、大きく、後輩たちには手に余るかもしれない。
だからこそ、彼らを信じて余すことなくすべてを託し、繋いでいく、成長を見守ることも三年生の役割だ。
その中でも特に重責を担い、最皇高校の運営と発展に尽力した各委員会のトップ。
風紀委員長、経理委員長、美化委員長、催事委員長、そして生徒会長。
新たにトップとなる新委員長たちはきっと分からないことも不安もあるはずだ。
だが、俺たちの背中を近くで見てきた後輩たち。きっと大丈夫だろう。
俺も生徒会長の仕事をすべて英凛たちに引き継いだ。
これから、三人で力を合わせて学校を引っ張っていってほしい。
そんな俺たち元委員長組は、普段委員会会議を行う会議室に集まっていた。
「俺たちがこの会議室に全員で集まるのも、今日が最後だな…」
「ああ」
「そうだねー」
元経理委員長の数井冬馬に、元風紀委員長の国本夏都と元催事委員長の社春音が返す。
「寂しくなるな…」
「で、でももしかしたらまた何かの機会に集合になるかもしれないし…」
元美化委員長の世理秋生は、両手を振りながら冬馬をフォローした。
「なあ、俺たち一年委員長頑張ったよな?せっかくだし、やろうぜ?慰労会」
「悪くないな」
「いいよー」
「わ、私もいいよ…」
冬馬の提案にみんな賛同した。こういう会議以外の集まりを提案するのは毎回冬馬だ。
「勉は?どう?」
「…ああ、そうだな…」
これから受験に向けてさらに忙しくなる。そうなるとみんなで集まるというのも簡単にできなくなるだろう。
「よし!それじゃあ、場所はどうする?」
「そうだな…。近くのカラオケとかはどうだろうか?」
「いいね。夏都は結構カラオケ行くの?」
「いや、行ったことはない」
「ないんかい!」
冬馬の切れの良いツッコミで笑いが起こる。
「私はどこでもいいなー」
「わ、私はあんまり人が多くないところがいいな…」
「勉は?どこがいいとかあるか?」
「俺は…」
なんとなく思った。俺たち五人が集まる場所。
五人で過ごした時間が長く、そして深い場所。
「俺は、ここだな」
「ここって?」
冬馬が首をかしげている。
俺は地面に指をさし、もう一度繰り返した。
「ここ、この会議室だ」
「こ、ここ!?」
「ふっ、おもしろい…」
「どこでもいいよー」
「いい!私たち以外誰もいないし、騒々しくない!」
「ここって、会議室で何するんだよ…」
「お菓子と飲み物買ってきて、パーティーすればいいんじゃないかな?」
「それいいねー」
「ああ、私もそれがいい」
「まあ、俺はどこでもいいんだけどさ…。じゃあ、この会議室でいいんだな?」
慰労会の会場はこの会議室に決定した。
「春音、当日は頼むぞ」
「夏都も盛り上げてよー」
「春音ちゃんの司会っぷり、楽しみにしてるね!」
「秋生まで…。まあやるけどさー」
春音はメガネを拭きながら答え、かけなおした。
「それじゃあ、明後日でいいか?あんまり先延ばしになっても、良くないだろ」
「ああ」
「いいよー」
「うん!」
そして全員の予定がちょうど空いていた明後日の放課後に俺たち五人で慰労会が行われることになった。
慰労会当日。
買い出し担当は夏都、冬馬、春音で、俺と秋生は会議室の準備担当だ。
会議室に行くと、すでに秋生がいた。
「勉くん、お疲れ様です」
「ああ、早いな」
出会ってからずっと長い髪で顔を隠し、どこか自信なさげな言動を繰り返していた。
俺は秋生の才能をずっと買っていたが、秋生がその才をどうしたいかは別だ。
秋生が目立ちたくないのは分かっていたが、どうしても学会に出てほしかったので無理に頼み込んだのも申し訳ないと思っている。
そんな秋生だが、夏休み中何かあったのだろう。
二学期が始まってからの秋生の変化には驚いた。
髪を短くし、はっきりと顔も見える。何より、あんなに自信なさげだったのが、どこか吹っ切れたような、そんな風に感じさせる言動が増えた。
きっと秋生はこれから大丈夫だろう。
「今日の慰労会、すごく楽しみだね」
「ああ、俺もだ」
「みんな、何買ってきてくれるかな?」
「冬馬がふざけそうだな」
「ふふっ、確かに…」
二人で他愛もない会話をしながら机を移動させる。
「…ありがとうね」
「?」
突然、秋生がそう呟いた。
「勉くんが私に学会に行ってほしいって頼んでくれたこと」
「ああ、そのことか…。申し訳ないと思っている。秋生の気持ちを無視して、無理やり学会に参加させるなんて…」
「でも、あのとき勉くんにお願いされてなかったら今の私はなかった」
どういうことだろう。今の秋生…。二学期が始まってからのことだろうか…。
「あのとき学会に行ってなかったら、今も学会に行ってないでしょ?ということは、この夏の学会にも参加することはなかった。私は今回の学会で変わることができた。っていうことは、間接的に勉くんのおかげでもあるんだよ」
「そんなことは…」
「そんなことあるの!それに勉くん、私のことずっと認めてくれていたし」
「…まあな」
「勉くんにはいろいろ助けてもらったからさ。だから、ありがとう」
満面の笑みでそう話してくれた秋生。夕陽に照らされ、少し赤く染まって見えた彼女の笑顔を見て可愛いと感じてしまうのは自然現象だろう。
「冬馬たちはまだか?」
「さっき連絡したら、もうすぐって言ってたけど…」
俺たちの会話を切り裂いて、会議室の扉が開く。
「おまたー!買ってきたぞ」
「いいセンスだと思っている」
「夏都、変なの買ってたよねー?」
買い出しに行っていた三人が帰ってきた。
「三人とも、お疲れ様!」
「二人も、会議室の準備ありがとな」
五人揃ったところで、それぞれが席に着いた。
全員がいつもと同じ席に着いたところで冬馬が口を開く。
「…って、別にこの席じゃなくてもいいんだよな」
「まあまあ、この方がしっくりくるよねー」
「その通りだとも」
「コホン…」
春音は一度咳払いをすると、メガネを外して髪を後ろで縛った。
「みんな、乾杯の準備はいいかなっ?」
春音がイベントモードに切り替わり、みんなのコップを確認する。
「それじゃあ、慰労会、スタート!まずは代表して勉くん!乾杯の挨拶を!」
「ああ…」
春音から挨拶を振られ、俺はその場に立つ。
「まずは、みんな無事に後輩たちに引継ぎを完了できたことを嬉しく思う。悪いな、夏都。俺が提案したことで慰労会がカラオケではなくこの会議室で行うことになって」
「なに、気にしないでくれ。カラオケはまた別の機会にでも行ってみるさ」
「ああ。…そうだな……」
いざ乾杯の挨拶を任されるとなかなか言葉がでてこない。
「元生徒会長さん、いつものピシッとした姿はどこに行ったんだよ」
冬馬は俺を見ながら野次を飛ばしてくる。
「うるさいぞ、冬馬。いつもは後輩たちや全校生徒の前だったからな、崩さないように気を張っていたんだが…」
「なんだよ、俺たちの前だと気が緩んじゃうってか?なんて、そんなわけ…」
「ああ、そうだな…」
「「「「!?」」」」
全員が驚いた顔で俺を見ている。
「どうしたんだ」
「いや、勉がそんな風になるなんて…」
「ああ、私も驚いたよ」
「そんなにか?」
「勉くん、いつも完璧だったから…」
冬馬、夏都、それに秋生まで目を見開いている。
「いや、お前らだけといるときは、な。なんだかんだ長い付き合いだ。気も許せるようになるだろう…」
こいつらといるときだけは、生徒会長という肩書を少し忘れても大丈夫。そんな風に思っていた。
「はいはーい!それじゃあ、言葉が出てこない勉くんに代わりましてこの社春音が一言。みんな、今までお疲れ様でした!かんぱーい!」
春音が俺の代わりに挨拶をして、みんなで飲み物が入った紙コップで乾杯をする。
「ほら、勉くんも!」
「あ、ああ。乾杯…」
後書き
五十四話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は三年生たちのお話です。
最皇高校を支えてきた委員長のみんな。この重責から解放されたと思いきや今度は受験と大忙しです。
そんな中で少し、息抜きともいえる慰労会の様子を書いてみました。
彼らにしか分からない苦労があって、彼らにしかない絆があって、彼らにしか分からない話もある。
きっと楽しんでいると思います。一応、次も慰労会の話です。それで日常編は終わりです。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。