「委員は恋に飢えている!」第59話
第59話「クリスマスパーティー!4(冬休み④)」
「あはははは!!」
「火恋さん、ふふっ。笑いすぎ、だって…」
「月くんも笑ってるじゃん!」
「し、仕方ないでしょ!こういうの、初めてで分からなかったのよ…」
日早片さんは顔を真っ赤にしながら弁明をしていた。
「でもさぁ、日奈。これはさぁ…、ふふっ」
「どもん、こわいよ」
「大丈夫。恐竜だと思えばかっこいいって……きっと」
「そ、そうですよ!かっこいいですよ!」
「でも、どうしてこれにしたの?」
気になってつい聞いてみる。
「…何を選べばいいのかわからなくなったのよ…。それで、なんかよくわからないけど目が合って…。なんか愛着が出てきて…」
「な、なるほど…」
これに愛着がわくのか?でも日早片さん、さっきのカラオケでもそうだったけど変なものを可愛いっていうしな…。
「いいわよ。要らなかった捨てて」
「ごめんごめん。捨てないよ。私もなんか愛着わいてきたし、それに日奈ちゃんからのプレゼントだよ?捨てるわけないよ!」
「そ、そう…」
結局プレゼントなんてどんなものでも相手が喜んでくれればそれでオーケーなのだ。
火恋さんも日早片さんと同じようなセンスを持っているし、火恋さんに渡って正解だな。
「それじゃあ、最後は私が…」
「っても、もう残ってるのは月のだよな」
「月くんのプレゼント、どんなのかなー?」
「あんまり期待しないで…」
紡木さんがゆっくりプレゼントの袋を開ける。
「これは…」
「俺も、よくわからなくて…」
紡木さんの手には紙が三枚。俺が作った『○○券』だ。
「月くん、これはどうやって使えばいいの?」
「ええと、なんだろう。何か俺に手伝ってほしいこととかしてほしいことがあったらその券を使ってくれればなぁって感じで…」
「な、なるほど…」
「つむちゃん、いいなー!!」
「えぇ!?」
「確かにぃ、それを使えばどんなことでも月くんに頼めるってことだよねぇ」
「な、なんでも……」
「いや、まあ、俺にできることだったらなんでも…」
「いいわね。私が欲しいわ」
「日早片さん、何させるつもりなのさ…」
思ったより好評なのか…?でも紡木さんは喜んでくれているだろうか…。
紡木さんの方に顔を向けると、なぜか顔を赤くしていた。
「紡木さん…?」
「ひゃいっ!」
「大丈夫?なんか顔赤くない?」
「な、何でもないです!あ、ありがとうございます!何かに使わせていただきますね」
「う、うん…。してほしいことがあったら言ってよ」
こうして俺たちのプレゼント交換は終了した。
俺ももらったタオルを使って運動しようかな…。
「時間も時間だし、そろそろ帰った方が良いか?」
土門は目をつむり寝息を立てている優木くんを起こさないように小さい声で話した。
「そうだね。プレゼント交換もできたし、ちょうどいいタイミングかもね」
そう言って火恋さんは周りの掃除を始めた。
それに続いて俺たちも片づけを始める。
時計を見ると九時を指していた。あまり遅くなるのも良くないし、いいタイミングだろう。
みんなで部屋の片づけを終え、荷物を持って玄関に向かう。
「あら〜、もう帰っちゃうの〜?」
「はい!突然押しかけてしまい、すみませんでした!」
「紡木ちゃんのお母さんの料理、すごいおいしかったです」
「あら、嬉しいわ〜」
「ありがとうございました」
俺たちは改めてお礼を言った。
「いいのよ〜。またいつでも遊びに来てちょうだいね〜。紡木なんて、みんなが来るって話になったときものすごいテンション上がってたんだから〜」
「お、お母さん!?」
「そうなのー?つむちゃん??」
火恋さんはニマニマしながら紡木さんに近づいた。
「そうじゃな!…くないですけど……」
「つむちゃんっっっっっっ!!!」
火恋さんが紡木さんにそのまま抱き着いた。
「か、火恋ちゃん!」
「みんな、紡木のことよろしくね〜」
「もちろんです!」
「それじゃあ紡木さん、またね」
「は、はい!また…」
身動きが取れない紡木さんに挨拶をして家を出る。
「うわぁ、寒いよぉ」
金美さんは白い息を出しながら震えている。
「仕方ないよ、雪だし」
「かなちゃんのほっぺはあったかいよ!」
火恋さんはそう言って金美さんのほおに手を付けた。
「~~~!!!」
金美さんが後ろに飛びのいた。
「もう!火恋のばかぁ。知らない」
「ごめんね、かなちゃん」
「それじゃあみんな、またねぇ」
金美さんは火恋さんを無視して歩いて行った。
「ねえ、ごめんって、かなちゃーーーん!」
火恋さんは金美さんの後を追って走っていく。
「それじゃ、俺も帰るな。二人とも、また」
方向が違うので土門も帰っていった。
「日早片さん、こっちだっけ?」
「うん」
「俺もこっちだ」
「…」
「途中まで一緒に行こうか」
俺がそう言うと、日早片さんは黙ってうなずいた。
「…」
「…」
大通りを二人で歩く。
店のイルミネーションを反射して輝いている雪がとてもきれいで幻想的だ。
沈黙が続く。
通りを通過する車、セールを呼びかける店員の声、繰り返し流れるクリスマスソング。
全てが混ざって新しい音を作っている。
この音を聞けるのも今このタイミングだけだろう。
「ちょっと」
俺たちの間に流れていた気まずい空気を切り裂くように日早片さんが口を開いた。
「どうしたの?」
「寄り道」
「え?」
日早片さんはそう言って帰る方向とは別の道に歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!」
置いて行かれないように慌ててあとを追いかける。
そのままついていくと、コンビニに到着した。
「何か買いたいものでもあったの?」
俺の質問には答えず、日早片さんは中に入っていった。
そのまま少し待っていると、日早片さんが手に何かを抱えながら出てきた。
俺の前に立ち、それを差し出す。
「はい」
「え?」
日早片さんが持っているそれは肉まんだった。
「なんで?」
「いいから」
押し付けられたので、とりあえず受け取る。
「…」
「…」
食べていいのか…?
「…プレゼント」
「え?」
日早片さんは小さい声でそう言った。
「プレゼント?」
「そうよ」
「どうして?」
「……今まで」
日早片さんがゆっくり話し始めた。
「今までクリスマスをなにか特別に過ごしたことなかったって聞いて」
「ああ、聞いてたんだ。まあそれは仕方ないよ。それに今日みんなと一緒に過ごせたしね」
「そう…」
「日早片さん家ではどんなふうに過ごしていたの?」
日早片さんは肉まんと一緒に買ってきていたペットボトルのカフェオレを両手でつかみながら息を吐く。
「…別に、今日見たいにパーティーをするということはなかったわ。いつもより少し豪華な料理が出てプレゼントを渡されるくらい。…まあ、欲しいと思ったものは一度ももらえなかったけれど」
「そうなんだ…」
「ええ…」
そう話した日早片さんの表情はどこか寂しそうだった。
「まあ、お互い似たような感じだったのかな…」
「…そうかもね…」
「それじゃあ、この肉まんはありがたくもらおうかな」
「そうして」
「…」
「…」
「…そうだ」
「?」
俺はさっきの日早片さんと同じようにコンビニに入った。
「?」
コンビニの中から見える日早片さんは不思議そうにしている。
店員さんの挨拶を後ろに、俺は日早片さんのもとに戻った。
「はい」
「え?」
俺は日早片さんに今買ったものを渡した。
「これ…」
「お返しだよ」
「な、なんで…」
「俺と日早片さんは、 “似たようなもの”だったんでしょ?」
「…」
納得がいってないのだろう。バツが悪そうな顔で黙り込んでいる。
「で、でもそれだと意味が…」
「いいから、ね?」
「…わかったわ。ありがとう…」
日早片さんはようやく引き下がった。少し微笑んでいたような気もする。
「でも、それならどちらかというと肉まんの方がいいわね。さっきピザ食べたし」
「ああ、たしかにそうか。それは考えてなかった」
「なんて、冗談よ」
「それじゃあ、さらに交換する?」
「ふふっ、意味ないじゃない」
交換したら自分で買ったのと同じだもんな。
「こうしよう」
俺は日早片さんに半分に割った肉まんを渡した。
「え?」
「ほら、ね?」
「…そうね」
日早片さんは察して俺と同じようにピザまんを半分に割る。
「これで同じだね」
「ええ…」
「それじゃ、いただきます」
「いただきます…あちっ」
日早片さんは猫舌なのかもしれない。
でも、そうだな…。二人で食べた肉まんとピザまんは、たしかにいつもより熱く感じた。
後書き
五十九話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回でクリスマスパーティーはおしまいです。冬休みの話はもう少し続きますが…。
忙しくてなかなか書けませんが頑張ります。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。