「委員は恋に飢えている!」第16会
第16会「告白の告白(日常④)」
期末テストまであと少し。世理先輩と勉強しているからといって油断はできない。
そう思いながら外の廊下を歩いていると、土門がいた。
「おーい、ども…」
「好きです!私と、お付き合いしてください!!」
そこには顔を真っ赤にして手を差し伸べる女子と告白されている土門の姿があった。
(ええー!まじか…)
俺は申し訳ないと思ったが、展開が気になったので息をひそめながら物陰に隠れて見守ることにした。
「ごめん、君とは付き合えない」
「…。分かりました。ご、ごめんね。いきなり呼び出したりして」
そう言って告白をした彼女は涙をぬぐいながら去っていった。
「…」
「はあ、いい趣味してるやつがいるなー、月?」
「ば、ばれてたか」
俺は申し訳ないというそぶりを見せながら土門の前に立った。
「彼女とは知り合い?」
「いや、まあ知り合いといえば知り合いかな」
「へえ、聞いても?」
「別に大したことじゃないぞ。体育祭で彼女が転びそうになったのをちょっと助けただけ。それ以降サッカーの練習見に来てくれたりすれ違ったら話しかけてくれたりっていう感じだな」
「もしかして、お前それでケガしたのか?」
「まあ、それも一つの理由かもな」
サッカー部に所属していて、レギュラーにもなっているほどの土門が転ぶというのもそれでケガをするというのも少し違和感があったが、こんな理由だったとは知らなかった。
「なるほど、じゃあ助けられて土門のことが気になり、練習を見たり話したりするうちに好きになったと…」
「まさか告白されるとは思ってなかったな、」
「なんで断ったんだよ。あんまり人を見た目で決めつけたりっていうのはしたくないけど、可愛かったじゃん?優しそうだったしさ」
「可愛いし優しい子だな」
「じゃあなんで?」
「なんでかなー。それよりもお前、こんなことしてていいのか?テスト、大丈夫なのか?」
土門は笑いながらはぐらかした。
「…まあ、言いたくないならいいけどさ」
そう言って俺たちはテストの話をしながら教室に戻った。
「お疲れ様です。世理先輩、結川先輩」
「お疲れ様、月くん」
「おう」
俺は美化委員室に来ていた。今日は委員会の仕事があるが、その前に別の仕事をするらしい。
「じゃあこれ、運ぶぞ」
「わかりました」
どうやら何かが入った段ボールを別の教室に運ぶ作業をするらしい。
世理先輩は段ボールを持つので精一杯で動けなかったので、先に飼育小屋に向かった。
空き教室まで運んでいると土門と会った。
「土門、見回りか?」
「まあな。結川先輩、お疲れ様です」
「土門、おつかれ」
土門と結川先輩は挨拶を交わした。
「あ、結川先輩、俺手伝いますよ」
そう言うと土門は結川先輩の段ボールを持とうとした。
「ふふっ、ありがと。でも私は大丈夫だ」
「でも、女性にこんな力仕事は…」
「こういうのは慣れてるし、私に向いてる。それよりも自分の仕事、しっかり頑張れ」
土門は結川先輩にそう言われると、とても嬉しそうな顔をして見回りに向かった。
なんだか土門の様子がおかしい気がした。
「先輩、土門と知り合いなんですか?」
「知り合いも何も、美化委員の一年のまとめ役だろ」
「あ、たしかに。でもそれを踏まえても親し気な感じでしたが」
「土門は美化委員に入ってきた時から私に何回も話しかけてきてくれたからな。結構話すんだ」
土門は入学してすぐも俺に話しかけてくれたしフレンドリーだ。
でも自分から女子に積極的に話しかけている場面はあまり見なかったので意外だった。
「そうなんですね」
こうして俺たちは空き教室に段ボールを運んだあと、世理先輩のもとへ向かった。
放課後、この日は世理先輩に用事があるということで早めにテスト勉強が切り上げられた。
玄関に行くと土門と会った。
「お、月。帰りか?」
「土門。ああ、今帰り」
俺たちは他愛のない会話をしながら下校する。
「そういえば、土門。今日結川先輩に会ったとき、なんか変じゃなかったか?」
「は、はあ?そんなわけないだろ」
「なんか嬉しそうだったというかなんというか…」
「そんなことない!」
「美化委員に入ってから何回も話しかけてたって聞いたし…」
「それは、まとめ役としていろいろと話をだな…」
「もしかして結川先輩のこと好きなのか?なーんて」
「…」
「え?ほんとに?」
「…なあ、そんなにわかりやすかったか?」
(ほんとだったのかー!)
「いや、えーと、まあわかりやすいっていうか、普段と様子は違うなとは思ったけど」
「まじかー。これ結川先輩にばれてないよな」
「それは大丈夫だと思うけど…」
俺は土門の好きな人が結川先輩だということに驚いている。
「そうだったのか…。なんで結川先輩なんだ?きっかけとかさ」
気になったので聞いてみることにした。
「大した理由じゃないよ。見た瞬間に、一目ぼれってやつさ。美化委員に入ったのも結川先輩が副委員長だって知ったからだし。まとめ役になったのだって結川先輩に近づけると思ったからだ」
「なるほどね」
「あ、だから土門が助けた子からの告白を断ったのか」
「そういうこと」
土門がサッカー部に入りながらも美化委員に入り、大変なまとめ役も引き受けたことも告白を断ったこともすべて合点がいった。
「そうか、結川先輩か…。告白はしないのか?」
「ばか、お前。まだ早い。こういうのはもっと距離を縮めてからだ」
「そういうものか」
「そういうもんだ」
こうしてテスト前に土門の恋愛話で盛り上がった。
もしかしたらテストで三位をとったのも結川先輩に認めてもらうためなのかもしれない。
真相は土門にしかわからない。聞いても答えてくれなさそうだが…。
俺は土門の恋を応援しようと決めたのだった。
後書き
第16話です。まずは最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回で日常回は終了です。日常回の最後は土門でした。
土門は結川先輩のことが好きなんですね。だから美化委員に入ったしテストも頑張ったという。この恋、実ってほしいですね。
次からは夏休みのお話を書こうかなと思っています。
これからも頑張って書いていこうと思っているのでぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
感想も大大大大歓迎です。