「委員は恋に飢えている!」第49会
第49会「生徒会の危機⁉」
「それで、あなたが部活を作りたい人ね?」
「うむ!ゲーム部を作るのじゃ!」
「ゲーム部、ね…」
そう話して彼女は机の上に置かれたお茶をズズッとすすった。
「それであなた、お名前は?」
「シャークじゃ!!」
「「シャーク??」」
「うむ!」
そう答えてシャークさん?は机の上に置かれたお菓子をつまんだ。
「…シャークさん。あなたの学年と名前は?」
「シャークじゃ!!」
「もう一度聞くわ。あなたの、学年と、お名前は?」
「だからシャー…」
英田会長の目はシャークさんをにらみつけている。
「シャー…」
「…」
「鮫川マリナ、です…」
なるほど。『鮫』川だからシャークか…。
「学年は?」
「一年二組です…」
「はい、マリナさんね」
会長の怒りが大きくなっているのを察知したのか、鮫川さんはふざけるのをやめた。
「それで、どうしてゲーム部を作ろうと思ったのかしら?」
「うむ!よくぞ聞いてくれた!」
さっきの真面目な姿から最初のふざけた姿に元通りになった。
「我にはどうしても会って、直接倒さねばならぬものがおるのじゃ。そのものは会うたび会うたび我を負かし、我のプライドをズタズタにしていくのじゃ。だからそのものにどうしても勝ちたくてな。そのためにゲーム部が必要なのじゃ…」
そう言って鮫川さんは再び机の上のお茶をズズッとすすった。
「なるほどね…」
会長もそう答えた後、机の上のお茶をすすった。
「というか、意見箱じゃなくて直接生徒会に部活を作りたいってくればよかったんじゃ…」
俺がそう尋ねると、鮫川さんは下を向いて
「…それは、緊張するから…」
と小さい声でつぶやいた。
「あんなに紡木さん…、風紀委員の人とけんかする度胸があるのに?」
「生徒会長とはわけが違うのじゃ!会長に自分から行くのは緊張するのじゃ…」
さっきまでの威勢が嘘のようだ。
「それはいいわ。もともと私に直接伝えるのが難しい人のための意見箱だもの。あなたは正しい使い方をしている」
「…!じゃあ!ゲーム部を作ってくれるのじゃな!?」
鮫川さんは目をキラキラさせながら会長に尋ねた。
「それは…。すぐに返事をするのが難しいわ…」
「な、何でじゃ…」
「今、あなたが作ろうとしているゲーム部の部員は何人いるのかしら?」
「そ、それは我だけじゃが…」
「…部を結成するには、少なくても部員が五人必要なの」
「ご、五人も必要なのか…!?」
鮫川さんはとても驚いた顔で会長を見つめていた。
「ええ。この時点でゲーム部の結成は無理ね」
「そんな!そこを何とか、頼むのじゃ…」
「そうは言われても、ダメなものはダメよ」
「うう…」
「上目遣いをしても無駄よ。まずは部員を五人集めてから。そこでもう一度話を聞くわ」
会長がそう言うと、鮫川さんは俺のところへきて手を合わせた。
「おぬし、ゲーム部に入ってくれぬか?頼むのじゃ」
「お、俺は無理ですよ。生徒会だってあるし…」
俺がそう答えると、鮫川さんはすぐに日早片さんの方へ向かった。
「おぬしは」
「ごめんなさい。無理です」
「そんなすぐに答えなくても…」
日早片さん、答えるのが速い…。
「でも、ゲーム部、だよな…。ゲームと言ったらやっぱり…」
俺がそう呟いたとき、生徒会室の扉が開いた。
「失礼しまぁす、会長、部費とかその他もろもろの予算の紙持ってきましたぁ」
なんてベストタイミングなのか。
俺がちょうど思い描いていた人物、金美さんが入ってきた。
「あれぇ、月くんに日奈もいるぅ。って、生徒会室だから当り前かぁ。やっほぉ」
そう言って金美さんは会長に紙を渡した。
「ねえ、金美さん。ちょっと相談が…」
「金美…?」
「?」
俺が金美さんの名前を呼ぶと、鮫川さんは急にこちらを振り返った。
「おぬしが!金速金美か!」
「うん、そうだけどぉ…。ねぇ、この人だれぇ?」
「…やっと、やっと見つけた…」
鮫川さんはそう言うと金美さんの前に立った。
「金速金美!我と勝負するのじゃ!」
「え?」
「ねぇ、月くん。なにぃ、このひとぉ」
何で鮫川さんは金美さんにけんか吹っ掛けてるんだ?
ゲームといえばこの人!って人が来てくれたのに…。
「ちょっと、鮫川さん、落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるか!やっと見つけたぞ我の因縁の相手!今日は絶対に勝つのじゃ!」
「なんなのぉ、いきなりぃ」
「因縁の相手って…。てことは、鮫川さんが会うたびにプライドをズタズタにされたのって…」
「うむ」
「ええ…」
どういうめぐりあわせなのか、俺が鮫川さんと一番気が合うだろうと思った人は一番気が合わない人だったらしい。
「ちょっとぉ!私を置いてきぼりにしないでよぉ。この人だれなのぉ?」
「我はいつもおぬしにオンライン対戦で負かされている『シャーク』じゃ!」
「あ、シャークってゲームでの名前だったんだ」
「シャークぅ?」
「そうじゃ」
「…すいません、誰ですかぁ?」
金美さんは本当に知らないようだった。
「な…!いつも対戦しておるではないか!このゲームもこっちのゲームも!これなんか、おぬしの一つ下の順位なのじゃ!」
そう言って鮫川さんはスマホの画面を金美さんに見せた。
「…ああ、このゲームねぇ。たしかにやってるけどぉ、でもごめんなさい。シャークさんって人は認知してないなぁ」
「なんでじゃ!」
「だってぇ、私、ゲームでは自分より下の人に興味ないからさぁ」
これはまずい。絶対鮫川さん…。
「かっちーん…」
怒ってるよねー…。まあ、今のは誰でも怒りそうではあったけど…。
「今すぐ勝負じゃ。おぬし、絶対チート使ってるのじゃ。オンラインだから分からないだけじゃ。オフラインで勝負して、はっきりさせるのじゃ!」
「いや、使ってないんですけどぉ」
その時、英田会長が手をたたいて話を止めた。
「はいはい。とりあえず落ち着きましょう。…そうね。金美さん。あなた、ゲーム得意なのでしょう?」
「はい…」
金美さんの返事を聞いて、会長はにっこりと笑ってから続けた。
「それじゃあこうしましょう。マリナさん、金美さんと勝負しなさい。もしあなたが勝ったらゲーム部の結成を認めるわ」
「会長、いいんですか?鮫川さんだけじゃ部員が…」
「そうね。部員が足りないのが問題だったわね。でもいるじゃない。ここに…」
「え…」
会長はそう言って俺たちの方を見た。
「もしかして…」
「ええ。マリナさん、金美さん、月、日奈。そして私…。ちょうど五人よね?」
「そんな…。でも生徒会の仕事が…」
「金美さんが勝てばいいのよ」
そう言って会長は金美さんの方を見た。
「やってやるのじゃ!」
「じゃあ、鮫川さんが負けたらどうなるんですか?」
鮫川さんが勝った時の条件しかまだ聞いていない。当然負けた時も何かあるはずだ。
「そうね…。退学…」
「な、なんじゃと!?」
「うふふ、冗談よ。あなたはこれから学校でゲームをやるのは禁止。というかもともと禁止なのだけれど…。つまり校則をしっかり守ってもらうわ。風紀委員にも迷惑をかけないこと」
「分かったのじゃ」
学校でゲームをやる…。あれ、思い当たる節が…。
「ちょっと、金美さん。学校でゲームするなだって」
「な、何のことぉ?私知らないよぉ。ふゅ〜」
金美さん、知らないふりしてるし…。
「っていうかぁ、私、やるって言ってないんですけどぉ」
「あら、そうだったわね。ダメかしら?」
「ダメっていうかぁ、面倒くさい…」
「…自信がないのかしら?」
「むぅっ…」
金美さんは、口を膨らませた。
「やっぱり、普段はチートを使っているのじゃな?だからオフラインだと勝てないのじゃな?」
「ぷっちぃん。いいよぉ、やってあげる。後で泣いて謝っても許してあげないからねぇ」
こうして、突如として鮫川さん改めシャークと金美さんのゲーム対決が決定した。
「それで、どういうゲームで勝負するの?」
「うむ。それはこれじゃ!…と言いたいところなのじゃが、さっき風紀委員の人にとられてしまったからの…」
「そういうことだったのね。でもそれはあなたが悪いわ」
英田会長は鮫川さんの嘆きをバッサリ切り捨てた。
「つ、冷たいのじゃ…!」
「…もう、しょうがないなぁ。じゃあこれぇ」
そう言って金美さんは鮫川さんが没収されたゲームと同じものを目の前に出した。
「ちょっと待って!?金美さん、今どこから出したの!?」
「あなたね…」
「あははぁ」
会長は呆れたように額に手を当て、目を閉じた。
「まあ、いいわ。今だけ見逃しましょう。このゲームでいいのかしら?」
「うむ。これが我がいつも負けているゲームじゃ」
「とりあえずモニターにつなげちゃうねぇ」
そう言って金美さんはモニターとゲーム機をつなげ始めた。
モニターにゲーム画面が表示される。
あれ、このゲームって…。
「金美さん、これって前に俺もやったのだよね?」
「そうだよぉ」
俺や火恋さんも一緒にやったこのゲームは、三十人ほどいるキャラクターの中から一人を選んで相手と戦う対人型格闘ゲーム。俺は二人からボコボコにされたな…。
「これ、オンラインで対戦出来て勝ったらパワーが上がっていくのぉ。それで世界の人と順位を競うことができるんだよぉ」
そう言いながら金美さんは鮫川さんにコントローラーを渡した。
「はい。私の予備のコントローラーだけど、だいじょうぶぅ?」
「ふっふっふ…。コントローラーごときで我が弱くなるはずないのじゃ!」
「ああ、そう…。じゃあ言い訳しないでねぇ」
「言い訳なんて見苦しいことするわけないのじゃ!」
金美さんがチートを使っているから鮫川さんが負けるっていうのはいいわけなんじゃ…。
そんなこんなで準備が完了し、モニターにはゲームのスタート画面が映し出された。
金美さんのゲーム名と順位が表示される。
『NAME:狂った猫
RANKING:8位 』
「金美さん、八位なの!?」
「そうだよぉ。まだまだだけどねぇ」
「いや、世界で八位は十分すぎると思うんだけど…」
「すごいのね…。今の時代、ゲームでお金を稼ぐ人たちがいて、それを目指す人もかなりいるって聞くわ…。そんな中で世界八位っていうのは、ものすごく誇れることね…。ゲームだからってバカにできないわ…」
英田会長も感心しているようだった。
「な、なんじゃと!?おぬし、そんなに順位を上げたのか!?」
「うん、先週から調子よくてねぇ」
「どおりで最近マッチしないと思っておったのじゃが…」
鮫川さんはとても驚いていた。
「それじゃあ進めるよぉ」
金美さんの操作でキャラクターの選択画面にうつった。
きっと普段からそのキャラを使用しているのだろう。二人は迷うことなくそれぞれのキャラを選び、準備完了した。
鮫川さんが選んだのは大柄で軍服を着ている男のキャラ、対する金美さんは比較的小柄でオーバーサイズのトレーナーを着た女のキャラを選んでいた。
以前一緒にこのゲームをしたときは別のキャラクターを使用していたような気もするんだけど…。
「三本先取でいいよねぇ?」
「うむ」
金美さんはゲームのルールを画面で設定していく。
時間無制限、相手のHPをゼロにすれば一ポイントで先に三ポイント取ったほうが勝ちだ。
「それじゃあ、二人とも準備はいいかしら?」
「はぁい」
「うむ」
「改めて確認するけれど、金美さんが勝ったら、マリナさんはこれから学校でゲームをしない、マリナさんが勝ったら、ここにいる私たち四人がゲーム部に入る。これでいいわね?」
「大丈夫でぇす」
「負けないのじゃ!」
「じゃあ、始めてちょうだい」
そして、ゲーム部をかけた運命の勝負がスタートした。
後書き
四十九話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は新キャラの名前が分かりました。鮫川さん。
二人が戦うのはまあストリートファイターとかドラゴンボールファイターズみたいな感じのやつです。
鮫川さん、結構好きなキャラです。こんなに強気な感じなのに会長に詰められて普通になるところがお気に入りですね。
金美さんと鮫川さん、どっちが勝つんでしょうか。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。