たのしい“きゅうじつ” #同じテーマで小説を書こう

どこかの森の奥深く、いくつもの山を越えたその先に、4人のこびとが住んでいました。

彼らは、毒リンゴを食べて死にかけたあの有名なお姫様を助けたこびとの遠い親戚であったとかそうでなかったとか。

とにかく素晴らしい由来を持った立派なこびとでした。
立派なので毎日きちんと仕事をして、きちんと生活していました。


ある日仕事終わりにこっそり町を覗いてきたシュピナートヌィが慌てて帰ってくると、言いました。

「りっぱに しごとをしたら、“きゅうじつ”というものがひつようらしいぞ!」

「きゅうじつって なあに? たのしい? おいしい?」

人をダメにするクッション(をまねて作ったもの)にもたれながら、スがのんびりと聞きました。

「ほんをよんだり かいものをしたり さかなをつったりするらしいぞ!」

「ほんをよむなら いまぼくがやっているね」

手元の本に目を向けたままのサラートが眼鏡を直して答えます。

「さかなをつるのは ヨーグルタムのしごとだ」

今日の夕食係のヨーグルタムが手を動かしながら、そうだなとうなずきました。それに対してシュピナートヌィは両手をぶんぶん振りながら、そうじゃないと返します。

「しごとじゃないことをするひが “きゅうじつ”なんだぞ!りっぱにしごとをしたら むいかに いちにち“きゅうじつ”がないと いけないんだぞ!」

「かいものに いけばいいんだな?」

「よにんで かいもの? あぶないよう?」

スとヨーグルタムは少し不安そうに顔を見合わせています。人間はちょっぴりこわいので、町に遊びに行くのはイタズラ好きのシュピナートヌィくらいでした。

「それぞれのしごとを いれかえたらいいじゃないか」

サラートが提案しました。それは4人にとって、とっても楽しいことのような気がしました。

次の日はさっそく“きゅうじつ”をすることにしました。みんな6日よりもっと長い間立派に仕事をしていましたが、1日も“きゅうじつ”をやっていないので、すぐにでもやる必要があったのです。シュピナートヌィとサラートが、スとヨーグルタムが、それぞれ仕事を交換することにしました。


シュピナートヌィ は、森で一番大きな木まで走っていきました。サラートはいつも色とりどりの果物や、不思議な香りのする美味しいきのこを採ってきます。どこにあるかはわかりませんが、シュピナートヌィだって、それらが木にできることは知っていましたし、一番大きい木にたくさん出来るに違いないと思ったのです。しかし、そこにはたくさん小さな白い花があるばかりでした。仕方がないので、白い花と帰りにみつけたつる草に付く真っ赤な実と黄色く光る石を拾って帰りました。

サラートは薪集めをしながら、たまに見かける小動物を一生懸命追いかけました。それでも全く捕まえることはできません。シュピナートヌィはヨーグルタムにも手伝ってもらって子ウサギを捕っていましたから、途中からスと協力して子ウサギを追い詰めました。でも、あと一歩のところでサラートが転び、スとぶつかって逃がしてしまいました。結局スに教えてもらいながら、余った薪で可愛いウサギを彫って持ち帰りました。

スはサラートとウサギを追いかけるまでの間、釣りをしていました。ヨーグルタムに釣り道具を借りて、朝早くから川岸の大きな石の上に腰を下ろして釣り糸を垂れていました。そうして魚を待っていることは、とても楽しいのですが、ぼんやり色んな事を考えてしまって、糸が引かれても気が付きません。気づくと魚は逃げてしまった後でした。スはサラートに木の彫り方を教えながら自分は美しい川魚をいくつか彫りました。

ヨーグルタムは野菜の世話と家具の修理です。野菜に水をやったり雑草を抜いたり収穫したり、思ったより重労働でしたが、なんとかこなせました。問題は家具の修理です。ヨーグルタムはスほど器用ではありません。がたがたした椅子を直そうとしても、もっとがたがたの椅子になってしまいます。最後にはとても芸術的なバランスで立つ棚のようなものができました。

その日の夕ご飯はヨーグルタムの野菜でサラダパーティーをしました。(シュピナートヌィが取ってきた赤い実はサラートが見て食べられない実だとわかりました)

みんなが囲むテーブルの向こうには、芸術的なバランスで立つ棚の上に白い花や真っ赤な木の実、黄色く光る石、可愛いウサギと美しい川魚たちが飾られています。(スは棚になってしまった椅子の代わりにクッションを置いてテーブルにつきました。)

綺麗に飾られた棚を眺めながらヨーグルタムが

「わるくなかったな」

と言いました。

「そうだねえ」

とスが返しました。シュピナートヌィが

「サラートはすごいやつだってわかったぞ!」

と主張しました。サラートは

「きづかなかった いちめんを みられた」

と難しいことを言い、でもと付け加えました。

「むいかに いちにちは おおいな」


こちらの企画に参加しております。

唐突に思いついたのでもう一つ……。毒にも薬にもならないおはなしでした。

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