[エッセイ]当たり前に気づくこと
日曜日の朝、8時頃に起きていくと、既に家事を終えた母がリビングでカフェオレを飲みながら庭を眺めていた。
「おはよう」
「おそよう。パンはそこにあるから適当に食べて」
わたしはパンをトースターに突っ込んで、フライパンに卵を落としながら外を眺める母に話しかける。
「夜、雨、すごかったね。庭大丈夫だった?」
「鉢植えは部屋にあげてたからね。道は川になってたよ」
庭の向こうには青々とした田んぼが見えた。庭の左手に車庫がありその向こうは車一台分の狭い私道になっていた。その私道は庭の向こうの田んぼに接している。さらに道の反対も田んぼになっていた。私道の両側の田んぼには高低差があるらしく、雨が多く降ると庭の向こうの田んぼから、反対側の田んぼに向かって雨水が私道を横切っていって川のようになった。
そうなると我が家から出るには、突然発生した川を渡らなければいけなくなる。深さ数センチの川でしかないけれど、そういう時は特に用事がなければあまり外に出たりしない。
焼けたパンと目玉焼きを手に、母の隣に座って窓から庭を眺める。わたしを部屋に閉じ込めた雨のお陰で、庭の木々の緑が増している気がする。うちの庭はこんなに緑に溢れていたのかと思う。
「イオンモールに買い物行くけど、一緒に行く?」
母が化粧道具を出しながら聞いてくる。近くにある唯一の大型ショッピングセンターだった。近くと言っても行くには車で20分くらいかかる。自分で運転してもいいけれど、母が車を出すなら乗るのが楽だ。
「準備するから待ってて!」
わたしは焼き上がったパンと目玉焼きを慌てて食べ、自分の準備を始めた。
ショッピングセンターは国道をずっと西に行った先にある。ずっとまっすぐの国道の先には八ヶ岳の山々が見えている。その山がいつもよりくっきり見える。一つ一つの木の輪廓まで見えそうだ。
「なんか、今日、山近くない?」
わたしは助手席から運転席の母に話しかける。
「雨が降ったからじゃない?」
ああそっか。と返した。雨は空気中に飛んでいる埃を洗い流す。
空気が澄んだことで、空気の層の向こうにあるものを普段よりはっきりとうつしてくれる。
もし常にもやもやしていたり、常にはっきりしていたりしたら、慣れてしまってあることを忘れてしまうだろう。たまに雨が降って、たまにはっきり見せてくれるから、そこにあることを意識する。
雨が降って景色が変化して、当たり前にあるものを気づかせてくれる。普段は視界に入ったことも気づかない山々が意識に上がるように、気づかせてくれる。
雨は「当たり前」を気づかせるために降っているのかも知れないと思った。
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