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はつかりの食堂車

まだ東北新幹線がなかった頃、両親の故郷である青森へ行くには、上野から特急「はつかり」で8時間半ほどかかった。出発日が近づくと、子供たちは列車内で食べるお菓子を真剣に選び、面白そうな本を見つけると「車内で読むから」を理由に買ってもらう。当日は早朝に家を出、駅で冷凍みかんや飲み物を買って乗車。車内にオルゴールの「鉄道唱歌」のメロディーが流れ、子供には(大人にとっても)かなりの長旅が始まる。

その頃は移動に長時間かかる特急列車には食堂車がついていた。車内販売も悪くはないが、さすがに何時間もじっと座っていると動き回りたくなる。そんな時、食堂車は“お出かけ先”にうってつけの場所だった。いそいそと食堂車両へ移動し、白いテーブルクロスの掛かった席に着く。メニューにカツレツ、カレー、スパゲッティなどが並ぶ中、大てい頼むのはサンドイッチだったが、ある時、なぜだかどうしてもビーフシチューを食べてみたくなった。ほどなくしてビーフシチューが運ばれてきた。褐色のシチューの中にごろんと大きな肉が二つ三つ見えていて・・・・

それはとても美味しいビーフシチューだった。十分に煮込まれた牛肉は大変柔らかく、繊維に沿ってほろほろとコンビーフのようにほぐれる。私はこのビーフシチューを皿を洗ったかのようにきれいに平らげた。次に食堂車へ行った時もまた食べようかな、ビーフシチュー・・・・本当にそう思っていたのだけれど。

結局、食堂車の利用はそれが最後になった。しばらく行かない間に東北新幹線が開業。遂には東京から新青森まで3時間で行けるようになり、食堂車はなくなった。もうお弁当を買うこともない。今は「はやぶさ」の座席で、大宮を過ぎた辺りから車内販売の硬ーいアイスをスプーンで掘削している。

そういえば、車内販売もなくなる(即ち、硬いアイスもなくなる)新幹線があるとか。さすがに味気ないなあー。

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