しずくだうみ×里咲りさ対談「ずっと歌っていくために」ふたりが出した答え

闇ポップシンガーソングライターを標榜するしずくだうみが2ndアルバム『やがて染まる色彩』をリリース。それを記念した対談の相手として指名したのは、アイドル社長として多くの話題を振りまきながら、シンガーソングライターとしても活動する里咲りさだった。

活動や楽曲に対するスタンスは一見、正反対のようにも思えるふたり。しかし音楽活動を続ける中で目指そうとしている場所は、むしろ近いようにも思う。年も近い彼女たちが、紆余曲折を経て導き出した答えとはーー。

〈以下本文〉

里咲：どうして私に声をかけてくれたんですか？

しずくだ：ライターの岡村詩野さんが「インタビューとかちゃんとやってるの？」って心配してくれて、対談とかがいいんじゃないって提案してくれたんです。それで、社長(里咲)がいいなって。自分と近いものを感じるんですよね。えげつない数の通販の発送を自分でやってるシンガー・ソングライターを、ほかに知らないです。イナダミホくらいじゃないですかね。

里咲：いつも「ちゃんと届くかな」って思いながら封をしています。梱包って楽しくないですか？

しずくだ：私は隙間時間にCDを入れて、お手紙を書いてってやってるから、楽しいとは思えないかな。そういう意味で、活動のスタンスは真逆かも。私は、嫌なことがあると曲を作る。

里咲：私もいい曲って言われるのは、嫌なことがあったときに書いた曲ばかりかも。「カタルカストロ」なんかも本当にひどいことがあったときに書けた曲だし。

しずくだ：なるほど。私は生きるために音楽を作っている感じかな。だから自分のために曲を作っている部分もかなりある。やっぱり感情が動いたときの言葉って強いし。請負の仕事とかだと、それを無理にでも引き出して作るけど。

里咲：私も楽曲提供をするときに、その人に合った曲を書くようになって、里咲りさの曲もそういうふうに書いたらいいんじゃないかって思いました。気持ちだけで書くのもいいけど、もう少し脳みそ使って書こうって。

しずくだ：曲作りのコツがわかってきた？

里咲：そうですね。「里咲りさ」に曲を書くとしたら、って気持ちで作れるようになったので、少し視野が広くなったと思います。提供するとき、その人の好きなもの分析するんですけど、里咲はJPOP育ちだな、と思って。だからいまは一周まわって自分がもともと好きだった音楽、JPOPの王道みたいなところに意識が向いています。好きなものは長くやれると思うので。

しずくだ：私は逆に目の前の人をすっとばして、10代の頃とかはメジャーに行きたかったから、そこ(メジャー)で受ける曲を作ろうとしてた。でもまずは、もっと目の前の人に届くことをやるべきだったのかなってことを思ったんだよね。私はずっと歌っていくってことが人生の目標だから、そんなに生き急がなくていいのかなって思うし。

里咲：息の長い音楽ですよね。バンドとかシンガー・ソングライターはやっぱり強いと思う。年をとっても続けられるし。話題性があった方が一気に盛り上がりやすいけど、そのぶん冷めやすいし、継続できるものじゃないんですよね。私は2017年までは、なんとか話題を作ろうって必死だった。でもやりすぎたなって反省して、Pinokkoをはじめたんです。

しずくだ：Pinokkoは話題作りじゃなかったんだ(笑)。

里咲：笑わないでください(笑)！里咲りさが話題ありきのコンテンツになってしまっていたから、このままだと音楽を聴いてもらえなくなるんじゃないかって思って。それで音楽ありきのコンテンツを作り直そうと思ってはじめたのがPinokkoだった。

しずくだ：…どうでした？

里咲：思ってたのと違う反応でした（笑）。でもそれをやったことによって、音楽的なところで里咲りさへのいい影響もたくさんあったんです。ライヴを休もうと思ってセーブしてたので、いろんな音楽や作品を聴く期間があったから、客観的に里咲りさの音楽を聴いて、来年以降こうしようっていうのが見えてきた。だからPinokkoっていうのは、みんなにとってはちょっと違ったかもしれないけど、結果プラスになってよかったと思う。

しずくだ：私はソメソメ(sommeil sommeil )に対してもすごく思ってるけど、なるべく長くやるために、突拍子のないことはしないって決めてるかな。

里咲：消費されちゃうし、自分でも自分を消費しちゃいますからね。ゼップでワンマンやったあとも、ゴールしかなかったから。ゴールを設定しちゃうと、それ以降腑抜けになっちゃう。

しずくだ：でも社長は、企画するのが得意だもんね。

里咲：企画を考えるのは好きです。でもPinokkoもそうだけど、そのときは失敗だと思っていた2018年前半に撒いていた種が、後半になっていい形で回収されてきたんですよ。そういう流れを逃さないようにしたいですね。最近また曲も作り始めているし。だうみさんのアルバムも、すごく良かったですよ。日常がベースにあって、だうみさんが感じている空気や景色がすごく伝わってきた。ラノベじゃなくて純文学的というか、そういう世界観で。

しずくだ：それを目指していたので、うれしいですね。私もだいぶ嫌になっちゃってた時期があったから、このアルバム全力で作って、早く死のうって気持ちになってた（笑）。

里咲：そういう時期もありますよね。私は、限界になっても、いつもこの曲のMV出すまでは絶対生きるぞっていう繰り返しでここまできました（笑）。

しずくだ：だから逆に、やれることを全部やろうって思えるんですよね。タイトルは諦めてるんですけど。「やがて」って言ってて、いまは染まらないって（笑）。

里咲：大変な時期はご飯をいっぱい食べていっぱい寝て、休むべきです（笑）。避暑地に行って、徹底的に休むくらいの勢いで。Twitterとかも見ないで、空を見ましょう。スマホを遠くに投げ捨てて寝たり、家に置いたまま電車に乗ったりすると、めちゃくちゃ心にいいですよ。

しずくだ：絶対にできない！私の場合、それはそれでつらくなるから（笑）。まあでも、叩き起こせば「わー」って起きてくる感じだから、なんとかやっていますね。

里咲：早く元気になってほしい。とりあえず、一緒にご飯行きましょう！

文：前田将博
写真：とみたむつみ　（https://twitter.com/muuumbrella0905）

OTOTOY公開記事:https://ototoy.jp/news/90620

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しずくだうみ
闇ポップシンガーソングライター しずくだうみ 2ndアルバム『やがて染まる色彩』。
1stアルバム『都市の周縁』を2016年11月になりすコンパクトディスクより発売以降、新たな"色"として楽曲提供を行ってきたしずくだが、自身初となるセルフカバーを収録。提供曲を染め直し、楽曲のカラー・編成共に色とりどりの作品がひとつになったアルバムを発売する。
「すぐには意味がわからず心に染みなくても、やがて気付く瞬間があってほしい」、そんな気持ちがこめられたこの作品は、しずくだと同世代のメンバーで構成されたミロクレコーズより発売。
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里咲りさ
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