映画『春に散る』
HULUで映画『春に散る』を見た。
映画『春に散る』本予告 8.25公開 - YouTube
朝日新聞に連載中に気に入って読んでいた原作。
映画化されたので見てみたいと思っていた。
やっぱボクシングの臨場感が違うね~。
そして感じたのは、老いの肉体性。
主人公役の佐藤浩市が昔のボクシング仲間、片岡鶴太郎を訪ねて行って一緒に温泉に入るシーンがあるのだが、その裸に、ああああ、老いるというのはこういうことなのだ、と、文字では思いもしなかった肉体性を感じた。
たって佐藤浩市は私より3歳若いのだけどね。旦那の歳か…。片岡鶴太郎は3つ上か。兄貴の歳やね…。
新聞小説としての連載は2015年~2016年。
その後、乳がんの手術もして、また、見る目がとても違ってきた気がする。
ボクシング映画としてはとても楽しめたのだけど、原作で好きだったエピソードが落ちていて残念だった。
まあ、新聞連載のときに読んだきりだから、うろ覚えだけどね。
横浜流星が演じた若いボクサー。
映画では、ボクシングの判定負けでぐれた不良少年、という設定になっていた。
原作では、親がジムを持っているボクシングエリート少年。
出会いも、主人公が家を買ってシェアハウスみたいに昔のボクシング仲間を集め、リングまで作って、3人で飲みに行ったときに若い衆に絡まれて喧嘩になって、サツがきたので、仲間が逃げて残された若い子を、なんとなくシェアハウスまで連れて帰ってしまう、という…。
主人公が渡米したのは、明らかに優勢だったのに判定負けしたから。
若いボクサーがボクシングをやめて家出して、ボディガードみたいなことをしていたのは、親に忖度して明らかに負けている試合で判定勝ちしたから。
それを利いて主人公が、ああ、自分は判定負けして悔しかったことばかり考えていて、そのとき勝った相手がどういう気持ちだったか、思いもいたさなかったな、と思う。
それを見て、なるほどな、と思ったのだ。
だから若いボクサーは、どちらかというとおとなしいエエシの坊ちゃんポイ感じだったのよね…。
渡米した主人公はぜひとも指導を受けたいと思ったトレーナーに受け入れられず、失意のままボクシングを断念、拾われてホテルで働くようになり成功する。
歳を重ね、一人暮らしの部屋で心臓麻痺で倒れる。
退院後、キーウェストをずっと車で走って、遠くとレーターが帰国した縞を眺め、帰国を決めた、というシーンも印象的だった。
そして3人の元ボクサーが、それぞれの秘儀を伝えるんだよね。シェアハウスのリンクで。
中でも面白いなと思ったのは、スウェイの基本を教えるって、サーフィンをやらせたことかな。そのときに他の2人が「お前の強さの秘密はそれだったのか」とン十年後に納得する…。そういうエピソードが印象に残っている。
それとかかわってくる若い女性は主人公の姪っ子じゃなくて、最初に訪れた不動産屋さんの事務員。
目つきが悪い老人が入ってきたのでヤクザじゃないかとオフィスが緊張する中、平然と対応し、そのうち不動産の社長が「あああ、ジンさんだ~」と気が付く、という冒頭の方のシーンは映像化しても面白そうだったけどな。
彼女はよくシェアハウスに遊びに来るようになるけど、それとなく守っている中年の男がいる。
霊感が強かった彼女は、新興宗教団体の教主に仕立て上げられていたところを脱出、その宗教団体の人たちが来ないか、見守っているとわかる。
彼女は自分の力で若いボクサーの目を治そうとするのだけど、治らない…。
そうした、私が小説として読んでいて印象的だったエピソードが全部落ちて、判定負けに不満で日本を飛び出したボクサーがアメリカでも挫折してホテル業界に身を転じ、故郷に錦を飾って自分の夢を託して、母を守るためにボクシングを始めた貧しい不良少年を指導し、頑張ってチャンプになりました、っていう、わかりやすい話になっていたよ。
ボクシングは一度だけ、東洋タイトルマッチかなにか、親父がチケットをもらった、とくれたので、母親と2人で見に行ったことがある。
結構、前の方の席で、靴がマットの上できしむキュッキュッという音が聞こえ、パンチを受けたとき汗が飛ぶのが見えた。
親父がよくボクシングの試合をテレビで見ていたのをお相伴していたので、今でもときどき面白そうな対戦があるとみることがあるんだよね。