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読書メモ|生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋 |安藤寿康

経済とかに比べて、遺伝子の話って難しいけど、一般人にもわかるように書かれていてとても読みやすいです。

人間は遺伝の法則からも、意思によるコントロールからも支配されない、「運」「偶然」「ガチャ」にかなり多く左右されている

P33 第1章 遺伝とは何か 行動遺伝学の知見

例えば、両親共に知能が平均よりもずっと高かった場合、子供の知能の平均は両親の中間より、集団全体の平均に近づく確率が高くなります。これは逆もまた然りで(中略)毎世代子供の知能が平均に回帰すると、やがて全員が平均値に収束してしまうと思われるかもしれませんが、そうではありません(中略)低い確率ながら両親の平均値と同じかそれより高い(低い)値になる子も生まれるので全体としては前の世代と同じになるのです。

P45 第1章 遺伝とは何か 行動遺伝学の知見

出来の良い両親から生まれる子供は、両親ほどには出来が良くない(それでも平均よりは出来が良い)確率が高くなるようです


3つの脳のネットワークと能力

  1. 感覚運動ネットワーク 

肉体としての身体を持った生き物として、リアルに環境の中で自己を知覚する

  1. 中央実行ネットワーク

社会的な知識や一般的価値観など抽象的な概念の処理を行います。詰め込み勉強をしてでも成績を取らねばらない時など、自分のリアルな感覚を抑えてでもこの部分が賦活し、他の脳活動を抑えてしまうこともあり得ます。最も遺伝率が高い部分

  1. デフォルトモードネットワーク

上の2つのネットワークの間をとりもち、情動を持った一貫性のある自分自身の物語を紡いでいる。これは寝ている時すら常に動き、脳のアイドリング機能とも言われる

自分の中にある「これが好き」「これは得意」「これならできそう」そういったポジティブな内的な感覚は、自分の能力に関する重要な手掛かりです。
(中略)
遺伝的な素質に基づいて環境と相互作用し、内的感覚に素直に従って、それを種として素質をさらに能力として高めていく。好きなことをやっていくうちに、その分野についてどんどん得意になっていくのは、生物学的に見ても自然なプロセスだと思われます。

P77 第1章 遺伝とは何か 行動遺伝学の知見

脳は予測器である。環境がどんなものであるかを予測する仮説モデルを、膨大な入力刺激のパターンによる統計的な確率計算を行うことで能動的に作り上げているのです。(中略)この予測と、実際に受信している感覚信号を比較してずれが最小になるように脳は計算を繰り返します。これは脳活動自体が行なっていると同時に、その内的モデルを検証するために自身の体を動かして感覚信号を変化させることによってもなされます。このように脳は常に予測を行なっており、人間は予測と現実のずれが最小になるように行動しているというわけです。

P78 第1章 遺伝とは何か 行動遺伝学の知見

17歳の時のワーキングメモリへの遺伝の影響は、ほぼ100パーセントだった

P100 第1章 遺伝とは何か 行動遺伝学の知見


ワーキングメモリ(衝動的に出てしまう行動を抑制して適切な行動をとるようにする抑制機能)

行動遺伝学の観点からすれば、中の下くらいの家庭とそれよりも経済的に恵まれている家庭を比べても、集団としてみれば大した差がありません

P102 第1章 遺伝とは何か 行動遺伝学の知見

教育年数の差は賃金に一定の差を生みますが、どの大学に行くかは将来の賃金に影響しない
学校の教育によって将来が変わってくるのではなく、元々の能力が学校を選ばせている

P105 第2章 学歴社会をどう攻略する?

中学や高校を受験するのであれば、偏差値やブランドではなく、学校環境の居心地の良さ、自分の好みに合った先生がいるか、学びたい科目や教え方があるかを判断基準にするのがいいでしょう。(中略)人間の内的感覚とは、遺伝的素質が環境と相互作用していることの表れでもあるから、あなたの勘がこの学校がいいなと感じさせてくれたらそれを大事にして欲しいと思います。

P108 第2章 学歴社会をどう攻略する?

親が期待した通りには往々にしてならないものです。(略)本人の遺伝的素質にとって居心地のいい環境なら、それこそが学習の機会を高めてくれるはずです。気の合う友達も作りやすくなるし、大人になってからもいい思いでとして振り返ることができるでしょう。

P113 第2章 学歴社会をどう攻略する?

ビリギャルの主人公は成績がビリを言いつつ進学校に通っていましたし、塾に通っていた生徒が全員難関大に入ったというわけでもありません。塾の先生の教え方と主人公の遺伝的な素質がマッチして、いいタイミングで能力が伸びたということでしょう。私大の文系は受験科目が少ないので短期集中で攻略しやすいという面もありそうです。これが遺伝と環境の相互作用です。

P119 第2章 学歴社会をどう攻略する?

偏見(女子は理系に向いてない)を取り除くと女子生徒の数学のスコアは男子生徒と違いがなくなりました。また共学より女子校の方が理数系科目のスコアが良いという研究結果がありますが、女子校では男子生徒との恋愛沙汰に悩まされないで勉強に集中できる、あるいは共学では男子生徒の目を気にして本来の能力を発揮できてないなどが考えられます。

P125 第2章 学歴社会をどう攻略する?

社会が情報化したことにより、抽象的推論能力が遺伝的に高い人は、昔の知識人に比べて圧倒的に有利になっています。(略)アイザックニュートンは先人の知見に基づいて新しい何かを発見することを「巨人の肩に乗る」と表現しました。知的能力の高い人にとって、現代は巨人の林立するユートピアのように感じられることでしょう。(略)環境側の圧力が低下すればするほど、遺伝的な能力の差がストレートに出てくるようになるということです。

P133 第2章 学歴社会をどう攻略する?

学習性のある「能力」に対して、学習性のない特性「非能力」は、知識を増やしたり技能として訓練したりして変化させることができない。外交性/内交性  楽観的/悲観的 協調性 新奇性追求といったパーソナリティや、自己統制力なども非能力です。意図的に訓練でコミュニケーション能力の高い人間に「変える」ことはできないので、そういうことを求めらない場所を探すことにリソースを割くべきだと思います

P154 第2章 学歴社会をどう攻略する?

原始的な社会に比べると、現代社会の環境はずいぶんと抽象的なモノやコトで構成されています(略)現代において社会から評価される能力を発揮するには、まずある程度抽象的な事柄を理解できる高度な知的能力が必要になってくる

P162 第2章 学歴社会をどう攻略する?

ある程度以上の多様性を備えた環境が存在していて、そこに一定時間以上自由にアクセスできるなら、何らかの能力が何らかの形で自然と発生する(略)こうした条件は日本の「中の下」以上であれば、そして偏りのある教育方針(何が何でも御三家に入れる、医師を継がせる、バレリーナにさせるなど)で子供を縛り付けてなければおそらくは満たしているだろう

P166 第2章 学歴社会をどう攻略する?

私が小学生の頃、同級生に飛び抜けて運動神経の良い男の子がいました。バスケをはじめどんなスポーツも得意で女子からも大変な人気、私は妬みもありその子のことがあまり好きではありませんでした。しかし、中学校に上がる、もっとスポーツの得意な生徒もたくさん入ってきて、私の同級生はその中で明らかに精彩を欠くようになり、部活でレギュラーにもなれず、没落してとても哀れに思いました。それから何十年も経ってこの同級生に再会した時、彼はその後もずっとバスケを続け、高校の体育教師になっていました。顧問をしているチームを初めて県大会に出せたと嬉しそうに彼は語っていました。その人生を垣間見て、小学生の時には抱かなかった彼への敬意が自ずと生まれました。素質を活かすと言うのはまさにこう言うことだとしみじみ感じ入りました。(略)好きで好きでたまらないスポーツを生涯の仕事にし、そこで人を育て、成果を出すことができたと言うのは、やはり素質あってこそ。そういった視点で見ると私たちの社会は、隅々までそんな形で素質を発揮している人たちの、ささやかだけれど確かな仕事ぶりに支えされていることに気づきます。

P185 第3章 才能を育てることはできるか?

「何もやりたいことがない」ちょっと興味をそそられるものはいくつかある、だけど「これ」と言う感じがしない(略)ならだかな起伏が続いている、このタイプが一番多いかもしれません。こんな場合低い起伏でも、とりあえず登ってみる。登ってみるとほんの少し違う景色が見えてくることがあります。違う景色が見えてきたのなら、もうちょっとだけ登ってみようと言う気も湧いてきます。

P190第3章 才能を育てることはできるか?

まず大前提として、没頭と言う状態は能力の発現において非常に重要です。人は意識的、無意識に関わらず長時間長期間没頭的な経験をすることがあります。(略)将来の仕事につながらなかったとしてもこうした経験は人生を豊かにするとは言えると思います。

P194 第3章 才能を育てることはできるか?

没頭の対象は2つの基準を考える


学習性のある素材であること
能力の発現につながるような何かに没頭していると言うのは、問題解決に取り組んでいる状態とみなせます。すでにできることを繰り返すのとは違い次々と新しい問題が立ち現れてきます。そのような学習性のあるかどうかは大きなポイントだと思います。一方学習性のない没頭としては、物質依存が挙げられます。
本物につながっていること
本物にはお金や地位にはかえられない確かな価値とそれが与えてくれる深い感動があるものです。



『ものごとを難しくするのは簡単だが、ものごとを簡単にするのは難しい』マネージャーが複雑さを好むことは、記録がはっきり語る。『その方がマネージャーの仕事は面白くなるからだ』とデ・ブローク(在宅ケア組織「ビュートゾルフ」創業者(ビュートゾルフ」にはマネージャはおらず目標もボーナスもないがオランダの最優秀企業に5回選ばれている)『それに、この複雑なものをどうにかするには、私の助けが必要だ、と言えるからね』もしかするとこのことがいわゆる知識経済の大部分を駆動しているのではないだろうか。血統書付きのマネージャーとコンサルタントが、自分たちの必要性を高めるために単純なことをできるだけ複雑にしているのではないか。時々私はひそかにこれはウォール街の銀行家や、理解し難い専門用語に釣られるポストモダンの哲学者の収益モデルではないかと思う。どちらも単純なことを信じられないほど複雑にしている

P218 第4章 優生社会を乗り越える

しかし、現実に口にしなければ生きていけない「食料」生活の全てを支える「エネルギー」まで頭だけの計算で、安いから、作れないからと、海外へのアウトソーシングしてきた日本。これらは本来、人間の肉体を使った労働が自然を利用して作り出さねばてに入れることのできないものです。前頭葉と頭頂葉だけでお米や電気は作れません。高度知識社会は幻想である。

P222 第4章 優生社会を乗り越える

人より抜きん出た能力を伸ばして輝くと言う考え方そのものに無理があるのではないでしょうか(略)小さな集落の中で自分の持っている能力をしぜんに発揮してリアルに生きる。そうした生き方はこれからのロールモデルになりうると感じました。ハーバード大が1938年から行っている成人の発達研究でも、家族、友人、コミュニティと繋がりのあるひとは幸福で健康、長生きすることが示されています。

P234 第4章 優生社会を乗り越える

私たちの社会はとても不平等です。その不平等をもたらす大きな原因の1つが親から配られた遺伝子の組み合わせが生む遺伝的な素質の格差だと言うことが行動遺伝学で明らかになりました。もう一つの原因は偶然の環境です。遺伝も環境もガチャでありそれで9割が説明されてしまいます

P245 第4章 優生社会を乗り越える

この本は、あんまり残酷ではないところが好きです。

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