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【ROOM COURSE ー 多元的な環境のためのデザイン】 第3回「自然環境と共につくるコモンズ」
ミラツクでは2020年より、異分野との交わりから時代性を掴むコミュニティの場として、メンバーシッププログラム「ROOM」をスタートしました。
ROOM COURSEは、連続セッションの形を取って一つのテーマを深掘りしていくアクティビティです。2023年は複数のテーマ(環境、デザイン、教育、を予定)について深めていきます。
2023年5月に開始する「ROOM COURSE ー 多元的な環境のためのデザイン」は、「環境」をテーマにした全5回の連続セッションです。第3回は東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林 樹芸研究所長で森林圏生態社会学研究室講師の齋藤暖生さんをお招きして「自然環境と共につくるコモンズ」 をテーマにお話いただきました。
|本編|
|ゲスト|
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齋藤 暖生さん
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林 樹芸研究所長
森林圏生態社会学研究室講師
1978年岩手県生まれ。岩手県立盛岡第一高等学校卒業後、京都大学農学部生産環境科学科から同大学院農学研究科森林科学専攻へ進学。2006年3月に農学博士の学位を取得。同4月から大学共同利用機関人間文化研究機構総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員を務め、2007年12月から東京大学大学院農学生命科学研究科附属秩父演習林助教、2008年10月に富士演習林(現・富士癒しの森研究所)に着任し、2019年11月より講師、2023年4月より樹芸研究所に着任、現在に至る。専門は森林政策学、森林−人間関係学、植物・菌類民俗、コモンズ論。
|ご登壇内容|
齋藤さんには「自然環境と共につくるコモンズ」 のテーマについて、主に3つのトピックスについてお話いただきました。
・ 私たち(日本に暮らす者)にとって森とは
・ 人が森と関わる仕組み:技術と制度
・ 森と向き合う(付き合う)人の知恵と技
私たち(日本に暮らす者)にとって森とは
まず、私たちが暮らす日本は森林国であるということや、どうしたら森林が成立するのか、学術的ご説明いただきました。次に森と人との関係性を示す「森林資源に関するU字型仮説」についてお話いただきました。
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縦軸に森林資源量、横軸に経済発展や時間経過を置いたとき、最初は経済発展に伴って森林資源を使うのでそれが減っていきます。しかし、あるところで頭打ちになり、その後は経済発展するほど森が豊かになるという仮説です。だいたい日本もそれに当てはまります。
私たちの生活が進化するにつれて、森林由来の財からそれを代替する財への使用に変わってきたといいます。例えば、食料については木の実から米・芋へ置き換わり、エネルギーについて薪から石油・ガスに代わるというかたちです。U字の底を打った後、また森林資源が増えるのは、経済発展すると森資源が使われなくなるからという事情もあるとのことです。
次に森の経済学についてレクチャーがあり、齋藤さんが博士論文で取り組んだ「東北のきのこ採り」の事例から非貨幣経済についてお話いただきました。そには、食料自給や贈与といった経済価値の他に、きのこを採る楽しみや、あげること、その際にお互いに話すことの喜びがあるといいます。
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一般的に市場を通じての競争が、いい財やサービスを生むというように考えられていますが、必ずしも貨幣を媒介とした経済がなくても、つまり市場がなくても、財やサービスの質を上げることが可能だということを示す良い事例だと思います。
先程のU字仮説には先があり、これから森林資源がどうなるかの過渡期にきているそうです。それは今、環境資源かつ物質生産資源としての森が見直されていて、グリーンインフラやグリーントランスフォーメーション(GX)などの政策が展開されているからとのこと。それゆえ、森林バイオマスを適切に利用して、森林資源量と経済活動のバランスを取るところにいけるどうかの過渡期だと齋藤さんはお話されました。
人が森と関わる仕組み:技術と制度
次に、日本において人がどのように森と関わってきたのか、技術や制度についてお話いただきました。
昔は技術がそれほど発達していなかったので、人の知恵で木材を生産・輸送していたそうです。例えば、雪を使って運搬する雪上運搬。木材を焼き、炭にして軽くすることで運びやすくするなどです。近代になると森林・林業技術が発展し、自然力から機械力へと変わっていき、より効率が高まっていったといいます。
制度面では、入会(いりあい)についてご説明いただき、コモンズとして自然に向き合う意義についてお話いただきました。
経済学では、時代が進むにつれて、個人のものにすると経済合理的であると言われていますが、実は全てがそうではないのです。400年、500年、歴史を見てみると、確かに個人所有のほうがいいという時もあるけれども、結局はみんなで持つほうがいいという方向に戻ってくることもあります。
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最近ではまた、「コモンズの森」というのが希求されるようになってきました。そのきっかけは何かというと、やはり繋がりへの気付きじゃないかなと思います。繋がりとは何かというと、その森、川、海の繋がりであったり、生物多様性がもたらす豊かさ、あるいは水源ですね。
森というのはいろんな形で我々の生活へと繋がっている。だから、所有者がいたとしても、その人だけが占有することは不可能だという性質を持っています。すなわち、森というのはコモンズなんだという捉え方がだんだん広がってきているのです。
森と向き合う(付き合う)人の知恵と技
現代の森との付き合い方、向き合う技術は、大きな技術になってきており、それは高性能林業機械であったり、コンピューター制御を取り入れた加工・組み立て技術であったりに代表されるといいます。
しかし、齋藤さんは小さな技術の大切さも伝えてくださいました。
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木を伐るときに、のこぎりのような小さい技術は効率が悪いです。しかし、木を触ったり楽しむという点に関しては、非常に優れている手段になります。人の手でできることなので、木に直接触れますし、助けあったりできるので、人とコミュニケーションを取りながら、それも楽しみとしながらできます。
私の考えなのですが、可能な限り生身で森や樹木と向き合う道も模索していったらいいと思います。そうすることで、森や森の生き物に関する知の厚みが増してくる。ただ頭で知るだけじゃなくて、触ったり匂いを嗅いだり音を聞いたりして森を知る。それが今度は楽しみや喜びに繋がるでしょう。それは非貨幣の価値を補強するものになって、森と付き合う意義、価値を生み出していくと思います。
最後に、私たちがいかに日常の暮らしの中に森を組み込むのか、そういう文化を作るのか、というこれから先の大きな課題を提示していただきました。
|参加者ディスカッション|
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参加者:
山に今住んでいない都会の人たちが山に対して向き合う動機はそもそもなんでしょうか。価値はあったとしても、どこから発信されて山での良い体験に繋がっていくのかもっと知りたいです。参加者が主体的に関わるためにどうデザインしていくのかよいのか、他の参加者の方と対話していました。恐らくですが、環境問題のようなテーマと結びついていくのだと思います。
齋藤さん:
これまで演習林を使って、いかに山と人、森を繋ぎ直していったらいいのかを考えて実践してきました。人によって入口は分からないくらい多様です。時代や人によっても考え方が変わったりするので正解はないと思います。
本当に色々な人にとにかく森に触れてもらうって、価値を感じてもらうのがまずは第一だと考えています。価値を感じてもらった方から次のヒントを得ることもありますので、それをまた実践していきたいです。
参加者:
利益は外というような二元論で考えるのではなくて、もっと幅広い関連性をもって森と対峙していくときに、もちろん知的な意味での知識も大事だけれども、身体知のような、実際そこで体験できることがあるのはいいと思いました。
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文責:ミラツク 非常勤研究員 鈴木諒子