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言葉を失った世界

「・・・・・」


『・・・・・』


シーンと静まりかえったオフィスに、隣のバーからかすかに聴こえるジャズの音楽だけが僕の唯一の心のオアシスだ。

みんな何も言葉を発しないまま、黙々と仕事に打ち込んでいる。

「おつかれ」の言葉も無いまま、会釈だけして1人、また1人と帰路についていく。

別にうちの会社が仲が悪いというわけではない。これが今の時代のスタンダード。

時は20XX年。

世の中に溢れていた言葉が失われた。

2020年に世界的に発生した新型コロナウィルスをきっかけに人と人の接触をなるべく避けるような動きになっている。

新型コロナウィルス終息後も第二、第三のウィルス感染が止まらない。


これを重く見た政府は言葉を発することを全面的に禁じてしまったのだ。

言葉を発した者には重刑が課せられ、もうこの社会には出てこれなくなっている。

ではSNSでのやりとりをすればいいではないか?と思うかも知れないが、Twitterを中心に蔓延してしまった心無い誹謗中傷により、沢山の命が奪われた。

それによりSNSは1人1日1ツイートしか出来ないという規制がかかっているのである。


言葉を発せない時代なんて辛い。って思うかも知れないね。
たしかに最初は戸惑いもあったし、不便なこともたくさんあった。

でも僕はそんな時代も割と好きなんだよね。

ちょっと今のTwitterを覗いてみるかい?

「今日はすごく落ち込むことがありました。そんな時にあなたが私に見せてくれた笑顔で救われました。ありがとうございます。」

「僕の夢は世界の子供達を1人でも多く笑顔にさせること。僕が笑顔を見せれば子供も笑ってくれる。何にもできない僕だけど
笑う事は出来るよね。明日、アフリカ大陸に渡ります。」

「生まれてきてくれてありがとう。あなたの産声を聞いた時に、すべての苦しみなんてどうでも良くなりました。あなたの元気な姿が見れるだけで私はつよくなれる。」


「今日もめちゃめちゃハッピー!イェーイ!」

Twitterを覗くとそこには夢と感謝と楽しみに溢れていた。

1日1ツイートしか出来なくなった時、そこから誹謗中傷は消え、温かい言葉だけが残ったんだよね。

みんな毎日、今日1番伝えたい人に伝えたい事を伝えてる。

'
「不便だけどあったかい世界だと僕は思ってるよ。」


そんな時に、不意に緊急メールが届く。

【アナタノオクサマハコトバヲハッシタコトニヨリシュウヨウシマス】

一瞬頭の中が真っ白になった。

言葉を発してはいけないことは百も承知の妻がそんなことするはずない。何かの間違えだ。


そう思いながらもパジャマ姿のまま慌てて現地に走った。

このままではもう愛する妻に会えなくなってしまう・・・


現地に着くと、道の端に止められたトラックと座り込んでわんわんと泣いている子供がいた。

なんで妻は言葉を発してしまったんだろう。


【コドモガドウロニトビダシタトキニ「アブナイ、トマッテ」トサケビマシタ】


事故に遭いそうな子供に声をかけてしまったらしい。そんな理不尽な!と思うがこれが今の時代の絶対的なルール。

幸い、子供は声に気が付き、足を止めた為、事故を免れた。


政府に腕を掴まれて、連れて行かれる妻。

その顔は悲しそうではあるが、後悔しているようには見えない。
いつも子供には人一倍優しい妻だった。

これでもう一生妻に会う事は出来ない。

車に乗せられる瞬間にもう一度妻と目が合った。


『ありがとう。生まれ変わっても変わらず君を愛し続けるよ!』


・・・

思わず妻にそう叫んでしまった。

・・・

僕は妻と同じ車に乗せられ、いつも以上に強く抱きしめた。

言葉が失われた世界。想像もしていなかった時代が来る可能性もある。


こんにちは。
あなたの夢を加速させる『未来アーティストたっち』です。

今日は少し悲しいお話になっちゃったかな。

こんな時代なんてこなければいいですよね。
でも、何が起こっても不思議じゃないのは今回のコロナで体感したんではないでしょうか。


強制的に人に会ってはいけない。そんな時代が来るなんて1年前に想像していた人は少ないと思います。


今回のエピソードはちょっと極端なんですが、『言葉』ってどれだけ大切にしていますか?って事を伝えたかったのです。

あなたが発してる言葉、書き込んでる言葉、それは本当にあなたが心から伝えたいメッセージでしたか?

誰かを嘲笑ったり、誰かを憎んだり、そんな言葉を本当に伝えたかったですか。


誰しも言葉がいくらでも発信できると思うと、間違った事を言ってしまうこともあります。
僕も発言して後悔することは山ほどあります。

自分の一言で傷つけてしまう人がいることはもっと自覚しようと思います。

そして、言葉が制限させた時、本当に伝えたいメッセージだけが残ります。

『もしも言葉が消えるのならその前に君に伝えなくちゃ。
こんなに支えられてること。照れずにきちんと伝えなくちゃ。』

言葉はいつ失われるかわかりません。
それは時代の変化だったり、もしかしたら死というものによってかもしれません。

あなたが捕まると分かっていても伝えたいメッセージっなんですか?

言葉が無くなる前に伝えてみるといいかも知れませんね。

『ここまで読んでくれた方に心から感謝いたします。ありがとう』


あなたの夢を加速させる『未来アーティストたっち』

#みらたっち


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