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契約結婚
『ふぅ〜。ついに明日かぁ』
氷がカランと音を立てるロックグラスをテーブルに置きながら1人思わず言葉を発してしまう。
今夜はストロベリームーン。窓から差し込む月の光が男を照らしている。
6年前に宇宙でオンライン結婚式を挙げ、宇宙飛行士夫婦としてメディアを賑わせた時期もあった。
長かった宇宙でのプロジェクトもひと段落してようやく地球に帰って来れたのが3年前の明日。
宇宙飛行士夫婦の地球帰還と共に結婚3周年のお祝いに沢山の人が駆けつけてくれた。
「お2人みたいな夫婦に憧れます。」
「ずっと2人で幸せに暮らして下さいね。」
沢山の祝福と共に結婚継続誓約書にサインをして熱い抱擁をしたのが懐かしい。
あれから3年。
メディアはまた新しいスターを探して、日々ニュースに取り上げている。
宇宙飛行士夫婦という華やかな肩書きも今では口にする人は少なくなった。
この3年間、自分はどんな人生を送って来たのだろう。華やかではないが宇宙へ行った達成感とちゃんと地に足をつけて歩ける落ち着いた家で過ごす毎日には満足している。
大好きな妻とは宇宙とは違った生活になったこともあって、喧嘩をしてしまう事も多くなった。夫婦とはもともとは他人。価値観の違いがあって当然だ。
それでもちゃんと妻と向き合って話し合ってきたつもりだ。でもそう思ってるのは自分だけかもしれない。
急な不安が胸を締め付け、バーボンを無理やりのどに流し込んだ。
3年前のなんの不安も無い結婚継続式の時とは違い、もしかしたら妻が不満を溜めていて、明日が夫婦最後の日になるのではないかと考えるとなかなか寝付けない。
気がつくと窓から差し込むまばゆい朝日の光で目を覚ます。酔っ払っていつの間にか寝ていたみたいだ。
いつもなら妻に優しく起こされるが、契約により結婚継続式の前日はお互い別々に過ごし、3年間を振り返る時間に当てられる為、今日は1人で起きて朝の支度をする。
紅茶を飲もうと思ったけど、いつも妻がいれてくれるから場所がわからない。
『おれこんなことも知らないのかぁ。いつも当たり前に紅茶を入れてくれる妻に感謝しなきゃだなぁ。』
紅茶を諦め、ミネラルウォーターで喉を潤わせ、無精に伸びた髭を綺麗に剃って気合いを入れる。
今日の結婚継続式の場所は夫婦2人っきりの教会。
1日ぶりに見る妻の姿はなんだかいつもより綺麗に見える。
「おはよう。ゆっくり寝れた?」
『当たり前だろ。いつも通りさ。』
不安だった気持ちを悟られたくなくて気丈に振る舞ってしまった。
「今日からまた3年間、夫婦を続けるか決める日だね。私もいろいろ思い返したよ。もう心は決まってる?」
いろいろ思い返したよ。という言葉に少しドキッとした。ちゃんと自分はいい旦那が出来ていたんだろうか。
2人で白髭をたくわえた神父様の前に立つ。
神父様はまず、夫である僕に問いかけた。
「ナンジハスコヤカナルトキモ、ヤメルトキモ、ツマヲアイシツヅケルコトヲチカイマスカ」
『はい、誓います』
・・・
妻の顔に動揺する仕草や笑顔は見られなかった。
この後は妻への確認の番だ。
自分なりにやれることはやってきた。どんな結論になろうともそれを受け止めようと決意した。
神父様は妻に向かって尋ねた。
「ナンジハスコヤカナルトキモ、ヤメルトキモ、オットヲアイシツヅケルコトヲチカイマスカ」
・・・
ほんの数秒が永遠にも感じられる時間が流れた。
・・・
「はい。誓います。世界中の誰よりも愛し続けます。」
僕の瞳から自然と涙がこぼれ落ちた。
『ありがとう。僕も愛し続けるよ』
2人は3年前と変わらずに熱い抱擁を交わした。
「いつも本気で向き合ってくれてありがとう。いつもあなたの優しさに支えられてます。また3年後もこうやって抱きしめあおうね。」
僕は嬉しくてもう1度妻を強く抱きしめて、そして熱い口づけを交わした。
3年毎にお互いに結婚を継続するか夫婦で確かめるスタイルが一般的になる未来が来るのかもしれない
おはようございます。
あなたの未来を加速させる『未来アーティストたっち』です。
今日は結婚のスタイルについて少し考えてみました。
日本は少子高齢化とともに婚姻率も1970年代に比べ約半分まで下がっています。
生涯未婚の方も増え、結婚というものは絶対では無く、選択肢のひとつになってきています。
そしてそれに加えて熟年離婚など、長年連れ添ったのに急に別れを告げられ、途方にくれる男性陣も多いと聞きます。
結婚は良いところも、悪いところもあるので、するかしないかは個人の自由に決めていいと思います。ただ、せっかく結婚するならハッピーになる方がいいですよね。
そこで【契約結婚】というスタイルもありなのではないかと思っています。
つまり、何年か毎にお互いに結婚を継続するのかしないのかを決めれる仕組みです。
どちらかが継続しないことを選んだ場合は婚姻は解消されます。
具体的に導入するには子供の問題や、お金も問題などいろいろツッコミどころはあるのですが、まぁ今日はそれは置いといて、メリットだけについて話しましょう。
結婚生活で1番の問題点は『慣れ』なんだと思います。一度籍を入れればそれが永遠に続くものという錯覚に陥ってしまう為、家族をないがしろにしてしまうこともあります。
料理をしてくれることも、洗濯をしてくれることも、遅くまで仕事をして稼いで来てくれることも『慣れ』によりあたりまえに感じてしまうのです。
そこに不足しがちなのは『感謝』ですね。
3年で終わってしまうかも知れないと思うからこそ、後悔しないように相手に感謝して向き合う事が出来るのかも知れません。
一生分の契約を入団時にしてしまった野球選手と毎年更新のある野球選手では本当に頑張れるのはどちらでしょう?
今回は結婚を例にあげましたが、親子関係や仕事など、すべてのことに期限があると考えたら向き合い方が少し変わるかも知れませんね。
今日感謝したい人は誰ですか?
恥ずかしくてもしっかりあなたの言葉で伝えませんか。
きっとその言葉ひとつで相手が笑顔になるはずです。
あなたの夢を加速させる『未来アーティストたっち』でした。