大企業とスタートアップの共創は志の目線合わせから 〜M&A EXITの増加が経済循環を活発化させる起爆剤に〜
ーー現在のお仕事内容について教えてください。
大企業とスタートアップの共創実現に向け、互いの想いを事業として昇華させる橋渡し役として活動しています。共創に繋がる活動のアプローチは様々で、大企業(CVC)側の立場では、投資戦略の策定から投資検討の目利きといった投資活動の支援を、スタートアップ側としては社外取締役の立場などで経営課題の討議を行ったり、グロース支援を担うMIRARGOのディレクターと共に事業のグロースに向けた伴走支援や、大企業(投資家)との円滑なコミュニケーションをとるための窓口などになります。
大企業側支援に長く関わっていて大企業の組織論理も分かるし、スタートアップの経営経験を通じて経営者のこともよくわかる私のようなハイブリッドな人間がお互いの意思疎通のハブになることで、通常の大企業のスタートアップでは埋まらない両者の溝を埋め、事業パートナーとしてより良い関係を築いていけるように働きかけています。
ーー武信さんはこれまでに投資やM&Aを通じて、企業同士が協働し合う取り組みを多数経験されてきたと伺っています。この部分、もう少し詳しくお話お伺いできますか?
1社目はコンサルティングファームで、M&A戦略の立案からディール実行、大企業内の新規事業立ち上げなどに従事していました。
社会人初期の頃はリーマンショックと重なり、事業再生を意図したM&Aに携わる機会が多く、2010年代になると大企業×外資企業などのクロスボーダーM&Aが、2010年代半ばごろからは、スタートアップとのアライアンス・JV組成も含めた、M&Aを活用した大企業の新規事業立ち上げや、に従事する機会を得ました。トップマネジメントの意思決定のもとで行われるM&Aによって事業が拡がるダイナミズムを感じる一方で、左脳ではうまくいきそうなアライアンスの座組でも、結局は熱意のあるリーダーが牽引しないとうまくいかないだとか、大企業起点ではなかなか革新的な事業が生まれてこないある種の閉塞感といったことも目の当たりにしていました。そんなコンサルティングファーム生活の後半に”大企業×スタートアップ”のM&Aを担当したことで、スタートアップの熱量や意思決定のスピード感に触れ、彼らのエネルギーをうまく大企業に取り込むことが出来れば、大企業に蔓延る閉塞感も打ち破るきっかけになるだろうと当時強く感じました。自分自身も主体者として事業に関わりたいとの思いも強くなり、スタートアップに飛び込んで事業のグロースと大企業とのコラボレーションを自らの手でやってみようと、事業開発や投資事業などを担うベンチャー企業に移りました。そこで、自社事業として立ち上げていたクロスボーダーM&Aのマッチングプラットフォーム事業の責任者として、事業全体のマネジメントに携わりました。2年程の間に、事業戦略の具体化からオペレーション構築、同事業のスピンアウト、VCからの資金調達、地域金融機関等との提携、さらには上場企業への事業売却と様々な経営経験を得て、ハードシングスも多かったのですが非常に濃密な日々を過ごしました。
当時を振り返って強く実感したのは、
①スタートアップの圧倒的な熱量こそが世の中を変えるようなイノベーティブな事業を生み出す原動力になる
②スタートアップ経営も場数が重要でいつか見た景色を増やすことで成功確率を高められる
③大企業リソースの活用による事業成長の可能性とそのハードルの高さ
といったあたりでしょうか。特に共創に絡む③については、大企業と多く関わっていた私でも協業推進に相当苦労したので、大企業との連携経験の少ない起業家と大企業の連携は、非常にハードルの高い事案だと思います。
ーー昨今スタートアップの出口戦略(EXIT)としてM&Aが注目されていますが、この傾向ついてはどの様に考えていますか?
自分自身も経験者の端くれとして、M&A EXITはもっと起こった方がいいと思います。もちろんそのためには、投資家側もIPOに偏りがちなスタンスを変えて最もいい条件で売れるタイミングで売れるようにしていくことも必要かと思いますが。スタートアップのM&Aが増えることによって、人・事業・お金が、スタートアップ、大企業、投資家のエコシステムの中で循環し、より大きなイノベーションへと繋がっていくと身を持って感じています。
起業家のような想いや熱量のある人は社会全体にとって稀有な存在だと思いますし、そうした人がチャレンジを続けられる環境がもっと必要であるとも思っています。事業に邁進するためには、家族も含めた生活面での不安を減らすという考え方も大事で、M&Aによって一定のリターンを得られるのは重要だと思います。
シリアルアントレプレナーは、起業で多くの経営者がつまづくポイントを経験済みですし、事業を推進するためのノウハウや人的ネットワークなど、様々な点で初回時よりもアドバンテージを持っており、より成功確率が上がるであろうことは想像できます。起業家だけではなく、経営陣等の中核メンバーにとってもM&Aによるトラックレコードは意味を持ちますので、彼らが別のスタートアップで経験を活かして次のチャレンジをしたり、今度は起業家としてチャレンジをしたりといったことも起こるでしょう。
また、M&Aされたスタートアップの起業家がそのままバイアウト先の大企業に入ることで、これまで無かった考えやカルチャー、価値観が大企業内にも生まれるきっかけにもなるでしょうし、その起業家が大企業の新規事業領域のトップになれば、大企業リソースを使ったより大きな事業展開や別のスタートアップとのスムーズな連携なども期待できると思います。誰よりも起業家やスタートアップビジネスを分かっている人なので、スタートアップの有力な買い手にもなってくれると思います。
起業家だけでなく事業の中核人材も含め、より多くの人がスタートアップの世界の中で”強くてニューゲーム”ができることがエコシステム全体の活性化のためには必要で、そのためにスタートアップM&Aが重要な役割を担うと私は確信しています。
ーー大企業とスタートアップのM&Aや事業共創を増やしていくには何が必要だと思いますか?
共創という意味では、大企業とスタートアップそれぞれが立場は異なれど事業については同じような熱量で向き合えることが大前提になるので、そうした人がどれだけ大企業側に増えるか、M&Aに関して言えば成長段階で不完全な事業を取りこむことになるので、そうしたリスクを大企業の経営陣が受け止められるかは大事なポイントだと思っています。
とはいえ、ニワトリが先か?卵が先か?な面もあるので、この点はドラスティックに変わることはないだろうなとも思っています。だからこそ、我々MIRARGOのようなスタートアップの経営経験もあり、かつ、大企業側に立ってM&Aの推進や、スタートアップとの事業創造や、CVC運営をリードしてきた経験のある人間が両者の間に立ってサポートすることの重要性があると考えています。
ーー今後挑戦してみたいことはありますか?
誰もがスタートアップと大企業の共創の一例として挙げるような、社会的にも事業規模的にもインパクトのある共創事業を創り上げたいですね。大企業、スタートアップ、それぞれ単体では成し遂げられない事案でも、手を組み、お互い足りないピースを補うことでその実現性は高まります。私、そしてMIRARGOが持つスタートアップ経営、M&A、新規事業開発、事業共創の経験やノウハウを最大限活かし、大企業とスタートアップ双方に存在する日本の産業に一石を投じる様な事業を目指すリーダー達を繋ぐ存在として活動していきたいと思います。