【作中世界観SS】一番機①人間界の水鳥は泳ぎが得意な魚に憧れない

　私の名前は天実堵美良以(そらみどみらい)。人間界でアイドルをやっている天使。君みたいな羽の生えたUMAを受け入れてくれる芸能事務所なんてあるの？あるんだなそれが…

　私が所属している芸能事務所「有限会社雷雨」は社長が魔女、副社長が謎の力を持った巫女でタレントは人外多数、多様性という意味ではSDGs最先端企業だ。そこの「Waypoint47」ってアイドルグループが私の所属。Waypoint(ウェイポイント)という航空図のチェックポイントの名前を冠しているだけあってメンバーも独自演出も空要素が強い。それはあとで詳しく説明するね。

(そろそろ帰ろっかな…)

　今の私は"自飛通勤(退勤)"中。普段１人のときは真っすぐ帰るときが多いんだけど、今日はXでバズったお菓子屋さんに行くため知らない街に降り立っている。自飛通勤は読んで字のごとく自分で飛んでの通勤でお金がかからないから「自飛＆自費通勤」なんてファンの方から言われていたりする。

　どうも人間さんは空への憧れが強いらしい。現に空に憧れるペンギンのキャラクターは数えきれないくらい見たけど、泳ぎが上手な魚に憧れる水鳥のキャラクターは見たことがない。それと動物で思い出したんだけど、人間さん基準だとタヌキより猫の地位が高いみたいだね。人間界で大人気なアニメのキャラクターが「僕は猫です！タヌキ、タヌキと失礼な！」と怒っていたシーンがあっていったいなぜ彼は怒っているのか私は疑問だったんだけど、人間さんは老若男女問わず彼が怒っていることを不思議がらないし…

　話を戻してファンの方とのトークイベントで自飛通勤の話をするとよく羨ましがられる。人間界の電車通勤が地獄だからかな？と思っていたけど、理由はそれだけではないらしい。

　私は人気のない公園に歩を進めると羽のある姿に変身した。私が今来ているこの街は人間さんに人気なオシャレスポットらしくどこもかしこも人混みだらけ。どちらかというと陰キャ気質な私にとってはいろんな意味で羽を伸ばしにくい。そうそう、実は私、羽のある姿とない姿どっちにもなれる。どうしてってよく聞かれるけどそんなこと私にも分からない。人間さんだってどうしてあなたは二足歩行できるの？って聞かれても説明に困るでしょ？それと一緒。ちなみに人気のない公園に来たのは離陸するためだ。

いろんな意味でどこでもランウェイ！
※モデルさんが歩く花道のランウェイと滑走路を意味するランウェイをかけてる。

　これは私のキャッチフレーズの1つなんだけど現実はそうもいかない。技術的にはどこからでも離陸できるけど、羽での離陸、実際はかなり制限が多い。力任せに羽ばたくと近くに傘を差してる人がいたら、その人の傘は台風の暴風で煽られたみたいにひっくり返るし、ミニスカートならめくれ上がる、小さい子なら転ばせちゃうかもしれない。最近私が羽じゃなく魔法のほうきで飛んでいるのは大人の事情があるわけではなく、こういう理由だったわけ。魔法のほうきは周りに物理的影響をまったく与えず飛べるし音も出ないからね。

　ついでにいうと魔女にしろ天使にしろそれ以外にしろなるべく目立たずに飛んでねと事務所からお達しが来ている。私ら飛行種族を珍しがってよそ見したドライバーがガードレールとキスした挙句、ドローンより飛行種族を規制しろと事務所にクレーム入れてきたのが理由らしい。社長はこのクレームには「不注意を私らのせいにするんじゃないのぜ」と毅然とした対応をしたけど、たしかに事故を誘発するリスクはあるよねってことで不必要に目立つのはご法度にな―――

「美良以ちゃん…！？えっ！？うっそぉ！美良以ちゃんだよねっ！？」

　ふいに後ろから黄色い声、いや、私的には末期色の声がした。

--Fin--