見出し画像

北海道大学法学部2年次編入試験(小論文)の解説をします[第1回]

 今回から北海道大学法学部2年次編入の小論文問題について解説してみます(英語については 別のnoteの記事 を参照)。

■ 北海道大学法学部2年次編入(小論文) 
 2年次編入の小論文は、いわゆる課題文型の小論文で、法律や政治にかかわるトピックの文章について下線部の意味を説明したり、自分の意見を述べるというような問題が出されます。3年次編入とはちがって、法律や政治の専門的な問題ではありませんが、硬い文を読み解く読解力と、日ごろから法律や政治に関するニュースや話題に関心をもち、自分なりの意見(単なる感情論や感想ではなく)を持っていないと答えられない(少なくとも合格答案にはならない)と思います。
 
 令和4年度の小論文問題(問題1)を使って、どのように答案を作成すればよいか、簡単に解説します。ただし、著作権の問題があるので、問題文は若干の引用と大意で代用します。課題文は長谷部恭男教授の『憲法の imagination』(羽鳥書店、2010年)から 「へぇ、へぇ」という題の文です。
 
 課題文型の小論文の取り組み方は人によって違うと思いますが、本文を読む前に設問を読んでおくというやり方があります。これにも一長一短があるのですが、今回はこの方法で考えていきます。 

■ 設問
 そこで、まず設問を読んでみると、問1は説明問題で、下線部の「いくつか難しい問題」の内容を200字で説明せよという問題。
 問2は意見陳述問題で、「平等原則違反である」、あるいは、「平等原則違反のようにも見えるが、平等原則違反ではない」例を挙げて、「ベースライン」 という言葉を用いながら、その例がなぜ平等原則違反であるのか(あるいはそうではないのか)を400字以内で論じろという問題です。
 
 設問を読むと、この文は憲法14条の平等原則についての文だろうということがわかります。この点を念頭に置いて文を読んでいきます。

■ 課題文
 導入部で、著者がニューヨークにいたときにモーゲンベッサーという哲学者の死亡記事を読んだという回想から始まり、そのあとかなりの語数を費やしてモーゲンベッサーという哲学者が紹介されるが、

本題は
  「日本人と外国人の間に生まれた子のうち、日本国民である父親
   から出生後に認知された非嫡出子は、父母が婚姻して嫡出子と
   しての身分を得た(「準正」といいます) ときにのみ届出によっ
   て日本国籍を取得できるという国籍法3条1項の規定が、平等原
   則に反して憲法違反だという判決である。」
 
 その後にその意味を説明する文が続くが、これも著者自身が「ややこしくてすみません」と認めている通り、民法(家族法)の知識のない大部分の受験生は何を言っているのかよくわからないだろう。しかし、外国人との間に生まれた子どもの日本国籍取得について国籍法に不平等な規定があり、最高裁がそれを憲法違反と認めたという程度のことがわかればOK。
 
 そして、これらのよくわからない文の後に問1の下線部
 
   「この問題を憲法の定める平等原則違反として処理しようと
    すると、 いくつか難しい問題が出来する。」 
 
 があり、これに続いて
 
   「平等原則違反 (つまり、不合理な差別) だという主張は、本来
   同じ扱いを受けるべき者が合理的な理由もないのに異なった扱
   いを受けているという主張である。平等にすること自体が肝心
   なのであれば、同じように利益を与えることによってではなく、
   同じように不利益を与える (利益を剥奪する)ことによっても、
   平等にはなる。」
 
とあって、モーゲンベッサーが警察批判のデモに参加した時に警官に頭を殴られたが、それについて「不当な扱いではあったが不正ではない。みんな残らず頭を殴られたのだから」と答えたというエピソードが紹介されている。
 
 つぎの段落でさきほどの最高裁判決を具体例として説明しているが、これも多くの受験生にはよくわからない(と思う)ので、さらに先を読んでいくと、男性社員は定年60歳、女性社員は定年55歳が「不合理な差別だ」という例があり、
 
  「男も女も55歳にしろと主張されているわけでは(普通は)ない。
   女性も60歳にすべきだというのが、当然のように想定されてい
   る大原則である」
  「出発点となる大原則 (法律学では 「ベースライン」 といわれま
   す) がどこに置かれているかで、同じ制度、同じ行為が全く異
   なる評価を受ける」
 
とある。そして、どこに基準(「大原則」)を置くかによって評価が違ってしまう例として、溺れかけている人に100万円で助けてあげるとAさんが申し出た場合、もしAさんに救助義務があるというのが大原則なら、Aさんのしていることは「脅迫」だが、救助義務はないのならば、単なる契約の申込みになるという例を挙げている。
 
 そのあと、再び最高裁判決について、多数意見は日本人の血統をもった子はすべて日本国籍を取得できるのが大原則と考えたために国籍法の規定は平等原則違反で違憲だとしたのに対して、少数意見そうは考えなかったために国籍法の規定は合憲だと判断したのだと説明し、最後にもういちどモーゲンベッサーのエピソードを述べて終わる。
 
 以上が問題文の大意です。
 
 問1は説明問題で、下線部「この問題を憲法の定める平等原則違反として処理しようとすると、 いくつか難しい問題が出来する」 の「いくつか難しい問題」の内容を200字で説明せよという問題です。

 少し長くなったので、どのように答えればよいかは、次回にします。一度、自分なりの解答を作ってみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?