北海道大学法学部2・3年次編入試験(英語)の解説をします[第3回]
前回に引き続き、令和6年度の北海道大学法学部2・3年次編入の和訳問題の3問目を解説します。前回同様、著作権の問題が微妙なので、一部表現を変えています。配点は9点です。
To put that effect in context, the article induces people to feel about as positive toward those who believe in conspiracy theories as identification as a Democrat leads to negative feelings toward that group.
単語
put O in context Oを文脈に照らして考える、Oを文脈に置く
article 記事
induces O to do/C OをC(する気に)させる、OにCするよう誘う
as 形容詞 as ~ ~と同じくらい...(同等比較構文)
those who V Vする人々
believe in~ ~(の存在)を信じる、~を(よいと)信じる
identification 身元確認、身分証明(その人がその人本人であると示すもの)、自分らしさ、自己証明、自己確認
Democrat 民主党員
leads to O Oを引き起こす、Oにつながる
解説
① 最重要ポイントはas ~ as ...の同等比較構文の後ろのasが、identificationの前にあるasか、a Democratの前のasのどっちかという点。
…feel about as positive … as identification as a Democrat leads to…
文法的にはどちらも可能なので、日本語に直してみて意味がわかるかどうかで判定するしかない。
(A)identificationの前にあるasが同等比較構文と読んだ場合
(そのあとのasは「~として」になる)
...feel about as positive toward those who believe in conspiracy theories /
as identification as a Democrat leads to negative feelings...
as以下は、identificationがS、leads toがV、negative feelingsがOになるので、日本語にすると「民主党員としての自己確認が、その集団(=陰謀論を信じる人々)に対して否定的な感情を引き起こす」となる。
(B) a Democratの前のasが同等比較構文であると読んだ場合
...feel about as positive toward those who believe
in conspiracy theories as identification /
as a Democrat leads to negative feelings...
as以下は DemocratがS、leads toがV、negative feelingsがOになるので、日本語にすると「民主党員がその集団(=陰謀論を信じる人々)に対して否定的な感情を引き起こす」となる。
どちらの訳のほうが意味がわかるかと言われても正直困るが、(B)「民主党員が…感情を引き起こす」は、「民主党員」と「感情」のつながりがわからない。まだ(A)「自己確認」と「感情」のほうが関連がありそうだ。
そこで(A)を選び、同等比較の部分を追加して訳すと「民主党員としての自己確認がその集団(=陰謀論を信じる人々)に対して否定的な感情を引き起こすのと同じくらい、陰謀論を信じる人々に対して肯定的に感じる...」となる。
② つぎのポイントは冒頭の不定詞の用法。
[不定詞, SV]というパターンでは、不定詞は目的か条件の副詞用法になる。本問でも同じで、「その効果を文脈に照らして考えるために」か「その効果を文脈に照らして考えるならば」のどちらか。これも意味のわかるほうを選ぶ。結論としては「ならば」のほうが意味がわかる。
③ 無生物主語構文をどうするか。
the article induces people to feel about as positive....は、直訳すれば「その記事は人々にその集団(←陰謀論を信じる人々)に対して肯定的に感じさせる」となる。本問ではこれでOKだが、無生物主語構文なので「その記事によって人々はその集団に対して肯定的に感じるようになる」としてもよい。
④ 全体をまとめると
「その効果を文脈に照らして考えるならば、民主党員としての自己確認が陰謀論を信じる人々に対して否定的な感情を引き起こすのと同じくらい、その記事は人々にその集団に対して肯定的に感じさせる」となる。ここまでできれば合格ラインに届いている。
⑤ ここから先は合格対策としてはあまり意味がないが、identification as a Democrat「民主党員としての自己確認」がなんだか気になる人のために解説を付け加えておく。
英語と日本語の表現の仕方の違いのひとつに英語は名詞を多用するという点がある。日本語ならば「~すること」を、特に法律や政治などの硬い英文では、動名詞ではなく名詞にすることがある。
このようなわけで、identification as a Democrat「民主党員としての自己確認」という名詞(句)は
identifying as a Democrat「民主党員と名乗ること」
identifying oneself as a Democrat「自分を民主党員と認めること」
という動名詞と同じと考えてもよい。
そこで動名詞として訳してみると、「その効果を文脈に照らして考えるならば、自分を民主党員と認めることが陰謀論を信じる人々に対して否定的な感情を引き起こすのと同じくらい、その記事は人々にその集団に対して肯定的に感じさせる」となる。
採点基準
① articleがS、induceがV、peopleがO、to feelがCという第5文型を把握していなければ、マイナス5点。
② 同等比較as positive ...as identification...の誤りはマイナス5点。
③ 不定詞(To put that effect in context)を条件の不定詞としなかった場 合、マイナス3点。
④ the article induces people to feel about as positive.... は、同等比較の後半部分との対比になっているので直訳でOK。無生物主語構文として訳してもOK。
⑤ 単語の誤りはひとつにつきマイナス1点。
次回は和訳問題4問目の解説をします。