北海道大学法学部2年次編入試験(小論文)の解説をします[第2回]
前回、北海道大学法学部2年次編入の小論文で出題された問題文を紹介しました。今回は、答案の書き方を解説します。
■ 解説(問1)
問1は、簡単に言えば、外国人との間に生まれた子どもの日本国籍取得についての問題を平等か不平等かという基準で解決しようとすると、「いくつか難しい問題」が出てくる。それは何かということです。「いくつか」だから、ふたつ以上あるはずです。
そこでなにか平等不平等というだけでは解決できない「難しい問題」が書かれていないかと探してみると、下線部の直後の文に、
「平等にすること自体が肝心なのであれば、同じように利益を与
えることによってではなく、 同じように不利益を与える (利益
を剥奪する)ことによっても、平等にはなる。」
とあります。「同じように利益を与え」ても、「同じように不利益を与え」ても「平等」ならば、どちらでもいいということになってしまう。これは何かおかしいなと感じ取れたかどうかがポイント。この点は、警官に頭を殴られてもみんな「平等」に殴られたのだから「不正ではない」とか、男60歳定年、女55歳定年は不平等だから男女とも55歳定年にすれば「平等」だという例から、なにかおかしいと感じるのではないかと思う。
何かおかしいところは「問題」だがら、これが「難しい問題」のひとつ目。
まだあるはずなので、さらに「問題」について一般的抽象的に指摘している文はないかと探すと、定年の例の後に
「出発点となる大原則 (法律学では 「ベースライン」 といわれま
す) がどこに置かれているかで、同じ制度、同じ行為が全く異
なる評価を受ける」
とあります。平等か不平等かも大原則次第で決まるということだから、平等か不平等かだけでは問題を解決できない。その前に大原則を決めないといけない。ではその「大原則」はどうやって決めるのか。それについては何も書いていない。これも「難しい問題」。
そうすると、「いくつかの難しい問題」とは、
第1に
「平等とは、本来同じ扱いを受けるべき者が同じ扱いを受けるべ
きだという主張である。平等にすること自体が肝心なのであれ
ば、同じように利益を与えることによってではなく、 同じよう
に不利益を与える (利益を剥奪する)ことによっても、平等に
はなる。」
第2に
「出発点となる大原則 (法律学では 「ベースライン」 といわれま
す) がどこに置かれているかで、同じ制度、同じ行為が全く異
なる評価を受ける」
のふたつ。もちろん、このふたつの問題はつながっているから、解答では一つにまとめて構わない。余計な部分を省いてまとめると、一例としてつぎのようになる。
■ 解答例
平等とは、本来同じ扱いを受けるべき者に同じ扱いを与えるこ
となので、同じように利益を与えても、 同じように不利益を与
えても、平等にはなる。だから、平等か不平等かだけでは問題を解
決できず、利益を与えることを原則とするか、不利益を与える
ことを原則とするかを決めなければならないという問題。(140字)
しかし、これでは字数が足りないので、下線部(1)に述べられている外国人との間に生まれた子どもの日本国籍取得についての具体例を付け加える。
平等とは、本来同じ扱いを受けるべき者に同じ扱いを与えるこ
となので、同じ利益を与えても同じ不利益を与えても、平等に
はなる。だから、平等という基準だけでは問題を解決できず、利益
を与えることを原則とするか、不利益を与えることを原則とす
るかを決める必要がある。外国人との間に生まれた子どもの日
本国籍取得についての問題も同様で、日本国籍を取得できるこ
とを原則とするべきかどうかを決めなければならないということ。
(200字)
■ 採点基準(配点20点)
●「問題」を述べた文をひとつも指摘していなかったら0点。
● 1つしか指摘していなかったら15点減点。
● 2つ指摘しているが、外国人との間に生まれた子どもについての具体例を入れなかったら10点減点。
● 注意しないといけないのは、具体例だけでは解答にならないということ。問われているのは問題の具体例ではなく、「難しい問題」という一段上の抽象レベルにあるものだから。(たとえば、「哺乳類」とは何かという問いに対して、「犬や猫や牛や馬など」と具体例を並べても答えになっていないのと同じこと。)
次回は、問2の答え方について解説します。
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