誕生日のこと
先日、誕生日が来ました。
12月生まれは年齢と西暦がほぼ同時に変わるので、早生まれとはまた違った特殊な感触があるような気がしています。
今年は「厄病神ってこういう人のことを言うんだな」というかんじの人間に半年ほど苦しめられていた時期があって、その人間とはもう離れられたのですが、半年って一年の半分じゃん……とふと気づいてしまったときに心底うんざりしました。いつもは特に何も考えずに通り過ぎてしまう誕生日という日を利用して、いろいろなことをリセットしたいと強く考えるようになりました。
まずは髪の毛を切りました。伸ばしていたのですが、髪の毛には気が宿るといわれているそうです。いま宿っているとしたらそれは確実に悪い気だと思ったので、できるだけ短く切りました。五年以上担当してもらっている美容師さんと初めて将棋の話をしました。長くてまっすぐの髪にはずっと憧れがあるけれど、自分は短い方が似合うんだろうなと、鏡を見ながら考えていました。
それから、いつもとは違う場所で年齢を変えたいという気持ちもありました。日常から少しだけ遠いところ、いちばんに思いついたのは三島市でした。青嶋先生の出身地だし、10月の静岡旅行もとても楽しかったからです。新宿から三島駅行きの高速バスが出ていることを知ったので、誕生日に合わせて宿と高速バスの予約を取りました。
誕生日前日の午後、予約していたバスに乗って三島に向かいました。
山を越えていくとき車内がぐっと冷えたので、とても高いところを走っているのだなと思いました。東京はほんのり雨でしたが、静岡は少し晴れていて、雲の切れ目から夕焼けが分かりました。バスの中でゆっくり景色を楽しんでいるだけで心がいやされました。
三島駅に到着した後はチェックインを済ませて、駅の近くで夜ご飯を食べて、コンビニでお酒を買って、それを飲みながら宿でのんびり過ごしました。無事に日付が変わり、自分におめでとうを言い、サッカーを観て寝ました。
ここまで書いてきたような事情をのぞいても、今年の誕生日はやはりいつもより特別でした。青嶋先生の対局があったからです。自分の誕生日に先生の対局があるというのは、自分が先生のファンになってからはおそらく初めてのことだったはずです。
誕生日当日の朝はチェックアウトをすませて、三嶋大社にお参りにいきました。今日の青嶋先生の対局がうまく行くように、そして私がもうこれ以上ひどい人間に苦しめられないように見守っていてほしい、といったことをお願いしました。
三嶋大社の近くには小さな書店があります。そこで来年の手帳を買いました。自分にとって手帳というのはその一年と密接につながっているものなので、旅に出る前に今年の手帳を捨てました。そして三島で新しい手帳を買って、誕生日からはそれを使おうと考えていました。三島で買うことが重要だったので、手帳の中身とか機能性といったことはどうでもよかったです。
やるべきことをほぼすませて、最後の目的地であるさわやか長泉店に向かいました。誕生日にさわやかのハンバーグを食べられるなんて本当に幸せなことです。相変わらずおいしかったです。絶対にまた来ます。
帰りは、三島から小田原までJRを使い、小田原から新宿までは小田急ロマンスカーを使いました。三島から小田原に行く途中、電車の中から海が見えました。途中の駅で降りて海に近づこうかどうか迷うくらいに大きな海でした。ずっと海を見ていました。新幹線は自分には速すぎることに気づきました。
新宿に到着したあとはいったん帰宅して、旅の荷物をほどいていました。そして夜は千駄ヶ谷に行きました。将棋会館の隣にある神社から青嶋先生に念を送るつもりで、実際そうしていたのですが、外が寒すぎて途中でドトールに避難しました。順位戦なので終局が遅くなることもあるし、ドトールが閉店したらどこに移動すればいいのだろうと思っていたところ、閉店前に終局しました。青嶋先生がうまく攻めてるなー、と思ったところで対局相手である古森先生の投了となったので、私が考えるよりもずっと大きな差がついていたのだろうなと思いました。
一日を振り返った時、なんて充実した時間を過ごしていたのだろうと思いました。きっかけは苦しいものだったけれど、結果的に自分で自分の誕生日をいいものにできたことが嬉しかったです。青嶋先生も勝ちでした、こんなに嬉しいプレゼントはなかなかもらえるものではありません。
よい一年にしたい、というよりは、穏やかな一年を過ごしたいです。
もうこれ以上誰かのことを嫌ったり、この世から消えてほしいと願ったりしたくないです。