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学習指導要領解説 各教科編「障害のある児童への配慮についての事項」を社会モデルで捉え直す 1.概要


1 学習指導要領解説「障害のある児童(生徒)への配慮についての事項」について


 現行の学習指導要領解説には、各教科ごとに「障害のある児童(生徒)への配慮についての事項」が掲載されています。
 例えば、「小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 国語編」では、次のように記されています。

〇障害のある児童への配慮についての事項

⑼ 障害のある児童などについては,学習活動を行う場合に生じる困難さに 応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。

 障害者の権利に関する条約に掲げられたインクルーシブ教育システムの構築を目指し,児童の自立と社会参加を一層推進していくためには,通常の学級,通級による指導,特別支援学級,特別支援学校において,児童の十分な学びを確保し,一人一人の児童の障害の状態や発達の段階に応じた指導や支援を一層充実させていく必要がある。
 通常の学級においても,発達障害を含む障害のある児童が在籍している可能性があることを前提に,全ての教科等において,一人一人の教育的ニーズに応じたきめ細かな指導や支援ができるよう,障害種別の指導の工夫のみならず,各教科等の学びの過程において考えられる困難さに対する指導の工夫の意図,手立てを明確にすることが重要である。
 これを踏まえ,今回の改訂では,障害のある児童などの指導に当たっては, 個々の児童によって,見えにくさ,聞こえにくさ,道具の操作の困難さ,移動上の制約,健康面や安全面での制約,発音のしにくさ,心理的な不安定,人間関係形成の困難さ,読み書きや計算等の困難さ,注意の集中を持続することが苦手であることなど,学習活動を行う場合に生じる困難さが異なることに留意し,個々の児童の困難さに応じた指導内容や指導方法を工夫することを,各教科等において示している。
 その際,国語科の目標や内容の趣旨,学習活動のねらいを踏まえ,学習内容の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないよう留意するとともに,児童の学習負担や心理面にも配慮する必要がある。

 例えば,国語科における配慮として,次のようなものが考えられる。
・文章を目で追いながら音読することが困難な場合には,自分がどこを読むのかが分かるように教科書の文を指等で押さえながら読むよう促すこと,行間を空けるために拡大コピーをしたものを用意すること,語のまとまりや区切りが分かるように分かち書きされたものを用意すること,読む部分だけが見える自助具(スリット等)を活用することなどの配慮をする。
・自分の立場以外の視点で考えたり他者の感情を理解したりするのが困難な場合には,児童の日常的な生活経験に関する例文を示し,行動や会話文に気持ちが込められていることに気付かせたり,気持ちの移り変わりが分かる文章の中のキーワードを示したり,気持ちの変化を図や矢印などで視覚的に分かるように示してから言葉で表現させたりするなどの配慮をする。
・声を出して発表することに困難がある場合や,人前で話すことへの不安を 抱いている場合には,紙やホワイトボードに書いたものを提示したり,ICT 機器を活用して発表したりするなど,多様な表現方法が選択できるように工 夫し,自分の考えを表すことに対する自信がもてるような配慮をする。

 なお,学校においては,こうした点を踏まえ,個別の指導計画を作成し,必要な配慮を記載し,翌年度の担任等に引き継ぐことなどが必要である。
(太字は筆者。)

小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 国語編

 特に、後半部分の「例えば~」からは、国語科における合理的配慮の例を示しています。
 手続き上の例示ではなく、個々の児童・生徒の困難さに応じた指導内容や指導方法を工夫する上での例示です。
 学習指導要領解説 各教科編には、それぞれの教科に応じた上記のような「障害のある児童(生徒)への配慮についての事項」があり、合理的配慮の例示があります。

 本Noteでは、各教科の「障害のある児童(生徒)への配慮についての事項」を「社会モデル」で捉え直す試みを行います。

2 「社会モデル」について


 社会モデルとは、何か。
 令和3年に文部科学省が取りまとめた「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」では、次のように示されています。

 加えて、障害のある人や子供との触れ合いを通して、障害者が日常生活又社会生活において受ける制限は、障害により起因するものだけではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものという考え方、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ(後略。太字は筆者。)

文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告」

「障害者が日常生活または社会生活において受ける制限」が「障害により起因する」という考え方は、「個人モデル」と言います。

したがって、「社会モデル」の考え方は、次のように定義できます。


障害者が日常生活又社会生活において受ける制限が、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものという考え方


3 全ての教師に求められる社会モデルの考え方


 上記の引用は、「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告」の「Ⅲ.特別支援教育を担う教師の専門性の向上  1.全ての教師に求められる特別支援教育に関する専門性」からです。
 続きを引用します。

 加えて、障害のある人や子供との触れ合いを通して、障害者が日常生活又社会生活において受ける制限は、障害により起因するものだけではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものという考え方、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害による学習上又は生活上の困難について本人の立場に立って捉え、それに対する必要な支援の内容を一緒に考え、本人自ら合理的配慮を意思表明できるように促していくような経験や態度の育成が求められる。
 また、こうした経験や態度を、多様な教育的ニーズのある子供がいることを前提とした学級経営・授業づくりに生かしていくことが必要である。
(太字は筆者。)

文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告

 特に一文目が長いため、主語を明確にして整理します。


教師が、社会モデルの考え方を踏まえ、

1 教師が、障害による学習上又は生活上の困難について本人の立場に立って捉える
2 教師が、必要な支援の内容を一緒に考える
3 教師が、本人自ら合理的配慮を意思表明できるように促していく


 上記のような「経験や態度の育成」が求められます。
 さらに、こうした「経験や態度」を、


4 教師が、多様な教育的ニーズのある子供がいることを前提とした学級経営・授業づくりに生かしていく


 つまり、全ての教師が、社会モデルの考え方を踏まえて、上記の1~4ができるようになることが求められています。

4 個人モデル中心の考え方から社会モデル中心の考え方へ


 私たち教師は、個々の困難のある子どもの状況を「社会モデル」ではなく、「個人モデル」の考え方のみで捉えてきたことが多いかもしれません。
 つまり、子どもの日常生活または社会生活において受ける制限を、「個人の障害に起因するもの」として考えてきた可能性があります。
 この前提で提供されてきた合理的配慮は、たとえ「本人の立場に立って捉え」「一緒に考えて」も、「特別な配慮」になりがちです。
 つまり、障害のある子どもが、障害のない子どもを基準に作られた学校に合わせるための「特別な配慮」となってしまいます。
 そのような配慮は特別ゆえに、他の子どもたちや大人たちから「ずるい」「不公平」「わがまま」と捉えられることもあります。
 また、こうした特別な配慮が前提での「意思表明」は、本来の形ではありません。

 これからは、私たちは個々の困難のある子どもの状況を「社会モデル」で捉え直す必要があります。
 つまり、子どもの日常生活または社会生活において受ける制限を、「社会における様々な障壁(=社会的障壁)との対立によって生じる」と捉え直します。
 学校は、障害のない子どもを基準に作られているために、個々の子どもにとってその環境が社会的障壁となり、日常生活または社会生活において制限を受けていると考えます。
 だからこそ、障害のある子どもが学校に合わせるのではなく、学校が(多様な子どもたちがいることを前提に)「本人の立場に立って捉え」「一緒に考え」、学校自体が合わせていきます。
 こうした考えが学校に浸透すれば、「ずるい」「不公平」「わがまま」という言葉はやがては消えていくように思います。あえて言うならば、「ずるい」のは周りの子どもやそのような考えを容認している大人の方であり、「不公平」なのは困難を生じている子どもです。
 現在の学校が障害のない子どもを基準に作られているために生じた社会的障壁を、可能な限り取り除くことが、本来の合理的配慮です。

合理的配慮とは、障害のある方が日常生活や社会生活で受けるさまざまな制限をもたらす原因となる社会的障壁を取り除くために、障害のある方に対し、個別の状況に応じて行われる配慮をいいます。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答<国民向け>

 そして、社会モデルの考え方に基づいた意思表明ができる環境をつくることが大切です。


5 社会モデル中心で考えるマインドセットの転換


 先に示した引用の冒頭には、次の言葉がありました。

障害のある人や子供との触れ合いを通して、(後略)

文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告」

 教師は、「障害のある人や子供との触れ合いを通して」、上記に示した1~4ができるようになることが求められています。
 障害のある人や子どもの触れ合いは、極めて大切な手段です。
 学校は障害のない子どもを基準として作られています。そのため、その環境にいる教師は、社会的障壁に気付きにくい立場にあります。
 私たちが普段の生活で気付かないうちに、障害のある方にとって社会的障壁となる物理的なバリアや慣習、価値観が存在しています。
 学校においても、私たちが気付かないうちに、特定の子どもたちが学校で排除されていることもあることがあるかもしれません。
 また、これまでの個人モデルの考え方によって排除された経験をもつ子どもたちは、対話自体を難しいと感じる場合もあります。
 子どもたちが直面している困難について、常にアンテナを高く張り、触れ合いを通して気付き、理解することが必要です。

 しかし、触れ合いだけで全てが解決するわけではありません。
 私たちが、「個人モデル」中心の考え方から「社会モデル」中心の考え方に移行するには、マインドセットを変える必要があります。
 「社会モデル」の知識をしっかりと身に付け、その知識を使って考え続けることが重要です。
 私自身も、障害のある子どもやマイノリティの子どもたちと出会う際、つい個人モデルの枠組みで考えてしまうことがあります。
 現在、障害のない子どもを基準としてつくられている学校にいるからこそ、意識し続けて「社会モデル」の考え方に捉え直す努力が求められます。

6 「障害のある児童(生徒)への配慮についての事項」を社会モデルで捉え直す試みについて


 このNoteでは、(1)から(5)の趣旨を踏まえ、学習指導要領解説各教科編にある「障害のある児童(生徒)への配慮についての事項」を、社会モデルで捉え直す試みを行います。
 合理的配慮の例を社会モデルで捉え直す作業をすることで、マインドセットを変えることが目的です。


教師が、社会モデルの考え方を踏まえ、

1 教師が、障害による学習上又は生活上の困難について本人の立場に立って捉える
2 教師が、必要な支援の内容を一緒に考える
3 教師が、本人自ら合理的配慮を意思表明できるように促していく
4 教師が、多様な教育的ニーズのある子供がいることを前提とした学級経営・授業づくりに生かしていく


 この中の最初の「教師が、社会モデルの考え方を踏まえ、」に対応します。

 具体的には、各教科編の「障害のある児童(生徒)への配慮についての事項」の例示から、次のことを試みます。

1 一般的に生じるであろう社会的障壁を以下の視点で想定すること。
(1) 社会における事物(通行、利用しにくい施設、設備など)
(2) 制度(利用しにくい制度など)
(3) 慣行(障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など)
(4) 観念(障害のある方への偏見など)

2 次に、この社会的障壁がすべての子どもたちにとって取り去っている公正な環境(基礎的環境整備、ユニバーサル・デザインとも言える)について想定すること。

 社会的障壁の視点については、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」及び「よくあるご質問と回答<国民向け>」で示されたものです。

社会的障壁:障害のある方にとって、日常生活や社会生活を送る上で障壁となるような、社会における事物(通行、利用しにくい施設、設備など)、制度(利用しにくい制度など)、慣行(障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など)、観念(障害のある方への偏見など)その他一切のもの

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答<国民向け>


本来の合理的配慮は、実際に困難を生じている子どもが存在していることを前提に検討されるべきものですが、本Noteの目的は、社会モデルで考えるマインドセットを培うことです。
 実際の子どもでは、当然違う分析がなされるものであることをご理解ください。


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