膨らむ新興国債務、インドが負担軽減案 G20財務相会議~スリランカの現実~【日経新聞をより深く】
1.膨らむ新興国債務、インドが負担軽減案
2.スリランカの今
スリランカは今、主権国家としての75年の歴史の中で最も深刻な経済危機に直面しています。2022年の経済成長率は、マイナス9.2%程度と推定されます。世界銀行は22年の経済成長率の実績として、ウクライナに次いで世界最悪としています。世銀は23年、148カ国中、スリランカが世界最大のマイナス成長(4.2%)に陥ると予測しています。(THE WORLD BANK OVERVIEW)
22年4月、中央銀行の外貨準備高を使い果たしたスリランカは、外貨建て債務の返済義務の停止を発表しました。
22年9月の直近の評価では、スリランカの債務を中国が19.6%、アジア開発銀行(ADB)が15.4%、日本も7%保有しています。この数字を見ると、日本もスリランカの経済危機に対する合理的で持続可能な解決策と債務再編のプロセスを監督する上で、日本が重要な地位を占めることを示唆しています。
日本がスリランカの問題に効果的に関わるためには、この国が現在の経済危機に陥った原因を理解する必要があります。その上で、スリランカを回復させるために何ができるかを考えることが重要です。
現在、スリランカは国際通貨基金(IMF)協定に関する理事会レベルの承認を待っています。スリランカ国内外では、IMFの理事会レベルの承認を待っています。
スリランカ国内外では、IMFのプラグラムが開始されれば、スリランカは枯渇した外貨準備を回復し、債務の再編成を交渉し、完全回復の道に向けて経済の信頼を取り戻し始めることができると期待されています。
しかし、IMFのプログラムはスリランカに必要な解決策を提供することはできないでしょう。それは必要な応急処置に過ぎず、治療法ではないと言えます。現在の危機は、主に経済的意思決定機構における組織的な腐敗によって引き起こされました。この根本的な原因に対処しない限り、スリランカの経済回復は持続不可能でしょう。
スリランカの現在の危機は、政治的指導者が既得権益にとらわれているためです。危機は2019年末の減税から始まっています。
政策立案者は既得権益の影響下にあり、この減税が経済に及ぼす潜在的な影響の評価も、理解もしようとしませんでした。無視された分析結果の一つはGDP(国内総生産)の12%以下という、すでに非常に低い政府歳入が4分の1減少し、GDPの8~9%まで減少することでした。
二つ目の分析結果は、スリランカの金利コストが政府歳入の3分の2を超え、それに基づき信用格付け機関がスリランカを国際金融市場へのアクセスを失うレベルまで格下げすることでした。
現実にスリランカが世界の金融市場へのアクセスを失った時も、政策立案者はこうした結果を無視し、腐敗した既得権益に奉仕し続ける予算を成立させました。このため、歳入と格付けの状況はさらに悪化したのです。
例えば、市場シェア2位のたばこの銘柄にかかる高額な物品税は半分に減らされました。また、カジノ関連税は徴収されませんでした。砂糖税は恣意的な大幅削減が行われ、市場価格に転嫁されずに独占的な利益として蓄積されました。
そして、国際市場から借り入れる信用がなく、満期を迎えた対外債務の支払いを繰り返すことができないにもかかわらず、スリランカは対外債務の全額返済のために限られた外貨準備を使い続けました。スリランカの格下げされた債務を高い割引率で買っていた関係者に大儲けさせました。
外貨準備が減少することに伴い、スリランカの指導者たちは、既得権益を代表する植民地の支配者のような振る舞いをするようになりました。国民に必要な物資を供給するよりも、外貨建て国債の償還を優先させたのです。(外貨建て国債も地元の有力者が所有)。
調理用ガスなどの生活必需品が不足しました。病院や薬局では重要な医薬品が不足しました。政府は残りの外貨準備を外貨建て国債の所有者への支払いに充て、その一方で地元住民に必要なものを供給することができなくなりました。
外貨準備が底を突き、通貨は大暴落しました。米ドルはスリランカ・ルピーに対して、昨年1年間で80%以上も高くなりました。22年の年間インフレ率は70%に上昇し、食品インフレ率は90%以上となりました。
3.遠ざける選挙
現在、公式な推計値はないが、世銀のミクロシュミレーターから推定すると、人口の3分の1以上が貧困ライン以下で生活していることになります。(3年前は15%以下)。スリランカの大学の研究者の中には、貧困率が人口の40%を超えて増加しているという研究結果を発表する者もいます。
スリランカの既得権益は、今やその民主主義をもむしばんでいるのかもしれません。指導者たちは、この危機を利用して、大切にしてきた通常選挙という民主主義の慣行も遠ざけようとしているからです。
スリランカでは地方政府、州議会、国会、大統領の四つのレベルで選挙が行われています。今、これら四つの統治機構はすべて、民衆の民主的正当性を失っているか、あるいは、これらの機構の選挙が予定通りに実施されないために、政府によってコントロールされているかのどちらかです。
現在の国会も多数党(SLPP)は大規模な抗議行動により民主的に拒否され、その党出身であった大統領は辞任に追い込まれました。しかし、後任の大統領は依然として同じ党に支えられている人物です。現大統領のラニル・ウィクラマシンハは、20年に所属政党(UNP)が国会最大会派から1議席に減り、彼自身も自分の選挙区で落選、所属政党に割り当てられた1人分の議席を通じてしか国会に出られなくなり、民主的に拒否された政治家です。しかし、国会のSLPPの支持を得て、国会議員による選出投票を経て大統領に就任しました。
政府支持率は10%と極端に低にもかからわらず、国会と大統領の選挙は2年先まで行われず、その他の選挙機構の選挙も阻まれています。
州議会機構の選挙は、区割りのための新しい法律を制定することによって阻止され、そして、その行政手続きは永久に停止されたままです。したがって、州議会は現在、民主的なプロセス外で、大統領によって任命されたすべての強力な知事の支配下に置かれています。
23年3月初旬に予定されていた地方選挙は、国庫に選挙資金を調達する余裕がないとして延期されました。しかし、肥大化している軍事予算は、今回の予算で増額分だけでも選挙にかかる費用の4倍以上になっています。1人当たりでみると、スリランカの軍隊は世界で10番目に大きな軍隊の一つとなっています。
軍事費にお金はかけても、選挙の予算はない。腐敗の果てに行きついた場所です。
スリランカではIMFによる支援、又は他の国からの支援も、もちろん緊急で必要なのですが、それよりも腐敗した政府、腐敗したリーダーを一掃しなければ、同じことが繰り返されることになります。
経済的な支援が必要なことは言うまでもありませんが、民主的な選挙、腐敗防止、そして教育なども必要でしょう。
特に中長期的な観点に立った時、新興国にとって最も大切なのは、教育なのではないでしょうか。スリランカを背負う人々が育った時が、本当にスリランカが現状を抜け出すときかもしれません。
新興国の債務問題は、教育問題なのかもしれません。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】
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