ユーロ圏成長率、23年0.9%に上方修正 物価高なお重荷~ECB(欧州中央銀行)について見ておこう~【日経新聞をより深く】
1.ユーロ圏成長率、23年0.9%に上方修正 物価高なお重荷
2.ユーロ圏の金融政策を一元的に担うECB(ヨーロッパ中央銀行)
1)ECBは物価の安定を何よりも重視する。
「EU(欧州連合)の中で、条件を満たして欧州通貨連合に参加し、統一通貨「ユーロ」を自国の通貨にしている国々が形成しているのが「ユーロ圏(ユーロエリア)」です。
EU(欧州連合)とは、独特な経済的及び政治的協力関係を持つ民主主義国家の集まりです。EU加盟国はみな主権国家であすが、その主権の一部を他の機構に譲るという、世界で他に類を見ない仕組みに基づく共同体を形成しています。現在、27か国が加盟しています。
ユーロ圏の金融政策を行う中央銀行は「欧州中央銀行(ECB=European Central Bank)」で、1998年に設立されました。本部はドイツのフランクフルトにあります。
ユーロは1999年に導入され、2002年に現金の流通がスタートしました。通貨統合参加国は金融政策をECBに委ねており、もともとあったそれらの国々の中央銀行はECBの理事会で決まった金融政策の実務面などを担当しています。
ECBは「タカ派」の色彩が濃かったドイツ連邦銀行(ブンデスバンク=ドイツの中央銀行)の伝統を受け継いでおり「物価の安定」を最も優先する責務としています。
タカ派とは、インフレ予防を重視して利上げに積極的な意見の持ち主のことであり、その対極をハト派と呼びます。ECBは利上げに積極的、利下げには消極的な傾向がありました。
しかし、リーマンショック後の危機局面では拙速に利上げに動いて失敗した経緯があったので、前総裁のマリオ・ドラギ氏の下では、ハト派色が強く、利下げを行っていました。その後、コロナショック後のインフレで現在のラガルド総裁の下、利上げに転じています。
ユーロ圏は、オーストラリア、ベルギー、クロアチア、キプロス、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ラトビア、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペインの20か国で構成されています。
他のEU加盟国(デンマークを除く)は、参加基準を満たした場合、参加する義務があります。どの国も離脱したことはなく、そのような規定も追放される規定もありません。アンドラ、モナコ、サンマリノ、バチカン市国は、ユーロを公式通貨として使用し、自国のコインを発行することでEUと正式に合意しています。コソボ、モンテネグロはユーロを一方的に採用していますが、これらの国は公式にはユーロ圏の一部を構成しておらず、欧州中央銀行(ECB)やユーログループに代表を出していません。
通貨統合への参加国は増える可能性もありますが、参加するには財政状況などいくつかの条件を満たす必要があります。また、デンマークのようにEUのメンバーであっても国民投票で通貨統合参加が否決されてしまい、独自の通貨(クローネ)をそのまま使用している国もあります。
2)ECBの人事
ECBの金融政策は、ECB本部に在勤している役員会のメンバー6名(総裁1名、副総裁1名、専務理事4名)と、通貨統合参加国20か国(2023年1月にクロアチアが加盟)の中央銀行総裁の合計26名が出席する「理事会」で決定されます。参加国が徐々に増えて、リトアニアの加入で18か国を越えたため、2015年1月からローテーションで投票権を持たない国がある仕組みに切り替えられました。
金融政策が決められるECB理事会は、世界の潮流に沿って以前よりも回数が減らされて年8回(6週間に1回)です。理事会終了後に総裁による記者会見が行われる他、議事要旨が公表されます。
2010年2月、同年5月末が任期末のババデモスECB副総裁(ギリシャ出身)の後任に、ポルトガル中央銀行のコンスタンシオ総裁が選出されました。
ECBのトップ人事は、南北のバランスを取りながら決められるといわれてきました。例えば、副総裁が欧州の「南」の国から選出された場合、「次期総裁は欧州の北の国から」というように、です。しかし、2010年末で任期が切れたトリシェ総裁(フランス)の後任には「北」の大国であるドイツ連邦銀行の総裁ではなく、「南」のイタリアからドラギ氏が選ばれ、こうした慣行は崩れました。
米国の住宅バブル崩壊が証券化商品を経由して欧州の金融機関に大きな痛手を与えて金融システムが不安定化したことや、ギリシャの財務危機の長期化など、危機的状況への対処にはタカ派は適任ではありませんでした。
現在はフランス出身のラガルド氏が総裁です。ラガルド氏はパンデミックで歴史的な金融緩和、その後のインフレ率の急騰に対処するという難しい舵取りを強いられています。
3)金利変動を一定の範囲内に収める
ECBの政策金利の柱は「レポレート(レポ金利)」です。レポレートとは、債券現先取引のかたちでECBが民間金融機関に対して資金供給を行う際の基準となる金利のことです。(債券現先取引とは、債券を一定期間後に一定の価格で買い戻す、もしくは売り戻すことを条件として、売買する取引のことです。債券を売った側は債券を買い戻すまでの期間、資金を調達することができます)
ECBは理事会でレポレートを決定し、公開市場操作を行って市場金利を誘導します。レポレートは2023年2月14日現在3.0%です。このレポレートは主要政策金利となります。
また、ECBは、金融機関が資金をECBに預け入れる・ECBから借り入れる際の金利を以下のように設定することで、金利の変動を一定の範囲に収めています(コリドー)。
ECBは2023年2月2日の理事会で主要政策金利の0.5%の利上げを決定しました。これで、主要政策金利は3.0%となりました。22年7月の理事会で11年振りの利上げを決めて以降、5会合連続の利上げです。2%の中期的なインフレ目標を実現するため、次回3月会合でも0.50%の利上げをする意図を表明しています。
ECBは、ギリシャのユーロ圏からの離脱観測が強まったり、ユーロ自体の存続が危ぶまれたりするほどの大変な危機に対処するため、金利を引き下げるという伝統的な金融政策が限界に達した後も、金融政策を強化しました。
そうして非伝統的金融政策として、短期金利をマイナスにする「マイナス金利政策」、ユーロ圏各国の国債などを大量に買い入れて資金を潤沢に供給する「量的緩和」、将来の金融政策運営について一定の約束を言葉にする「フォワードガイダンス」などが実施されてきました。
しかし、コロナパンデミックにより世界的な金融緩和が行われ、ECBも一層の緩和策をとりました。結果として、インフレを招き、マイナス金利政策は終わり、量的緩和も終了しました。2022年からは一転、金融引き締めに転換しています。
3.ユーロ圏を1つの金融政策でまとめるのは難しい
ユーロ圏は以下のような問題点を抱えています。
・圏内にはさまざまな経済構造・経済状況の国がある。
・財政政策の運営は各国政府に委ねられている。
この2点から、各国の景気・物価の状況はかなりのばらつきが出てくるのですが、中央銀行も政策金利も1つだけしかないわけです。
すると、例えば、ドイツにとってはあまりにも低すぎる金利水準でも、アイルランドやスペインといった国々では金利水準がちょうど良いというようなケースが起こりえます。
2000年代後半、好景気にわくアイルランドは、本来であれば過熱感を抑えるために利上げをするべきでした。しかし、現実の政策金利はECBに握られていて、大国のドイツやフランスの不景気を反映した低い水準のままでした。低金利の結果、アイルランドでは不動産投資ブームが起きて住宅バブルが膨らみ、やがて崩壊して、経済が急激に落ち込んでしまいました。
逆に一時のドイツ政府は金融引き締めを望んでいました。しかし、フランスやイタリアなどの景気回復が出遅れてしまい、なかなか利上げに踏み切れないこともありました。
問題点はそれだけではありません。2010年前半にはギリシャで財政危機が発生しました。これはまさに欧州通貨統合の根本にある矛盾をさらけ出した出来事といえます。
前述したように、金融政策はECBが画一的にコントロールしていますが、財政政策は基本的に通貨統合参加各国の主権に委ねられています。各国の義務は、「財政赤字を名目GDP比で3%以内に抑える」ことなどですが、違反しても制裁措置は発動されていません。
つまり、欧州通貨統合では基本的に、「財政政策の運営はその国を信頼して任せる」という「性善説」に立っています。
しかし、2009年10月の政権交代前のギリシャの政権は巨額の財政赤字を隠し、嘘の数字をEUに報告していました。そして、ギリシャの嘘が発覚すると、ユーロ圏の性善説は崩れてしまったのです。
国としての信用を失ったギリシャ国債の価値は急落し、市場での国債発行という資金調達の手段を失ったギリシャの財政は危機的な状態になり、ユーロ圏とIMFによる多額の資金支援が必要になりました。結果として18年には支援プログラムがすべて終了し、危機的な状況は解消されましたが、ユーロ圏の構造的な問題点が解消されたわけではないことには注意が必要です。
4.新たな危機はウクライナ戦争
ヨーロッパ全体のエネルギー問題は一服しているかに見えます。天然ガスの供給不安も払しょくされたと言われています。
しかし、ロシアからの安価で安定的な天然ガスは入ってきません。さらに原油もロシア産の調達は難しくなっています。
特にドイツはこれまで安価で安定的な天然ガスに頼ってきただけに、暖冬のこの冬は乗り越えましたが、次の冬はわかりません。また、ロシアと西側の関係は悪化の一途。ドイツはウクライナへの戦車の供与を決めましたが、本音では、ロシアとの関係をこれ以上悪化させたくなかったのではないでしょうか。
それでもNATOの一員であるドイツは米国に引っ張られるように戦車の供与を決めています。フランスも戦車供与。EUは対ロシア強硬姿勢です。
西側メディアでは、ウクライナ有利の報道が続けられてきましたが、ここに来て、ロシアの攻勢が強まり、敗戦濃厚となっているウクライナです。NATO加盟国、そして、ユーロ圏の国々は戦後処理で難しい立場に立たされます。
現在のユーロ圏にとって一番の問題はインフレです。そして、その大きな原因となっているのが、ウクライナ戦争です。ロシアからのエネルギーに依存してきたユーロ圏の国々は、エネルギーの調達価格が上昇しています。ロシアとの関係が悪化したままであれば、簡単には下がらないと思われます。高止まり。欧州各地で賃上げの抗議デモも起きています。
こうしたエネルギー価格の上昇に加えて、食糧も上昇しています。このインフレを抑えるために、ECBはタカ派に転じ、利上げを続けています。
こうなると、対GDPの債務比率の高いイタリア(147.2%)は利払い費が重くのしかかります。ECBはイタリア国債を購入することで、イタリア国債の金利上昇を抑えています。
こうした歪もユーロ圏の問題です。域内の経済格差は常に問題となり、イタリアの債務危機はいつも頭をもたげてきます。
まだ、しばらくは金利上昇を続けていくと思われるECBですが、簡単にはインフレは収まらないのではないでしょうか。それは、ウクライナでの戦争の終結とロシアとの関係を戻すことが最も有効な方法だと思われますが、それはかなり難しい情勢です。
ウクライナ戦争以降、ドル離れが加速しており、サウジアラビアは原油の決済を人民元でも行うことを示唆しています。ロシアも人民元決済での貿易を行っております。
今後も、ユーロが世界第2位の流通量を誇り、ドルに次ぐ通貨としての重要な地位を保ち続けるのがどうか。どうやら、ユーロの力は落ちていかざるを得ない気がします。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞をより深く】
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