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米23年度予算1.7兆ドルで成立へ 債務上限で火種残す~インフレ助長の法案と今後の変化~【日経新聞をより深く】
1.米23年度予算1.7兆ドルで成立へ
米国の2023会計年度(22年10月~23年9月)の予算が23日、成立する見通しになった。歳出総額は1.7兆ドル(約225兆円)。民主党の指導部は年明けから野党の共和党が下院で多数派となる前に採決を急いだ。もっとも政府債務の法定上限を引き上げる難題は手つかずのまま。米国債の債務不履行(デフォルト)にもつながりかねない火種が残った。
歳出額は前年度の1.5兆ドルから膨らんだ。国防費が前年度比10%増の8580億ドルで、それ以外の予算は6%増の7725億ドル。ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)の同盟国向けの支援に約450億ドル、干ばつやハリケーンなどの災害対策に約400億ドルが盛り込まれた。
「過去最大の国防予算だ」。23日に米議会で演説した民主党のペロシ下院議長は、共和党の要望を受け入れて国防費を積み増した超党派の予算案であることを強調した。国防費はバイデン政権の要望額を上回っている。
だが23日に採決した下院では強い反発が目立った。「もっとも恥ずべき行為だ。なぜたった11日間を待てないのか」。共和党で下院トップのマッカーシー院内総務は中間選挙の結果を反映した年明けの議会で議論すべきだと民主党を糾弾した。同氏は次期下院議長の候補で、トランプ前大統領に近い議員の支持を得るため強硬姿勢を強めている。
民主党が過半数を占める下院での可決はほぼ確実視されていたため、今回の予算はまず上院で与野党の指導部が水面下の調整をした。4000ページを超える予算案が明らかになったのは20日未明。そこから数日で採決したため、複数の米メディアによると多くの議員が内容を精査できていない。こうした強引な手法は、共和党が下院の主導権を握る23年1月からは通用しなくなる公算が大きい。
民主党が過半数をとる下院で包括的歳出法案が通過しました。民主党が過半数を抑えているのは年内であり、23年になれば法案が通過しない可能性が高く、強引に通したようです。
2.インフレには悪影響
今回の包括的歳出法案は、超党派で政策提言を行う非営利団体CRFB(Committee for a Responsible Federal Budget/責任ある連邦予算委員会)によると、来年の非国防・非緊急支出は7.9%、国防支出は10%それぞれ引き上げられます。これは、現在の米国のインフレ率7.1%を超える増額幅です。
つまり、この法案は需要とインフレ圧力を弱めるどころか、強めることとなります。そして、事実上FRBはさらなる負担を背負うことになります。
バイデン大統領就任後、パンデミックによって弱った米経済への支援として次々と法案を可決させました。しかし、それがインフレを引き起こす結果となりました。
このインフレを抑え込もうとFRBは苦心しています。しかし、バイデン大統領も米議会も需要減をもたらす増税や支出抑制によってFRBの取り組みを支援はしていません。今年8月に成立した「インフレ抑制法」は将来の財政赤字縮小を目指してはいます。しかし、同法のインフレ抑制効果は、他の法律や、財政赤字の大幅拡大につながる学生ローン免除(現在は裁判所の判断で凍結中)などバイデン氏の大統領令に圧倒されているといえます。
FRBの苦心とバイデン政権の政策は矛盾しているのです。
3.議会に変化は起きている
CRFB(責任ある連邦予算委員会)の政策担当上級ディレクターのマーク・ゴールドウェイン氏は、インフレが一部議員の姿勢を変化させたと語っています。ジョー・マンチン上院議員(民主党・ウェストバージニア州)は、インフレ懸念からたった1人の反乱でビルド・バック・ベター法案の上院での可決を阻止しました。ゴールドウェイン氏は「1年前は反対したのはジョー・マンチン氏だけだったかもしれないが、今なら6、7人の民主党議員が反対するだろう」と述べています。
今後2年間の財政政策を形作る政治的要因は、過去2年間とは異なるものになりそうです。下院議席の過半数を占めることになる共和党員らが、育児支援の増額、児童税控除などのバイデン氏の優先政策に賛同する可能性は低いと思われます。また、上院の過半数を占める民主党が共和党の減税への熱意を受け入れることも考えにくいでしょう。
つまり、財政政策を決める議員たちが、今後インフレ悪化を招く行動をストップすることになれば、それは、大幅にそれぞれが考えを変化させたからではなく、議会審議の行き詰まりが原因となるでしょう。
米議会の行き詰まりで法案が通りにくいことが、実はインフレ抑制につながるのは皮肉なものです。また、今回の法案ではウクライナ支援の450億ドルも含まれています。しかし、来年はバイデン政権の思惑通りにはいかなくなるでしょう。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】
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