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中国とサウジが包括協定 習近平氏、国王や皇太子と会談~サウジは「さよならバイデン」~

1.中国とサウジが包括協定

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は8日、サウジアラビアの首都リヤドで同国のサルマン国王や実力者のムハンマド皇太子と会談した。原油取引拡大などエネルギー協力について協議し、両国は戦略的包括協定に署名した。人権侵害を巡る米欧の批判をはねつける方針でも一致した。

中国外務省の発表によると、習氏はサルマン国王との会談で「中国は多極化する世界でサウジは重要な力を持つとみており、サウジとの全面的戦略パートナーシップ関係の発展を非常に重視している」と述べた。サルマン国王は「対中関係の発展を非常に重視している」と語った。

サウジ国営通信によると、両国はサウジの経済改革「ビジョン2030」と中国の広域経済圏構想「一帯一路」での連携や、直接投資を広げる覚書などを交わした。サウジでの中国語教育に関する協定なども結ばれた。

伝統的に親米のサウジだが、バイデン米政権とは人権や原油の生産政策を巡ってすきま風が吹く。中国は原油や天然ガスなどエネルギー調達先としてサウジを重視しており、接近してサウジと米国の友好関係にくさびを打つ思惑がありそうだ。

習氏とムハンマド氏の会談の柱はエネルギー協力だ。習氏は「原油貿易の規模を拡大し、油田探査・開発の協力を強める」と語った。ムハンマド氏も「より多くの中国企業がサウジの工業化に積極的に関与し、重要インフラ建設やエネルギー協力事業に参加することを歓迎する」と述べた。

(出典:日経新聞2022年12月9日

サウジアラビアの米国離れが加速しているように思われます。米国と持ちつ持たれつの関係であったサウジアラビアですが、米国一辺倒ではなくなるようです。

持ちつ持たれつというのは、サウジは原油を提供し、そして原油の決済はドルで行うという約束、米国はサウジを軍事的に支援し、王政を守るというものです。その関係にすきま風が吹き始めています。

2.サウジと中国の関係は発展するのか

今回の訪問の際に築かれた関係には各種の取引や覚書があります。

サウジアラビアと中国は両国の首脳が2年ごとに会談する戦略的パートナーシップ協定に調印したと報じられています。そして、技術やエネルギーなどの分野で34件の投資案件を締結しています。

また、西側諸国では取引できなくなったファーウェイとサウジアラビア通信大臣との覚書もあります。10ギガビット/秒の高速モバイルインターネットクラウドコンピューティング施設を王国に設立するようです。その他には30万戸の住宅の建設契約や中国の電気自動車メーカーであるエノベイト・モーターズは、サウジアラビアの持ち株会社と、同国に年間10万台の自動車工場を建設するMoUにも合意しています。

現在でも中国は原油の輸入をサウジアラビアから行っており、最大の原油供給国がサウジアラビアです。

そして、中国の最大の狙いはペトロ人民元でしょう。つまり、ペトロ(原油)を人民元で決済するという野望です。

サウジアラビアからの輸入の原油決済を人民元でと考えることはもちろんですが、ロシア産原油の決済も人民元とする構想でしょう。

ロシア産原油の取引価格の上限を1バレル60ドルとする措置に、対ロシア経済制裁に反対してきた中国は反発を強めるはずです。そして、G7やEUが主導する上限価格の設定では、それを超える価格での取引では、輸送保険を使えなくする措置が取られます。

しかし、中国は自国の金融機関を通じた輸送保険を用いて、上限価格にとらわれないロシア産原油輸入を模索するシナリオが想定されます。その際の決済は人民元となるはずです。

そして、原油価格の上限措置はサウジアラビアにとってもマイナス効果です。世界景気の後退懸念で、ただでさえ原油価格は下落していますから、その上、ロシア産とはいえ、上限価格を設定されるのは、面白くありません。

サウジアラビアも原油の決済を「ドル」だけではなく、「人民元も可能」とするかもしれません。

3.サウジはさよならバイデン

サウジアラビアとバイデン政権の関係は悪化しています。米中間選挙の前には、OPECプラスの減産を思いとどまるようにバイデン政権から要請がありましたが、サウジアラビアとOPECプラスは減産を強行しました。

それに反発したバイデン政権は武器供与の停止や米軍の撤退で脅しをかけましたが、サウジアラビアのムハンマド皇太子は動じる様子もありません。

そもそも米国とサウジアラビアの蜜月関係は、1971年のニクソンショック(金とドルの交換停止)以降に始まります。

米国は金とドルの交換を停止したことで、世界の基軸通貨の地位を保つためには工夫が必要でした。そこで、当時のニクソン大統領とキッシンジャー国務長官はサウジアラビア王朝に次のようなオファーを出しました。

サウジアラビア(つまり同国の石油基幹設備)を米国は防衛すると約束した。そして、サウジが希望すればどんな兵器も売ると約束した。

イスラエルからの攻撃だけではなく、他のアラブ諸国(たとえばイラン)などの脅威からも守ると伝えた。

サウジ王家を未来永劫にわたって保護することも確約した。

特に最後の約束はサウジアラビア王家にとっては魅力的でした。そして、アメリカはその見返りに二つのことを要求したのです。

サウジアラビアの石油販売はすべてドル建てにすること

貿易黒字部分で米国財務省証券を購入すること

サウジアラビアは人口が希薄でありながら、莫大な石油資源を保有しています。しかし、中東情勢は常に危険と隣り合わせです。宗教指導者が強権的に侵略する命令を下したり、虐殺事件が起こしたりする国が隣国に存在します。そうした国がいつサウジアラビアを狙ってもおかしくはありません。サウジ王朝や支配層にとって、米国の保護の確約は魅力的でした。

サウジアラビアがこの要請に応える協定書にサインしたのは、1974年ことでした。1975年には、ニクソンとキッシンジャーの狙い通りOPECの他のメンバーも原油のドル建て取引を決めました。

これがペトロダラーシステムです。

バイデン政権とサウジアラビアの関係が崩れてきているのは、単に外交関係がおかしくなっているということではなく、米ドルの基軸通貨の地位を担保している「ペトロダラー」が崩れて生きているということです。

さよならバイデンは、そのまま米ドルの基軸通貨としての地位を危うくしているということなのです。

米ドルの強さの源泉が崩れれば、人民元がさらに世界に流通することになるでしょう。中国としてもサウジアラビアとの関係強化は、人民元を世界通貨にしたいという野望とも合致してくるわけです。

その意味で、サウジアラビアと中国の関係強化は、米国と米ドルにとって脅威となります。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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宮野宏樹(Hiroki Miyano)@View the world
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