シリコンバレー銀破綻、連鎖恐れる投資家(NY特急便)~米銀破綻から世界大恐慌になるのか!~【日経新聞をより深く】
1.シリコンバレー銀破綻、連鎖恐れる投資家
2.シリコンバレー銀行の破綻とその影響
2023年3月10日、シリコンバレー銀行(SVB)が破綻しました。全米16位、2,117億ドル(27.5兆円)の総資産を持つ中堅銀行です。
2022年3月からのFRBによる普通より急いだ利上げ(0.25%→4.75%)によって、銀行の資産である所有債券(米国債・MBS・社債)の時価が下落し、SVBへの信用不安が起こって、預金者が引き出しに殺到したため、マネー(流動性)が枯渇し、支払いができなくなったのです。
SVBの破綻が局所的なもので終わるのか、全米に広がってシステミックな信用恐慌になるのか、ここが次の焦点になっています。
トランプ前大統領は自身が経営するTruthSocialで「1929年を超える大恐慌が来る」と発信しています。
また、米国のマネーサプライM2が150年前の世界大恐慌以来のマイナスに陥っています。
全米の銀行とファンドが60%保有する米国債31.4兆ドル(4,080兆円)とMBS(不動産担保証券)10兆ドル(1,300兆ドル)が4%台への金利上昇により、どの程度下落するのかを理解する必要があります。
(米国債の40%は海外の中央銀行、銀行、ファンドが持っています。日本は1,400兆円分をもっています。)
現状では、連鎖しているのはシグネチャー銀行だけですので、局所的に見えますが、シリコンバレー銀行破綻の背景には4%の金利上昇の副作用である「米国債とMBSの20%の下落」が中核にあります。
「米国債31.4兆ドル(4,080兆円)とMBS(不動産担保証券)10兆ドル(1,300兆ドル)」が推測20%超、8.28兆ドル(1076兆円)の下落です。
この損失額は全米の銀行すべての自己資本を吹き飛ばす大きさです。SVBは最初に内情が知れ渡り、わずか2日間で取り付け騒ぎから破綻したのです。同じように米国債、MBS、社債を抱える銀行に広がっていくことが考えられます。トランプ氏が発言している1929年~1933年の世界大恐慌という可能性もあり得るのではないでしょうか。
このシリコンバレー銀行の破綻は世界大恐慌の予兆となるのでしょうか。リーマンショックはその前兆とされるベアスターンズ証券の破綻から1年2カ月かかっています。
(ベアスターンズショック:ベアスターンズ証券は、リーマンショック前には米国でゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、メリルリンチ、リーマンブラザーズに次ぐ大手証券とされていましたが、2007年7月に同社傘下のヘッジファンドがサブプライム証券絡みで破綻、同社の支えきれず翌年3月にJPモルガンに買収されました。この動きをベアスターンズショックと呼び、後から振り返って2008年9月のリーマンショックの前兆だったと認識されています。)
米国政府は、現在、国債発行残高が31.4兆ドルの法的な債務上限に達しています。新規の国債発行ができません。多数派の下院民主党が債務上限引き上げを議決しない限り、国債増発ができず、銀行救済のための財政資金を出すことができません。
そのため、シリコンバレー銀行(SVB)の預金を全額保護するマネーは財務省がSVBが持つ国債とMBSを下がった価格ではなく、発行額面で買ったFRBがSVBの損を引き受けているのです。この方法には限界があります。
下院の多数派の共和党は、バイデン財政のウクライナ戦争支出を含む財政の削減を債務上限引き上げの条件にしています。引き上げができないと、2023年8月ころに満期が来た国債を返済できず、米国がデフォルトします。
万一にもこのようなことになれば、米国債価格の暴落、金利の高騰、ドルの暴落、全米すべての銀行が破綻し、FRBまでもが破綻します。
銀行の破綻どころではありません。政府もFRBもすべてが破綻です。ギリギリまで破綻回避のための政治的な条件闘争が続くはずです。
FRBはシリコンバレー銀行の破綻までは0.5%の利上げをするだろうというのが市場の予測でした。しかし、シリコンバレー銀行破綻後は0.25%の利上げ、もしくは利上げはしないという予測が出てきました。
仮に0.25%の利上げをしたとすると、FF金利は4.75%~5.0%となります。この金利では銀行危機の状況は変わらないでしょう。そのため、FRBはFF金利を2%に向けて下げていく緩和を行い、下がった国債とMBS(不動産担保証券)を額面で買い上げないと危機は収まりません。果たしてFRBはどのような政策をとるか。
もしも、FRBが緩和に向かえば、トルコのような状況になります。トルコは通貨が暴落する中、逆に利下げを行いました。トルコリラは2007年は1リラ100円でしたが、現在は7.07円です。15年間で93%下がり、2022年からの1年間では20%下落しています。(最低賃金は54.7%上昇)
輸入物価は高騰してインフレ率70%を超えるハイパーインフレを起こしました。それにも関わらず、エルドアン大統領は政策金利を2019年の24%から8.5%に引き下げました。
インフレ下において、利下げを行うということは、これと似た状況です。
しかし、銀行危機を救うには利下げをするしか方法はなさそうです。逆に利下げを行わないとすると、銀行危機は収まらず、全米の銀行に連鎖していく可能性が大です。FRBは歴史上稀にみる難しい状況に追い込まれています。
3.金利の上昇がもたらす債券価格の下落がもたらす世界
米国では金利が上昇しました。10年物で発行金利が1.25%の米国債で、額面100万ドル、残存期間(デュレーション)が8年の米国債は市場の長期金利4%に上がると価格はいくらになるかということを考えなければなりません。
これを計算してみましょう。
①国債の現在価値を計算します。
現在価値=額面/(1+市場金利)^8
※^8は8乗を意味します。
現在価値=100万ドル/(1+0.0125)^8≒90.5万ドル
★10年物国債を2年間保有し、金利が変化していなければ90.5万ドルの価値ということになります。
②次に長期金利が4%に上昇した場合の国債の現在価値を計算します。
現在価値=100万ドル/(1+0.04)^8≒73.1万ドル
★発行金利1.25%の10年物国債を2年間保有し、金利が4%に上昇すると、その価値は73.1万ドルになるということを意味します。
③何%下落しているか
発行時の金利が1.25%の国債を2年保有すると、金利に変化がなかった場合、額面100万ドルの価値があった国債は90.5万ドルの価値になっています。しかし、金利が4%に上昇した場合は、90.5万ドルの価値が73.1万ドルに下落します。つまり、19%の下落です。
④保有したままだと含み損
市場で売却せずに保有し続ければ、19%の含み損ということになります。満期まで保有すれば、100万ドルを手にできます。元利では以下の価値になります。
100万ドル×(1+0.0125)^8=110.4万ドル
満期まで持っておけば、損はないように思えます。なので、国債が下落しても、大きな問題は発生しないのでしょうか。
実は違います。機会損失を考える必要があります。
⑤発行金利4%で新規発行される国債の8年後の価値を考える
100万ドル×(1+0.04)^8=136.9万ドル
★金利1.25%の100万ドルの国債を売らずに満期まで持ち続けた銀行は、136.9万ドル-110.4万ドル=26.5万ドル(24%)という機会損失を被ることになります。
このため、国債を持っている銀行は、金利1.25%の国債を19%の損をしても、金利4%の新規国債に乗り換える売買をするのです。
このことから、一般的に言われている「金利が上がっても満期には政府から額面の100万ドルの償還があるので、銀行は損をしない。だから国債は損のない安全資産である」には嘘があることが分かります。
実際には金利が上がるとき過去の低金利の国債を満期までも続けると、途中で売った時より大きな期間損失が発生するのです。
金利が上昇しても債券価格の下落は単なる含み損というわけではありません。金利が高いままだと、銀行のシステミックな危機は必然です。
31.4兆ドル(4,080兆円)の米国債を抱える、米銀(60%)と世界の銀行(40%)にとって長期金利が1.25%から4%への上昇は銀行危機を必然のものとします。4,080兆円×19%=775兆円の含み損が銀行のB/Sに隠れていて、時価評価されていないからです。米銀は中央銀行のFRB、シリコンバレー銀行以上の中堅、大手の銀行(平均の自己資本は総資産の5%程度しかない)、中小銀行を含んで、全ての銀行は債務超過になっている可能性があります。
これから債務超過になっていくのではなく、時価ではすでに債務超過だということです。
FRBの利上げは資産バブルを終わらせるだけでなく、国債、MBS、社債を含む全ての債券が20%は下がっていて(6,500兆円×(-20%)=-1300兆円)います。加えて、不良債権が増えていきます。米国のマネーサプライ(=銀行の負債の預金)が21兆ドル(2,730兆円)なので、銀行の貸出金は21兆ドル(2,730兆円)はあるでしょう。このうち、最低でも20%(546兆円)は不良債権になっていくでしょう。
合計では「1,300兆円+546兆円=1,846兆円」の「マネーの縮小=債券の不良化」です。この金融のシステミック危機に対して、2013年中に救済のために1,000兆ドルを増刷すればどうなるでしょうか。恐らく、1ドル≒80円付近にまで下落するでしょう。
この通貨の暴落は、世界の通貨に対する実効レートの下落として、FRBによるマネー量増加の効果を消してしまいます。最終的には米国は自己資本が吹き飛んだ全ての銀行を国有化し、1985年のプラザ合意のようにドルを切り下げるしか、方策はないでしょう。2023年4月、5月には大手のJPモルガン、バンクオブアメリカ、シティバンク、ゴールドマンサックスも、時価評価では債務超過になっていくでしょう。約20%は下がったであろう資産の国債、MBS、貸付金ではシリコンバレー銀行とほぼ同じ資産内容だからです。
シリコンバレー銀行が持つ国債だけが20%下がったのではありません。全ての銀行が持つ米国債とMBSが時価では約20%下落しているのです。
今のところ、米国の投資家、政府は楽観的です。連鎖は無い、と。日本のバブル崩壊時、財務省が地価の下落が一時的ではないと認めたのは1992年から暴落が始まった2年後の1994年のことでした。
リーマンショックも予兆から1年2カ月、日本のバブル崩壊が認められたのも2年、金融のエリートである中央銀行や大手銀行は、見誤ったとしても認めることは難しい。
シリコンバレー銀行の破綻は、まだ入り口です。これから、1~2年の間に、大きな金融危機、それも世界大恐慌級のものがやってきてもおかしくはない事態となっています。
注目は3月21日~22日のFOMC。果たしてFRBはどんな金融政策を発表するのでしょうか。西側世界の金融システムは崩壊に向かっています。
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