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米利上げ「近く減速」 11月議事要旨、効果見極め局面に~米国景気の行方は?~【日経新聞をより深く】
1.米利上げ「近く減速」
米連邦準備理事会(FRB)が23日公表した1~2日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨で、大多数の参加者が近く利上げ幅の圧縮を見込んでいることがわかった。FRBは11月まで4会合連続で0.75%の利上げを実施してきたが、12月にも利上げのペースを落とす公算が大きくなった。民間では物価の伸びがピークを越えたとみる専門家も多く、インフレ対応は転機を迎えつつある。
「次回の12月会合は0.5%に、2023年に入って2回の会合は0.25%に上げ幅を縮小し(その後)いったん利上げを停止する」。議事要旨の公表を受けてPNCフィナンシャル・サービシズのガス・ファウチャー氏は予想への自信を深めた。減速を示唆した11月会合後のパウエル議長の発言が、大多数の参加者の意向を受けたものだと判明したためだ。
米金融機関の見方は収斂(しゅうれん)しつつある。JPモルガン・チェースもまったく同じ予想で、ゴールドマン・サックスは23年の0.25%利上げが2回でなく3回とみている点が異なる程度だ。22年11月まで4連続の0.75%利上げで政策金利の誘導目標は3.75~4.0%になった。いずれの見通しでも、政策金利は最終的に5%前後に達する計算になる。
議事要旨では多くの参加者が「金融環境が十分に引き締まったといえる水準に近づけば、利上げのペースを減速すべきだ」と指摘した。「離陸直後はエンジンを吹かすが、巡航高度に近づけば上昇速度を緩める」(ウォラー理事)という考え方だ。そのうえで大多数が「近く利上げペースを減速する可能性が高い」と主張しており、米利上げは効果を見極めながら慎重に上げ余地を探る局面に移りつつある。
FRBの利上げの減速が11月のFOMCの議事要旨からも伺えるようになってきました。
2.米株式市場と債券市場
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米国の株式市場は3市場そろって上昇しています。金利引き締めペースの減速予測が好感されているということです。ハイテク株が多いナスダックはIT関連企業の業績の後退から上昇幅が小さい状況です。
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10年物国債金利は4.2%程度をピークに下落しています。これも、金利引き上げペースの減速の観測を受けてのものです。
景気に敏感な2年物国債金利も下落傾向です。この一週間で急激に下落しています。
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米国の株式市場と債券市場の動きをみると、金利引き上げペースの減速を好感しているようです。
この株価の回復、債券金利の下落は22年10月の米国CPIが7.7%と民間予想の7.9%を下回って、米国物価上昇率が2022年12月に向かって下がったからです。そして、今の株式市場、債券市場の動きは、FRBは12月18日には0.75%ではなく、0.5%の利上げになるだろうと市場が予想していることを示しています。
しかし、FRBの動きは金利を引き下げるわけではなく、上げ幅の縮小です。12月のFOMCでも金利は上げます。それにも関わらず、株価の下落を嫌う金融市場は、「金利の低下」に匹敵するイベントだとでもいうように、これまで売ってきた株を買ったのが現状です。
金融市場が、毎月の物価上昇率の小さな動きに過剰反応していると言えるのではないでしょうか。そのため、もしも、再びCPIのが市場予想を上回れば、逆方向にブレる可能性があります。
3.今後の景気を占う本命は住宅市場
ケース・シラー住宅価格指数は米国の金利が上がり始めた22年4月に21.3%でピークをうち、8月には13.1%に下落しています。
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2020年のコロナ前は2.5%、さらにその前は5%前後で推移していました。ところが、コロナ危機への財政対策(5.9兆ドル)と、金利0~0.25%への金融緩和が行われた2020年4月から、住宅価格の上昇率はまさに、うなぎ上りとなり、2021年には、20%台という異常値となり、リーマンショック前を越えました。
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住宅価格の上昇率が下がり始めたのが22年4月、FRBが金利を上げ始めたのが3月です。
リーマンショックの時は、2006年には前年比で15%以上も上がっていた価格が-20%に下がるまでに約3年かかっています。
住宅は売りに出ても、株のようにはすぐに売買が成立せず、在庫期間があります。全住宅に対する売買件数は1年間で6%程度と少ないので、金利の上昇が、それと等価(パリティ)となる価格の下落に反映するには時間がかかります。
リーマンショックを参照にするならば、下落のピークは2025年になります。しかし、今回はパンデミック以降の約2年という短期間で米国市場最も高い20%台となりましたから、下落に至る期間も2年間に短縮される可能性があります。すると、2024年の後半あたりが住宅価格の底値になると考えても良いかもしれません。
ダラス連銀の調査分析によれば、米国の住宅価格はローン金利の急上昇を受けて最大20%下落する可能性があると、ブルームバーグによって報道されました。
実際に20%下落すると、株価は維持していてもMBS証券(不動産担保証券)が不良化し、銀行の自己資本が大幅に目減りします。
MBS証券は、不動産ローン金利と回収を配当金にするデリバティブ(金融派生商品)です。米国では住宅ローンのほぼ100%がMBS証券になっており、売買されています。
不動産の価格が下がると、ローンのデフォルト(債務不履行)が増えて、MBS証券の売買価格が大きく下がります。
証券、債券の時価評価で、バランスシートが債務超過になった銀行はリーマンショックの時のように、レポ取引ができなくなります。
レポ取引(Repurchase agreement)とは、日本語では債券貸借取引、又は債券現先取引とも呼ばれ、主に政府証券での短期借入の一形態を指します。ディーラーは基礎となる証券を投資家に貸出(販売)し、その後すぐに、通常は翌日、わずかな金利を払い、債券を取り戻す(わずかに高い価格で買い戻す)取引です。
銀行間でレポ取引を行っていますが、貸した側の銀行は自己資本のない銀行の返済期限の延期には応じなくなります。米国の金融機関は縦横にレポ取引を行っています。一つの大手銀行が、資産の時価評価から債務超過に陥ると、相互のレポ取引の停止がドミノ倒しのように、あらゆる金融機関に普及し、「金融のシステミックな危機」が起こるのです。リーマンショックの場合がこれでした。
今回も、住宅価格が-20%以上の下落となってくると、こうした危機が発生する可能性があります。
金利の引き上げペースの減速は、市場をホッとさせているようですが、現在はそれほど簡単な環境ではないと感じています。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】
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