中国、成長目標5%に下げ 景気回復優先で改革先送り~中国の経済体制を憲法から見ておこう~【日経新聞をより深く】
1.中国、成長目標5%に下げ 景気回復優先で改革先送り
2.中国の毛沢東前と毛沢東後
中国は中国共産党が指導する社会主義体制の国家です。社会主義や共産主義といえば、経済体制は計画経済で、生産手段の私有は認められないはずです。しかし、中国には株式会社があり、株式が上場されています。また、米国の株式市場に上場している会社もあります。かつての中国は眠れる獅子と呼ばれ、計画経済で経済は停滞していました。ところが、今では世界第二位の経済大国です。
中国はいつから変化したのでしょうか。その起点は1976年といえるでしょう。1976年とは毛沢東が死去した年です。中華人民共和国の成立は1945年ですが、毛沢東が生きていた時代と、毛沢東の死後とで中国は大きく変化したと言えるでしょう。
毛沢東の時代、中国は「眠れる獅子」でした。生産は国の計画に基づき、集団で行い、人民公社がありました。社会主義や共産主義という言葉から連想されるイメージと合致するのはこの時代だろうと思います。
この時代は朝鮮戦争、反右派闘争、大躍進政策、プロレタリア文化大革命など政治的・経済的に大きな出来事がありました。要するに毛沢東時代には中国経済は低迷していました。経済的には毛沢東の時代は「失敗」だったと言えるでしょう。
1976年以降は鄧小平、江沢民、胡錦涛、そして現在の習近平が国家元首として率いてきました。このうち、鄧小平が中国経済の方向性を変えた人物です。改革開放と呼ばれる政策に舵を切りました。鄧小平に続く実力者は基本的には鄧小平の目指した路線を継承・発展させてきたと理解してよいでしょう。
改革開放政策は中国の経済体制をどのように変えたのでしょうか?
改革開放政策は、簡単に言ってしまえば、経済活動を自由にやらせて儲けは自分のものにしてもいいですよ、という政策です。改革開放によって「私欲に任せて自由にやらせた方が経済は発展する」という社会科学の経験則は揺るぎないものになりました。改革開放以降の中国の代表的な出来事としては、2001年のWTO(世界貿易機構)加盟、2008年の北京オリンピック開催、2010年の上海国際博覧会があります。そして、2010年に、中国はGDPで世界第二位に浮上しました。
3.中国の経済体制
今なお、社会主義を標榜している中国の経済体制をどのように理解すれば良いのでしょうか。憲法を手掛かりに見てみましょう。
ここで、謳われているのは、中国は社会主義国家であるということです。では、次に社会主義国の定義を見ておきましょう。
社会主義経済制度の基礎は生産手段の公有制(全人民所有制・労働大衆による集団所有制)であると謳われています。生産手段を公有するというのが社会主義ですので、当たり前といえば、当たり前です。これに対して、生産手段を私有するのが資本主義です。
中華人民共和国憲法の前文には中華人民共和国の歴史認識が書かれていますが、中国は「帝国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆し、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した」とあります。社会主義の次に目指すステージは共産主義です。現在の中国を共産主義へと導くために共産党員は活動しているとされています。
現在は社会主義であり、しかもそれは初級段階の社会主義であると明記されています。このため、生産手段の公有制は貫徹されておらず、公有制を主体としながらも、多種類の所有制が併存している状態です。つまり、現在は過渡期であるため、公有制の他にも様々な所有制(例えば、資本主義的な所有制を含む)が混在している未完成な状態であるというのが中国の自己認識のようです。
では、その未完成な現在の中国にはどのような所有制があるのでしょうか。
まず、国有企業があります。これは、社会主義国において生産手段は公有制が基本ということからすると、本来あるべき企業形態といえるでしょう。
この条文では、各国有企業にも経営の自主性があることが述べられています。国有企業に次いで生産手段が公有されているのに近い組織として、集団経済組織があります。
現在の農村における生産活動は、家族単位での請負による経営が基本とされています。かつての人民公社のような地域集団単位ではありません。農村に協同組合のようなものがあれあ、それは集団所有制です。
また、各集団経済組織にも経営の自主性があることが明確に謳われています。そして、国営企業、集団所有制の経済組織に続き、ついには私営企業までもが認められています。
個人経済や私営経済とは、生産手段を私的に所有する個人事業主や私営企業のことと解釈して良いでしょう。そして、それらは非公有制経済であることがはっきりと認められています。その上で、個人経済や私営企業は社会主義市場経済の「重要な構成部分」であるとして公認されています。
さらには、外資の参入までもが認められています。
以上をまとめると、公有制を基本としながらも様々な所有制を認めた状態というのは、国有企業、集団所有制の経済組織、私営企業、個人事業主、外資系企業などが入り乱れて経済活動を行う状態だと言えます。
ただし、中国は非公有制経済を野放しにしたわけではありません。十一条の後半にあるように、国は「非公有制経済に対して法に基づいて監督及び管理を行う」としています。手綱は手放していないのです。
現在の中国の経済制度は、中国に言わせれば「社会主義の市場経済」です。資本主義であるとは言っていません。また、計画経済が完全に捨てられたわけでもありません。現在でも五カ年期計画が作成されています。
ここまでを総括すると、こんな感じでしょうか。
現在の中国は社会主義の未熟な段階にあるため、本来は国有企業のみであるべきところ、様々な所有制の経済組織を容認して、その自由な経済活動を一定程度は認めることとする。しかし、社会主義を捨てたわけでは決してなく、真の社会主義、さらには共産主義の実現のため、非公有制経済に対して国家によるコントロールを効かせて管理する。
3.人・物・カネの調達について
経営資源は人・物・カネと言われます。これらの調達はどうなっているのでしょうか。
まず、「人」について見ておきましょう。中国の行政区画は農村と都市に分かれます。中国統計年鑑2019年版によると、2018年における居住地別の人口は次の通りです。
都市(城鎮)8億3137万人
農村(郷村)5億6401万人
先に見たように、農村ではかつては人民公社による集団生産体制が敷かれていたが、現在では家族単位の請負経営に転じていますし、副業も認められています。また、かつては移動の自由がありませんでしたが、現在では都市に移住することも可能です。農村から都市に出てきて働く人は農工民と呼ばれます。
かつては都市人口より農村人口の方が多かったのですが、2011年に逆転しました。ただし、人の体は動いても戸籍の移転には制限があります。そのため、都市に移り住んでも戸籍は農村に残ります。そして、各種の行政サービスは戸籍に基づいて提供されるので、戸籍を農村に残したまま都市で働く農工民には数々の不利益があることが問題とされています。
都市の場合はどうでしょうか。かつては職業選択の自由はありませんでした。各人の就職先は国が決めていました。しかし、現在では職業選択の自由があります。働き手は期間を定めた雇用契約を企業と締結します。社会保険制度もあります。このような労働者は契約工と呼ばれます。
以上のように、農民工と契約工がいて、労働市場を通じて「人」の調達が可能となっています。
次に「物・カネ」の調達についてはどうでしょうか。
国家にとっての重要資産に関しては次の条文があります。
特定の天然資源は国有と定められています。残りの「物」についてはどうでしょうか。
まず、土地については国有又は集団所有です。つまり、中国では土地を私有することはできません。
都市の土地は国有です。農村の土地は集団所有です。ただし、土地の使用権は譲渡することが可能です。土地を所有する権利は買えないけれど、期間を定めて土地を利用する権利は他人から買うことができるため、実質的に土地を市場で調達すること可能です。
尚、農地の転用は原則的に禁止されています。農地面積を確保するためです。
土地以外の財に関しては次の条文があります。
中国は社会主義の国ですが、(生産手段を含む)私有財産は堂々と認められています。私有財産は国が保護するとまで述べています。だから、企業は原則的にモノを市場で自由に調達できます。
「カネ」についてはどうでしょうか。
中国にも民間銀行があります。証券市場もあります。そのため、企業は「カネ」を市場から調達可能です。国に資金を出してもらわなければ事業を始められないというわけではありません。
以上のように、いくつかの制約はありますが、中国の企業は人・物・カネの経営資源を市場で調達できるようになっています。しかし、国として社会主義の旗は降ろしていないと主張はしています。
4.企業の種類と国有企業
中国の経済は、公有制を主体としながらも多様な所有制を認めている体制だと言いました。それでは具体的にどのような所有制の企業がどれくらいあるのかを確認しておきましょう。
中国統計年鑑2019年版によると、2017年における所有別の企業法人機関数は次の通りです。
国有 32万社(1%ト)
集団所有 24万社(1パーセント)
私有 1620万社(89%)
まず国有企業ですが、これは社会主義が意図した企業のあり方です。しかし、毛沢東時代もそれ以降も、国有企業は総じてうまくいきませんでした。
その為、国有企業を改革する必要が生じました。一つには所有と経営を分離して経営の自由度を高めて経営効率を上げる必要がありました。もう一つには、企業規模を大きくして経営効率を上げるため、海外の証券取引所に上場することも含めて資本を集める必要がありました。
そこで、考えられたのが、国有企業を株式会社化するという方策です。
有限責任会社と株式有限会社は1993年に制定された中国の会社法(中国語では「公司法」)により新たに設けられた会社形態ですが、それは既存の国有企業を改革するためのものであり、民間が会社を作りやすくするためのものではありませんでした。
国有企業と似た言葉に国営企業があります。この二つの言葉は同じように思われがちですが、違うものです。
かつては国営企業しかありませんでした。国営企業は当然ながら、国が所有し、国が経営していました。
ところが、国営企業の経営はうまくいかなかったので、所有と経営を分離して改革することにしました。経営の自立性を高めることにしたのです。企業を所有するのは国だが、経営については経営陣に任せることにしたのです。これはちょうど株式会社において、会社を所有するのは株主だが、経営については株主が取締役に委託しているのと同じ構図です。
その為、中国の国営企業は途中から国有企業と呼ばれるようになったのです。
そして、国有企業には二つの意味があります。一つは、国がその企業を完全に保有しているという意味です。株式会社で言えば、全ての株を国が保有している状況です。
これと並んで、国が会社を100%所有していなくても、30%超の持ち分を保有している場合は、その会社は国有企業と呼ばれる場合があります。この場合、70%未満の株は個人や私有企業、外国人投資家が保有していると思われますが、国有企業と呼ばれます。(ただし、前述の国有企業13万社という数字は、国が100%の持ち分を保有している企業と思われます)
以上のように、中国は自らが社会主義国であると主張することにおいては揺るぎありませんが、公有制を主体としながらも、社会主義が未熟だからという理由で私営企業を許容しており、その私営企業が経済活動の大半を担っています。
社会主義でありながら、資本主義を採り入れようとしているので、必要以上に複雑になっているのが中国の経済体制です。
習近平国家主席の最近の動きは、もしかすると、本来の社会主義に沿って、全てを公有制にしようとする動きなのかもしれません。
今後、中国が共産党政権の管理下に企業経営を置こうとする動きを強めれば、中国経済はその強さを失っていき、毛沢東時代に戻っていくのかもしれません。
習近平国家主席三期目の動きは、今後の中国の経済発展がどうなるかを決めることになるでしょう。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】
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